デンソー、日進の先端技術研究所を公開…加藤専務役員「自動車産業は100年に一度の転換期」

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デンソー 先端技術研究所(愛知県日進市)
  • デンソー 先端技術研究所(愛知県日進市)
  • デンソーの加藤良文 専務役員(技術開発センター担当)
  • ウエアラブル脳血流センサを使った生体情報センシングの研究
  • デンソー先端技術研究所のテーマはエレクトロニクス、材料、HMI,バイオなど多岐にわたる
  • デンソーの先端技術開発ロードマップと技術開発体制のイメージ図。先端技術研究所は5年から15年先を見すえる
  • AI技術を車載システムに実適用する取り組みについて説明する先端研究4部の奥野栄一氏
  • AI技術を車載システムに実適用する取り組みについて説明する先端研究4部の奥野栄一氏
  • 人間はシミュレーターで非自動運転車を運転操作し、様々な状況を試すことができる

デンソーは9月1日、愛知県日進市の「先端技術研究所」を報道関係者に公開し、次世代パワーデバイス用の新素材、AI(人工知能)、生体情報センシングなどの研究開発について見学会を行った。

「100年に一度の転換期」に対応する

1991年に設立された同研究所は、機能材料、半導体、電子デバイス、AI、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)、バイオ分野などの研究開発を行う拠点。同社の研究所は、愛知県刈谷市の本社内のほか、ソフト関係の研究開発用に東京(渋谷、日本橋)と横須賀にもあるが、日進の研究所が最大規模となる。超高精度の機械加工施設やクリーンルームを備えるほか、ものづくりに長けた技能系スタッフがいることで試作品の製作も所内で一貫して行えるのが特徴だ。

同研究所は名古屋市の東部、日進市の緑豊かな丘陵地にある。東名三好ICから車で10分、愛知池のほとりに広がる8万1000平方mの敷地には、研究棟、実験棟、クリーンルーム棟が立ち並び、のべ床面積は4万3000平方mに及ぶ。スタッフは7月時点で約540名で、内訳は技術系(研究者)が約360名、技能系が約180名。

なお、デンソーの子会社で、主にパワートレインの研究開発を行うSOKEN(今年4月に日本自動車部品総合研究所から社名変更)も、今年から愛知県西尾市の本社機能を同研究所の敷地内に移し始めており、2018年4月に開所予定。エレクトロニクスを得意とするデンソーと、モノづくりや燃焼解析などのメカニクスに強いSOKENとの距離を物理的に縮めることで、シナジーを狙うという。

デンソーの加藤良文専務役員は「自動車産業は100年に一度の転換期にある」とし、クルマの電動化、自動運転、コネクテッド、IoTといった流れに素早く対応するには、10年から15年ほど先を見すえた先端技術の研究開発を社内で行うことが重要だという認識を示した。研究所の名称を今年7月に従来の「基礎研究所」から「先端技術研究所」に変更した意図もそこにあると言う。同時に、オープンな研究開発も重要視しており、現在も国内外の大学や企業と共に、100件を超える共同開発を行っているという。

全体説明が終わった後、現在行われている研究開発の見学会が行われた。今回公開されたのは、自動運転での状況判断を想定したAI研究のほか、ドライバーの脳血流計測による生体情報センシングの研究、そしてハイブリッド車や電気自動車などのインバーターに使うSiC製ウエハの開発、以上の3つだ。

AIを使って自動運転で合流を行う

まずは世間で話題のAI技術を見学。デンソーでは2016年8月にAIに関する研究開発プロジェクトを発足しており、深層学習(ディープラーニング)、ドライバーの知り得ない危険の予測、故障診断、ビッグデータ解析などで研究を進めている。

その中から今回AI関連で披露されたのは、非自動運転車のクルマが連なって走る車線に対して、自動運転車が合流していく際の状況判断にAIを使う研究。車間の空き具合や非自動運転車の動きに応じて、一種の「かけひき」も行いながら、車線変更のタイミングをはかる。人間が運転するシミューレーターは非自動運転車の1台という想定で、自動運転車を前に入れてあげることもできるし、あえて入れないこともできる。こちらの動きを見せながら次の手を考えさせるという点では、まさに碁や将棋のコンピューターソフトと同じだ。

