【インタビュー】ジュネーブ条約の独自解釈へ自動運転の風向きが変わった…明治大学教授 中山幸二

2020年の東京オリンピック開幕まであと3年となった2017年夏。自動運転の実現を掲げる政府のロードマップに対して、自動運転を可能とするための法整備が急務となっている。明治大学法科大学院の中山幸二教授に、法整備の進捗状況や問題点を聞いた。

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明治大学法科大学院(民事訴訟法)中山幸二教授
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2020年の東京オリンピック開幕まであと3年となった2017年夏。自動運転の実現を掲げる政府のロードマップに対して、自動運転を可能とするための法整備が急務となっている。明治大学法科大学院の中山幸二教授に、法整備の進捗状況や問題点を聞いた。

ジュネーブ条約の改正は止まっている

---:2020年に向けて、法整備の進捗はいまどのような状況でしょうか。

明治大学法科大学院教授(民事訴訟法)中山幸二氏:2013年の秋から日本でも法整備の検討が本格化し、2015年には警察庁で法律家を入れて議論が始まりました。また昨年は国交省、経産省でも、法律学者を入れて関連法律の検討を始めたところです。

きっかけとなったのが、欧州諸国が参加するウィーン条約の改正です。いっぽうで日米が参加するジュネーブ条約の見直しは、加盟国の3分の2の同意が得られず、改正の動きが止まってしまっています。アフリカ諸国など、積極的でない国の同意が得られていないからです。そのため、国際的なデファクトスタンダードとしては、システムが運転することを許容すると解して、国内法の整備を進めるのが得策だと考えます。

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警察庁が大きく舵を切った

中山氏:なぜなら、クルマを開発している国は限られるからです。ジュネーブ条約を改正しなければ検討が進められない、では厳しい。ジュネーブ条約で明示的に規定されていない部分について、アメリカは、州の権限において州法の整備を独自に進めています。いっぽうで、順法精神が強い日本では、きちんと規定するなり改正するなりして進めようとしていました。国際条約に対する解釈が日本とアメリカでは違うのです。

ただ今回は、警察庁が舵を切りました。日本でもジュネーブ条約を独自解釈し、公道での自動運転の実験は届け出なく実施できるようになりました。それまでは非常に厳しかったのですが、2013年のITS世界会議から風向きが変わりました。

運転手は車内にいなくてもいい、という解釈

---:ジュネーブ条約と自動運転は、どの部分が矛盾するのでしょうか。

中山氏:ジュネーブ条約では、運転手がいなければならないということは規定されていますが、WP1(国連の道路交通安全作業部会。ジュネーブ条約やウィーン条約の改正が議論されている国際会議体。)において、2016年4月、運転手そのものが車内にいるかどうかに関わらず、現行条約の下で実験可能となりました。つまり遠隔操作型の自動運転が実験できるようになりました。日本の警察庁が提案したと言われています。

これによって、ずいぶん先だと思われてきた無人の自動運転がにわかに活気づいてきました。それまでは、駐車場内で自動駐車の実験や、ショッピングモールの敷地内など、私有地で実証実験をしていましたが、遠隔監視であればコントロールセンターで監視できるようになります。これによって、現実化、市場化が一歩進んだと言えます。2年前までは考えられない進み具合です。

レベル3に存在する大きな課題

---:いっぽうで、レベル3における責任の所在をどうすべきかという議論があります。

中山氏:レベル3で一番難しいのは、権限移譲が発生することです。最近の調査結果によると、何時間か自動運転で走ると、人間は覚醒状態を保てなくなるといいます。そのような状態で、すぐに権限を委譲するのは困難でしょう。

そのため、レベル3はフライトレコーダー的なものが必要ではという議論があります。ECUのログやセンシングデータを標準化して、原因究明のためにデータ解析をしなければ、という議論です。例えばドイツでは、今年5月の法改正で、事故の瞬間に、権限がシステムにあったのか人間にあったのかを判別できるように義務付けられました。この決定は、日本にも影響があるはずです。

---:2020年まであまり時間がありませんが、法整備は間に合うのでしょうか。

中山氏:法整備は今年と来年が大きな山場でしょう。2020年に向けて、自動運転技術を世界にアピールするため産官学挙げて取り組んでいます。国のストラテジーだからです。現状では、論点の洗い出しが進んできている状況と言えます。これを各法案に落とし込んでいくことになります。

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《佐藤耕一》

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