【ボルボ V40クロスカントリー 3600km試乗 後編】「地味っ子高級車」の妙味をどう伝えるか…井元康一郎

試乗記 輸入車
ボルボV40クロスカントリー D4 Summum。薩摩半島南端の火山、開聞岳の山麓にて。
  • ボルボV40クロスカントリー D4 Summum。薩摩半島南端の火山、開聞岳の山麓にて。
  • ボルボV40クロスカントリー D4 Summum
  • 開聞岳の山麓から海を眺める。遠方の陸地は大隅半島の本土最南端、佐多岬。
  • 全幅は1800mmと広いが、車両感覚はつかみやすいほうで、狭い道でもストレスは小さかった。
  • 宮崎・延岡から神話の森、高千穂方面へ。自動車専用道路のクルーズは快適だった。
  • 宮崎・日之影町にて。
  • ボルボV40クロスカントリー D4 Summum
  • こういう山道のツーリングにはとても向いていた。

ボルボのCセグメントツアラー『V40クロスカントリー D4 Summum』で東京~鹿児島間を3600kmあまり周遊した。本編ではパワートレインのパフォーマンスや燃費、アメニティ、安全装備などについてリポートする。

爽快感のあるパワートレイン

試乗車のパワートレインは190ps/400Nm(40.8kgm)を発生する2リットル4気筒ターボディーゼル「D4」と8速ATの組み合わせ。ディーゼルの燃料噴射システムや排ガス浄化装置など基幹システムのサプライヤーはデンソー、「8速ギアトロニック」と称するATもアイシンAWとの共同開発と、日瑞合作と言えるこのパワートレインの出来はとても良いもので、V40クロスカントリーに高い動力性能を与えていた。

筆者は2014年夏、同じシステムを搭載する1クラス上のステーションワゴン『V60 D4 R-DESIGN』で東京~鹿児島を周遊したが、1690kgという車重を跳ね返し、走りは爽快至極だった。V40クロスカントリーの試乗車も1560kgとCセグメントとしてはかなり重いほうだが、それでもV60より130kg軽い。その車体をV60と同じパワートレインで走らせるのだから、動力性能に不満が出ようはずがない。制限速度の低い日本では本拠地ヨーロッパ市場で用意されているD3(150ps/320Nm)でも十分と推察され、そのぶん価格が安いグレードも出してもいいのではないかと思ったくらいだった。

ドライブモードはシフトセレクターレバーのDレンジとSレンジの2種類。両者の違いはかなり明確で、Sレンジはスロットル開度が大きめになるだけでなくシフトアップの回転数も高くなるため、もっぱら山岳路などでパワードライブをするためのものという感があった。ただ、Sレンジ時にパドルシフトを操作するとキャンセルするまではずっとマニュアル状態になるため、自分でシフトアップ・ダウンをするならスロットルレスポンスが良く、爽快感を味わえるS固定でドライブするのも悪くないと思われた。

面白いのは両モードに共通して使える省燃費制御「ECO+」。このボタンを押すと、エアコンがエコノミー制御となるほか、65km/hあたりより上の速度域で走っているときにスロットルを全閉にするとトルクコンバーターがリリースされ、空走状態になる。その間はエンジンの燃料カットは効かないが、エンジンブレーキによる失速がないため、クルマの転がりははるかに良くなる。エンジンブレーキがかかると失速するくらいの緩い下り坂でもスロットルを踏まずにスピードを維持できるので、エコランをする場合には有用だろう。

このあたりの基本特性は他のボルボのディーゼルモデルと同じなのだが、細かい制御については差別化されていた。最も違いが大きく感じられたのは変速機の制御。V40クロスカントリー特有の挙動は、おおむね30km/h以下の微低速域で走るときにトルクコンバーターのロックアップが限定的にしか行われず、ダイレクト感に乏しいことだった。

ATのセッティングが活きるシーン

ドライブ当初は他のモデルのように積極的にロックアップしたほうがプレミアムセグメントらしい気持ち良さを出せるのではないかと疑問を持ったのだが、鹿児島に向かう途中、このセッティングが有効なシーンに出くわした。

