先代から誕生し、日本国内でも3000台を販売したというMINI『ジョン・クーパー・ワークス(JCW)』。コードネームF56のMINIをベースに作られた新しいJCWは、ほとんど別物と呼べる領域にまで高性能化していた。
字面だけを見ると性能的にはあまり変わっていないように思うだろう。出力アップは+10%であり、トルクアップは23%だ。そして0-100km/h加速は0.6秒の向上に最高速度は+10km/hである。だが、乗ってみるとそんな数字はどうでもよく思える。
BMW傘下になったMINIは「ゴーカート感覚」というフレーズを用いてその俊敏な動きを遡及してきた。だが、果たして新しいMINIにその感覚があるかといえば、イメージとしてはもっと別なところに行ったような気がする。もちろん軽快でシャープなハンドリングだとかキビキビ感は従来通りだが、ニューJCWはもっとずっとどっしりと構え、ずっと大型車に乗せられているような感覚に支配された。
ひとしきり走って、改めてクルマを眺めて驚かされたのがブレーキである。ホイールが大きく外に張り出し、そのためにホイールオープニングの無塗装アーチに、上から見てホイールが見えないよう小さなリップが付けられていた。そこに仕込まれたのはブレンボ社と共同開発された4ピストンキャリパーと巨大なローターを持つブレーキだった。
ブレーキを大型化したことで、ホイール形状を変える羽目になり結果として外に大きく張り出したというわけである。おかげでこれ、かなり良い。試乗の舞台となった箱根ターンパイクの下りでも何の不安もなくガツンと踏める。それは敢えてドライビングランプの取り付けスペースを潰してまで、ブレーキ冷却ダクトを装備したことにも表れている。
エンジンは従来の1.6リットルユニットから、2リットルのツインパワーターボユニットに換装された。これで紛れもないBMWの一員になった。さすがにスペースの問題化はたまた持っていないからか、トランスミッションは依然として6速のままである。もちろんATとMTの設定があるが、今回の試乗はATのみ。
乗り出す前に簡単なコックピットドリルを受けたが、今回は新たにヘッドアップディスプレイが付いた。そしてマニュアルモードにすると、そのヘッドアップディスプレイにセレクトしているギアの数字が大きく出る。まあ、シフトタイミングの表示はとりあえずいらないかな…とも思えたが。
F56からノーマルクーパーでもドライビングモードの選択が可能だが、こいつをスポーツにしてやれば俄然やる気の出る足やステアリングの設定に変わる。そして今回感心したもう一つのポイントが、非常に快適なシートの作りとエクゾーストサウンドだ。専用のシートはヘッドレストを一体化したいわゆるはいバックタイプ。大きく張り出したサイドサポートと肉厚なクッションによって、上下左右ともに囲まれ感が強くサポート性、快適性共に極上であった。そしてエクゾーストサウンド。専用のスポーツエクゾーストシステムはちょっと押し殺したいい感じのサウンドをまき散らし、音に酔うことが出来る。
少なくともかなりのハイペースで飛ばしている限り、運動性能と乗り心地の関係は絶妙だ。この足でこの乗り心地かよ…と感心していたが、敢えて試乗コースから外れた街中で試した限り、やはり突き上げ感は相当なもので、いわゆる町内回り程度のスピード域は苦手としていることが分かった。
たとえオプション設定されるダイナミックダンパーコントロールがついていても、そこまでは面倒見切れないということだろう。しかし、ネガを感じたのはその一点だけ。このクルマに不満点はない。あくまでハードウェアとして。一方で今や常識なのかもしれないが、お値段の方は素の状態でMTが398万円、ATは415万円。試乗車のように18インチアロイホイールやドライビングアシスト、パーキングアシスト、ダイナミックダンパーコントロール等々オプションを加えるとほぼ500万円のミニが完成する。クルマは素晴らしいが、費用対効果は?? 普通のミニでいいやというのが個人的な結論だった。
■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。