【川崎大輔の流通大陸】「地域の町医者」めざす、オートバックスのタイビジネス

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オートバックスのタイビジネス
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2015年4月、オートバックスはタイに6店舗目をオープンした。2014年よりタイにおける急速な店舗拡大を率いている(株)オートバックスセブンのタイ現地子会社SIAM AUTOBACS Co.,Ltdの国分雅樹社長に、タイにおけるオートバックビジネスの魅力と課題について話を聞いた。

◆「総合病院」ではなく「地域の町医者」を目指したい

タイでカー用品販売とメンテナンス事業を行う魅力は、「近隣諸国とのつながりに大きな可能性を感じられるタイの地理的要因」と国分社長は考えている。アセアン経済共同体(AEC)による域内貿易自由化とアセアン域内の自動車の普及によって、メンテナンスビジネスの市場が拡大されてくるだろう。タイはアセアン諸国の中心という優位な地理をいかして近隣諸国にむけての物流中心拠点へとなる可能性がある。

オートバックスは、2000年6月にタイで1号店を設立し、2004年に2号店を出店後2013年までに4店舗体勢にとどまっていた。進出当初の大型店舗から徐々に小型店舗での出店へと戦略を変え、最近出店数の拡大にむけアクセルを踏み始めた。紆余曲折の中、たどりついたのは「地域の街の医者さん」のような存在。お客様の近くにいつもいて、地域密着しながらしっかりとした対応をしてくれる存在だ。

日本のオートバックスは価格破壊を打ち出し、大きな店舗で幅広い品ぞろえの店舗を目指していた。「かつての日本のオートバックスには顧客は遠くからも訪れており総合病院的な存在であった」と、国分社長は指摘する。大きな店舗は多店舗展開をするのにコストと時間がかかり、今となってはこれをタイでの差別化材料につかうのは難しい。一方、オートバックスが目指すタイ人にとって魅力の店舗は、お客様の近くにいつもあるお店だ。良くみると日本ブランドで高い品質で良い製品。より地域密着がしやすい小型店舗の必要性を感じ、将来のアセアン市場を見据えながらタイで新しい店舗づくりを国分社長は目指している。

◆スタッフとしての基礎部分の育成が急務

タイに進出した多くの日系企業と同様に、オートバックスでも従業員の確保、そして彼らの継続的な育成が大きな課題となっている。国分社長は「地域に密着して多店舗化していくとなると、技術や知識だけではないスタッフとしての基本部分の教育がより一層重要になる」と指摘する。亜熱帯の温暖な環境で育ってきた人々は概してのんびりとしている。「決まった制服を着よう。」「ビーチサンダルで接客は駄目だ。」「シャツはズボンの中にいれよう。」などという日本の常識が、タイではなかなか浸透しない。

タイ人を理解する上で鍵となるキーワードは“3S”であると、私自身がタイに駐在している時学んだ。サバーイ(心がおだやか。心身ともに健康)、サヌック(心がうきうきする。楽しい)、サドゥワック(便利、肉体的な負担や苦労を軽減する)というタイ語である。

彼らが、マイサバーイ(おだやかでない)、マイサヌック(楽しくない)、マイサドゥワック(快適じゃない)といったら要注意だ。一般的に自分が認められてないという時にこのような言葉を発する。翌日に職場に来なくなることも日常茶飯事だ。従業員をしっかりと囲い込みながらどのように継続して教育をしていくのかは経営上の重要なポイントの1つとなろう。

◆リピート顧客の確保がポイント

更にオートバックスでは顧客を囲い込みリピーターを育てていくための販促活動が課題だ。バンコクの郊外をタクシーなどに乗って走ると、小さな独立系の修理工場が多いことに気が付く。彼らはメーカー純正品ではない非純正部品やコピー部品をつかって、正規新車ディーラーより安い値段で修理・点検を行っている。一方、オートバックスは、メーカー純正品や優良部品などをつかい、正規新車ディーラーでの修理・点検と独立系との間の中間層以上のタイ人をターゲットとしている。

一般的にタイでは新車のメーカー保証期間が切れると、独立系の修理工場に流れていってしまう。新車ディーラーでは新車販売後の修理・点検への販促活動がまだ乏しいメーカーが多い。そのため、しっかりとした修理・点検のための販促活動を行い、独立系の修理屋との差別化を図っていくことで、オートバックスにとっては顧客を獲得できる環境である。

多額の広告宣伝費費用をかけるテレビや新聞などのマスマーケティングよりも、ワントゥワンマーケティング、つまり顧客に対して個別にマーケティングを行っていく方法を採り、リピート顧客を増やすことがポイントとなる。SNS大国といわれるタイ。約6600万人の人口の中で、Facebookの利用者が2200万人を超え、LINEに至ってはユーザー数が2700万人とまでいわれている。このような市場環境とツールを活用することでどのようにターゲット顧客を囲い込めるかである。

◆アセアンビジネスは経験に勝るものなし

8年近くの私自身のアジア駐在経験から、アセアンビジネスは知識やデータの束ではなく「自らで感じる力」で支えられていると思っている。タイビジネスの経験を通じて感じるものに「活気」と「変化」がある。日本から失われてしまった、より良い生活をしたいと思う人々の、素朴な意欲がこれらの根源にあることは間違いない。そしてこれは自らタイビジネスを経験することでその温度感を理解することになる。

日本国内の自動車関連市場がしぼんでいく中で、海外の市場に目をむける必要があるという危機感はどの企業も持っている。タイを含めたアセアンの自動車関連市場はこれから拡大をしていくだろう。一方で、最初の1歩を踏み出せていない企業も多い。再進出を果たしたオートバックスのタイビジネスはそういった意味で成功への可能性を他社より多く持っている。

日系企業はタイで高い信頼を得ている。日本人が思っている以上に高い信頼だ。それは、タイでビジネスをしてみないと理解をすることは難しい。技術国としての印象が強い日本の修理・点検・部品などには大きな信頼が寄せられている。日系企業であるオートバックスはそのような意味でもタイの中で既に大きなアドバンテージを持っているといえる。そのアドバンテージをどのようにタイの人々に広めていくかがこれからの重要なポイントの1つとなるだろう。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン事業展開推進中。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。

《川崎 大輔》

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