岡山と鳥取の県境に近い山間の湯原温泉に立ち寄ったのだが、雨予報が外れ、やおら雪が降り出した。山陰は雪は降るものの北陸以北のような深雪地帯ではないというイメージを持っていたが、それは大雪の頻度が少ないというだけのことで、日本海から雪雲が押し寄せてきたときの降雪の威力は豪雪地帯と変わるところはなかった。最初はちらつく程度であった雪はほどなく前方視界がヘッドランプに照らされた雪で真っ白になるくらいの降り方となり、路面もあっという間にシャーベットを通り越して白い雪が浮き始めた。

そういう低ミュー路を低速でクルーズするようなシーンでは、ロックアップの緩いATのセッティングは実に具合がよかった。スロットルの踏み込み量を少し増やしたときにトルクコンバーターを介してトルクが徐々に盛り上がるため、駆動輪にかかる力がこの先どうなるかということを予想しやすい。トラクションコントロール頼みでドライブするのに比べ、安心感ははるかに高かった。

もっとも、この動きはドライ路面を低速で走るときにはATが迷うような挙動をしているように感じられるというネガティブ面もある。滑りやすい道路を走る機会がめったにないというカスタマーにとってはもう少しシャッキリした味のほうが良いこともあるだろう。その場合、ボルボのハイパフォーマンス部門、ポールスターのエンジン制御プログラムを組み込むのが良い対策になる。

筆者はたまたまこのロングツーリングの直後、そのプログラムが実装された「V40 D4 R-DESIGN」というディーゼルスポーツハッチをテストドライブしたのだが、エンジンパワーだけでなく8速ATの制御が劇的に変わり、スパッ、スパッというダイレクト感たっぷりの変速フィールであった。乗ってみたかぎり燃費への悪影響は皆無に等しかったので、ファッションとしてクロスカントリールックを求める場合、かなりおススメのカスタマイズである。

燃費を気にせずに走っても

燃費は動力性能を勘案すると十分に良かった。燃費を計測した区間は総計3595.5kmで、総給油量は188.2リットル。実燃費は19.1km/リットルであった。実燃費に対する平均燃費計の乖離率はおおむね6~7%の過大表示であった。

東京で満タン給油後、最初に燃料残量警告灯が点灯したのは929km。ちなみにボルボの警告灯は他の欧州車と同様、2段階になっており、オレンジが注意、赤が警告である。日本車の警告灯点灯に相当する赤ワーニングになる前に1017.2km走行地点の山口・岩国で給油した。給油量は54.4リットルで実燃費は18.7km/リットル。ボルボV60が東京~鹿児島間を無給油で走破したのにはほど遠かったが、それでも長々と山岳路を走りながら“1000kmクラブ”入りは余裕で達成できた。

その後の燃費はチョイ乗りが多くて燃費を落とした鹿児島エリアでは15.5km/リットル、ロングランでは19~20km/リットルといったところ。旅の後半、大阪の吹田でフルタンクにした後、試しに神奈川の相模原までの499.9km区間において、シフトセレクターをSにし、変速をAT任せにせずパドルシフトを使ってマニュアル運転してみたところ、そこそこ良いペースで走っても実燃費は23km/リットルを超えた。クルーズ時は大体1300~1500rpm、登坂時は1600~1800rpmくらいになるようシフトチェンジすると燃費が伸びるようだった。

ちなみに大阪で給油後、阪奈道路の急勾配の手前までの区間で数十kmだけエコランを試してみたが、その間は市街地と郊外路を合わせて平均燃費計値で27km/リットル台をキープできた。そんな走り方が似合うモデルではないが、エコランを頑張ればそれなりに報いられるものと思われた。

ボルボデザインの“上手さ”を感じる装備とインテリア

ロングランを快適なものにする居住感、アメニティと安全装備について。まず居住感だが、これは少人数ドライブに限れば十分すぎるほど良かった。フロント、リアとも広々とした感じではないが、落ち着いたインテリアデザインと機能的に配置された各種装備がもたらす囲まれ感は、ボルボデザインの上手いところだと感じられた。

試乗車はタン色のレザーインテリアを持っていた。最近、レザーの色調については日本のレクサスが頑張っているのだが、ボルボのタンカラーはそれに劣らず絶妙な色合いで、プレミアムセグメントの生命線である“良いもの感”はなかなか高かった。

また、試乗車のルーフはオプションのパノラマガラスルーフが着いていたが、これは室内を明るくするのには実に効果的であった。シェードは全遮光ではなく半透過タイプで、閉めていても室内の雰囲気はコージーだった。鹿児島では後席に人を乗せることもあったが、後席から空が見えるのが気持ちよいと、おおむね好評であった。問題は日本の真夏への適合性がどうか。今回は冬季ドライブであったため体感はできなかったが、ガラスは一応、高熱線吸収タイプである。

