【土井正己のMove the World】震災から4年、東北は「日本の未来を牽引するイノベーション地帯」へ

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セントラル自動車の宮城工場(資料画像)
  • セントラル自動車の宮城工場(資料画像)
  • 有機ELを使ったディスプレイ(資料画像)
  • 有機EL照明

本日3月11日で、東日本大震災から4年を迎える。しかし、被災地では復興は道半ばで、仮設住宅で生活する人の数も23万人と言われている。

3月8日に放送されたNHKの「日曜討論」では、宮城県の村井知事、岩手県の達増知事が、「被災地域の復興だけで考えるのは無理がある。東北の経済をどうしていくのかという国家として大きな絵が必要ではないか」と主張していた。その通りだと思う。この2人の知事には会ったことがある。「トヨタが東北を第三の拠点にする」ことを震災直後に伝えに行った時だ。2人とも、作業着で地域を走り回り、職員には激を飛ばし、住民には笑顔で対応していたのが印象的だ。

◆トヨタが「第三の拠点」に選んだのは古来よりの「モノづくり力」

自動車生産が東北で行われれば、3万点に及ぶ部品が調達されるので、地域全体に経済効果が及ぶ。トヨタが東北を第三の拠点に選んだのは、本来、それだけの「モノづくり力」がこの地域にあったからだ。戦前から釜石は日本を代表する製鉄産業拠点であったし、米沢は帝人の発祥の地、その後はNECのパソコンも全て米沢で作られていた。直近では、ルネサスなど半導体の主要生産工場も東北を拠点とした。それら東北のモノづくりが、震災とそれに続く円高、電機産業の構造変化などで、難局を迎えている。トヨタが出てきたところで、全てが解決するものでもない。

私が期待したいのは、「東北から生まれるイノベーションとベンチャー」だ。私が、月に2回通っている山形大学では、小山清人学長の「山形から世界に」というビジョンとリーダーシップのもとイノベーションに関する基礎研究から量産・実用化まで推進をしている。国や地域行政はもちろん、企業、金融機関まで一丸となっての活動で、大学がそのコアだ。分野は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)に代表される有機エレクトロニクスを主要分野としており、世界的に知名度のある城戸淳二教授や時任静士教授に「卓越研究教授」として研究の中核を担わせている。

◆山形大学の壮大なチャレンジ

有機ELといえば、一時は液晶カラーテレビの次世代型画面として話題になったが、パナソニックやソニーが撤退を表明しており、LGやサムソンなど韓国企業だけが積極投資を行っている。

3月5日に行われた記者会見で、城戸教授は「数年以内で、確実に液晶パネルから有機ELに置き換わる」と断言し、自信のほどを見せた。有機ELは、液晶と異なり、その有機素材自体が発光するため(液晶は背後にバックライトが必要)、液晶パネルより、さらに薄く、さらに省エネで、しかも曲げることができる。照明としての用途は実用域にきており、部屋の壁紙が光ったり、海岸風景になったりする。クルマの内装面も発光したり、照明や画像スクリーンを兼ねることも可能となる。

山形大学は、この有機エレクトロニクスの基礎研究から産業化までやろうとしているのだ。そして、一連の活動を「フロンティア有機システムイノベーション拠点」(研究リーダー:大場好弘副学長)と位置づけ、この度、文部科学省と科学技術振興機構が、これを「センター・オブ・イノベーション」(COI)と認定し、国家支援の対象とした。企業からの参加も大日本印刷、積水ハウス、パナソニック、ミノルタコニカなど多数が名を連ねている。

このように、技術イノベーションがある程度確立されたものを、生活ニーズの反映やユーザーインターフェイス開発など実用領域において、産学共同を行うことは、極めて意味のあることだと思う。これからの大学教育は、本来、こうした「ユーザーニーズの研究」、「マーケットの先読み」、「技術イノベーション」の組み合わせで行うべきである。すなわち、「理科系」、「文科系」という枠組みは、20世紀の学問定義ではないかと思う。山形大学は、この古い領域を極力取り払っており、「地方創生とそれを実行できる人材」の育成に乗り出している。

◆2050年、東北から生まれたベンチャー企業が日本経済を支える

被災地の復興は、村井知事や達増知事が述べている通り、国として、東北全体のビジョン、青写真を持たなければならないのだと思う。私の希望は、東北が、「日本の未来を牽引するイノベーション創出地帯」になることだ。それは、あの厳しい事態を経験し、どんな苦境にも打勝つチャレンジ精神ができているからである。戦後の瓦礫の中から、ソニーやホンダが生まれたのと同じだ。そして、何よりも東北には日本古来のモノづくりの伝統がある。

また、「日本の未来を牽引する」のであれば、国も支援する意味が大いにあるだろう。山形大学で取り組まれているイノベーション創生の「山形モデル」が成功し、それが東北全体に広がっていくことを願い、自分としても一助となれるよう努力したい。「2050年、東北から生まれたベンチャー企業が日本経済を支えている」と言える日が来ることを夢見て。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」副社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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