なお、デンソーのAI技術に関しては、今年10月14日に「機械学習の最前線……IoTと自動運転が、新しいモビリティ社会を切り拓く」と題した一般向けセミナーが東京で開催されるので、興味のある人は参加してみるといいだろう。

脳血流計測で「感情」もセンシング

その次に見学したのは「生体情報センシング」。市販車ではすでに、ドライバーの顔画像や目線の向きなどを捉えて眠気や集中力低下を検出し、警告を与えるといったものが実用化されているが、ここで研究されているのは前頭葉における脳血流の状態を計測することで、感情や不注意状態などの「人の状態」を検知するというものだ。

実験では、シミュレーターを運転するドライバーに帽子タイプのウエアラブル脳血流センサーをかぶってもらう。感情が変化することでホルモンが分泌され、脳表面の血流が増える様子をセンサーは4カ所で捉える。

「眠気や不注意を検知して警告するだけなら、脳血流まで計測しなくてもいいのではないのか?」と質問すると、この研究はむしろ自動運転もしくは高度な運転支援を受けて走行中の乗員を想定したもので、より快適に、壮快に、リラックスしつつ眠くならない状態にすることが目標とのこと。そう聞くと、なにやら心の中をのぞかれそうな気がして複雑だが、将来は車載AIが乗員の気分を察して、楽しませたり、励ましたり、アドバイスしてくれたりするのかもしれない。

高品質SiCウエハで電動車の燃費・電費を改善

次世代パワーデバイス(パワー半導体)に使うSiCウエハの研究については、実際にSiCを2300度C以上の高温で昇華・再結晶化させる成長炉(昇華炉)を備えた実験室で見学できた。

現在、量産ハイブリッド車やEVに使われるインバータには、主にSi(シリコン)製のパワーデバイスが使われているが、これを電気抵抗の小さい高品質SiC(シリコンカーバイド)製ウエハを使った次世代パワーデバイスに置き換えることで、従来品で10~15%ある電力ロスを5分の1程度に減らし、燃費・電費をアップできるという。

問題は、結晶欠陥の少ない高品質のSiCウエハをいかに歩留まりよく作るかで、デンソーではSiCウエハの元となる種結晶を作るうえで、結晶欠陥の少ない面を7回ほど繰り返し成長させる「高品質種結晶作成技術」(RAF法:Repeated A-Face法)を豊田中央研究所と共同開発して特許を取得。他社の市販SiCウエハに比べて、結晶欠陥を4分の1程度に減らすことに成功したという。このデンソー独自の製法によるSiCウエハの開発は、すでに最終段階に入っているとのこと。

クルマの「使われ方」自体は急激に変わるかもしれない

戦後まもない1949年に設立されたデンソーは、今や連結子会社190社のグループ全体で従業員数15万人以上、年間売上4兆5000億という超大企業だ。製品別の売上は、エアコンなどのサーマル事業が30%、パワートレインが25.6%、情報&安全システムが16.6%など多岐にわたる。

そのデンソーが「100年に一度のイノベーション」が起こる中、先端技術の研究開発に注力しようとしている。加藤専務役員は挨拶や質疑応答の中で、「AIを使った自動運転といったものは分かりやすいが、これを実現していくにはいろいろ難しいところがある。また、半導体という分野も、ある日いきなり変わるということはなく、必ず予兆がある。一方で、ウーバーやリフトなどのライドシェアサービスや、シェアードモビリティ、AIによる配車サービス、eBayなどのオンラインマッチングサービスなどを見ていると、クルマの使われ方自体は非常に短い時間で、例えば5年くらいで変わってしまう可能性がある」と何度も危機感を強調した。「そう考えていくと、じっくり腰をすえていく基礎研究と同時に、ショートサイクルで行っていくAI技術も我々のような企業には非常に重要。海外にいいものがあれば、共同開発も考える。また、AI関連や半導体関連の人材は、あらゆる産業で取り合いになっているが、人材獲得は中途採用も含めて積極的に行っていく」。これらの言葉に、今後業界を訪れる大きな変化の予兆を見た気がした。

《丹羽圭@DAYS》

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