車内の静粛性はプレミアムCセグメントとして標準的。D4ディーゼルエンジンはエンジン本体の騒音は結構大きく、低負荷領域でもガラガラというディーゼル音を鳴り響かせるが、車体側の防音が素晴らしいため、室内では気にならなかった。外界の騒音遮断はボディの遮音材や窓ガラスに相当良いスペックのものを使っているとみえて、驚くほど良かった。良すぎて駐車場の係員さんが誘導してくれるときなど、窓をちょっと開けないと何といっているのか聞こえないくらいだった。

オーディオはハーマンカードンの10スピーカーが標準装備で、総出力は650W。このオーディオのサウンドチューニングはシックで、耳に優しい系であった。フルボリュームにしてもパワー感はそれほどでもない一方、巨大なスーパーウーファーなどを使っていないわりには低音域まで伸びがよく、クラシック、ジャズ・ニューエイジ、ロックまでバランスよく再生した。音の解像感は明瞭で、車外騒音の遮断が優れいていることとあいまって、それほどボリュームを上げずとも音楽の耳への入りはナチュラルだった。

ドライブのリスクを減らしてくれる安全装備

安全装備はボンネットエアバッグ、全車速追従クルーズコントロール、レーンキープ補助、クルマを駐車場から出すときの後部警戒システム等々、11種類が標準装備される。この「インテリセーフ」と称する安全システムパッケージは、ドライブにおけるリスクを減らしてくれた。

能動安全で最も有用に感じられたのは言うまでもなく全車速追従クルーズコントロール。前のクルマの速度にぴったり合わせてせわしなく加減速するのではなく、人間が目測で車間を取るようにある程度のバッファを持たせて速度調整するようプログラミングされていて、体感へのマッチングは良好だった。また、インパネのデザインをエコ表示に切り替えると先行車のスピードがわかるようになっており、追従するか追い越すかの判断を早めにできるという嬉しい工夫もあった。

ただ、今日における普及価格帯のカメラやレーダーの性能の限界もあって、車線認識や障害物をすべて検知できるわけではないので、過信は禁物。とくに幹線国道や山岳路でよく見かけるセンターライン上のプラスチックポールはほとんど見えていないようだった。ボルボのインテリセーフはスバルと並んで前方監視の性能では定評があるのだが、それでもまだまだ技術向上の余地は大きいと言える。

また、ハイ/ロービームを自動的に切り替えるアクティブハイビームは、インテリジェント配光機能を持つV60のフルアクティブタイプが驚異的に高い対向車、先行車の検出精度を示したのに比べると見劣りした。V60のようなヘッドランプが付けば、ハイテク感はさらに高まるであろう。

まとめ

V40クロスカントリーは、悪路を走るようなクルマではないが、良好な燃費、高い動力性能、Cセグメントでは並ぶもののないほどの疲労の少なさなど、コンパクトな高級車としての美点を数多く持ち合わせていた。難点はサスペンションがいささか固すぎ、しなやかさに欠けことだが、それが気にならない人、とりわけクルマで旅をしたりヴァカンスに出かけたりすることが好きなアクティブ派のカスタマーにとっては大いに狙い目になり得るモデルだった。

ボルボは今や、欧州でもレッキとしたプレミアムセグメント専業ブランドとなっているが、メルセデスベンツ、BMW、あるいはジャガーのように、他人にひけらかすタイプのブランドではない。実際、V40クロスカントリーも細部のフィニッシュはなかなか美しく、洒落っ気もあるのだが、デザインそのものは抑制的。いわば“ステルス高級車”のようなポジショニングなのである。

ボルボが意図してそうなったかどうかはさておき、この立ち位置はプレミアム市場ではなかなか面白いところだ。かつて、その分野には日本のレクサスがいたのだが、レクサスは「ファッショナブルなブランドを目指す」(レクサスインターナショナル責任者・福市得雄氏)と言い残して派手やかな世界へと去っていった。今や少数派となった地味っ子高級車の妙味をユーザーに上手く伝えることができれば、クルマの中身がきっちりついてきているだけに、ボルボは世界でもっと飛躍できるであろう。そんなことを感じさせられた3600kmドライブであった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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