第35回バンコク国際モーターショーが開幕した3月24日。2014年2月のタイ国内の自動車販売実績が前年同月比45%減の7.2万台になった、と発表された。
首都封鎖や政治停滞の影響により、2ヵ月連続で40%を超えるマイナスとなった。3月には反政府デモ隊による道路封鎖が解除され、非常事態宣言も解かれたが、タイ経済の先行きは不透明なままだ。
バンコク・シャットダウン
昨年11月、インラック首相率いるタイ貢献党がタクシン元首相(海外逃亡中)の恩赦法案を強行採決したことが発端となり(法案は後に廃案となった)、反政府デモが活発化した。こうしたなかインラック首相は12月9日に下院を解散し早期に総選挙を行うと発表。現政権は選挙管理内閣に移行した。
今年1月13日、反政府デモ隊がバンコク中心部の複数の交差点を占拠し首都封鎖(バンコク・シャットダウン)が始まった。アソーク交差点などには大型のステージが設けられ政府批判の演説が繰り返された。爆発物による負傷者が出るなど事態の改善が進まない中で1月22日に非常事態宣言が発令された。
筆者は、総選挙が行われた2月2日前後にバンコクを訪れた。封鎖されたスクンビット通りなどにはデモ隊の参加者が寝泊りするテントが無数に張られていた。その傍らで『Bangkok Shutdown』と書かれたTシャツ、タイ国旗と同じ配色のリストバンド、気勢を上げるときに使う笛などを売る露店が並んでいた。
一見、暴力的な様子は感じられなかった。ステープ副首相(反政府派リーダー)のおどけた姿の等身大パネルと一緒にスマホで写真を撮る人がいたり、路上のステージに立つロックバンドの演奏に合わせてダンスする若い女性がいた。総選挙翌日の現地英字紙バンコクポストには”Election day turns picnic day(投票日がピクニックの日になった)”との見出しがあった。投票を拒否した人達がバンコク市内の封鎖された路上で音楽やゲームなどを楽しむ様子を巧妙に表現している、と思ってしまった。
バブル終わった新車市場
四輪車販売は2014年1月に前年同月比45.5%減の68,508台となった。2月は44.8%減の71,669台で、前月に続いて首都封鎖の影響が色濃く出た。反政府デモに参加している人々の多くは民主党の支持者でありバンコクやタイ南部に住む中間所得層だ。乗用車需要を支えている中間層がデモに参加した結果、販売が大きく落ち込んだ。
トヨタやホンダなど現地自動車メーカーは2014年の全需を110万~115万台と予測。政治を巡る対立がさらに悪化すれば100万台前後に下振れする可能性もある。2012年の144万台、昨年の133万台と比較するとかなり少ない数字に映るが、2011年秋の大洪水の後の状況がバブルだったとの見方が冷静な評価となっている。
2012年に新車販売が爆発的に伸びた主因が、最大10万バーツの税金還付措置『First Carプログラム』である。その受注残が2013年の販売を底上げした。また、農村支援の名目で実施されてきた『コメ担保融資制度』が農民の現金収入を水増しさせ、1トンピックアップの需要を押し上げた。しかし、ばらまき政策であるコメ担保融資は財政難により暗礁に乗り上げている。インラック政権の目玉政策が四輪需要を膨らませたが、バブル時代は終わり、今後は実力勝負となる。
ピクニックは終了したが…
3月3日、デモ隊はルンピニ公園に撤退。49日間続いたバンコク・シャットダウンが終了した。そして19日には非常事態宣言が解除された。しかし、21日にタイ憲法裁判所が総選挙を『無効』としたため投票をやり直す予定となっており、政治の空転は続く見通しだ。政情不安の根本的な原因は都市部vs農村あるいは中間層vs低所得層の格差問題であり一朝一夕の状況改善は難しいが、平和的で民主的な解決に向かうことを期待したい。