ヨーロッパ発のグローバルカー。いわゆる“ワンフォード”戦略の凄みは、世界市場を“気にして”クルマを仕立てるのではなく、欧州のカラーを失わず、否、むしろ現世代の他車に比べて色濃く残して、展開している点にある。
そのことを筆者は『フォーカス』で思い知らされた。実際、日本仕様のフォーカスは、パワートレイン以外において、評価の高いVW『ゴルフ』に匹敵するポテンシャルの持ち主である。
というわけなので、“エコブースト”を積んでやってきた新型『フィエスタ』には、よりいっそうの期待をもって試乗会に臨んだのだが…。結論からいうと、おおむね期待どおりだったものの、試乗後の余韻にやや不満が漂ってしまった。
期待どおりだったのは、もはや古典的とも言える、骨太な欧州車フィールに満ちていたことだ。すべての反応がイマドキ珍しくソリッドで、しかも終始、“力”の抜けがない。相当に、マジメ。その昔のVWやオペルのように、質実剛健という言葉が、本当によく似合う。マーケットにおもねらないスポーツ&モダンな内外装のデザインと同様、ドイツ発をまるで隠そうとしない走りのアピールに溢れていた。パワートレインも快活で、とても気分よく操れる。
不満の要因は、ちょっとしたことだった。そこまで“ザ・ドイツ”車キャラをオモテにたてるのであれば、雑なフィールのタイヤ選びも含めて、もう少しアシの動きにしなやかさが欲しいと思った。『ポロ』級に、とまでは言わない。個性が失われる可能性がある。けれども、たとえば攻め込んで初めて気持ちのよさが出るマニアックなハンドリングや、低速域における乗り心地の悪さなどには、一考の余地があるように思う。
欧州発のBセグメントカーは、どれもこれもかなり上出来で、ハイレベルの争いになっている。フォーカスがゴルフに迫りきったほどにはフィエスタはポロに迫っていない、というのが筆者の見立てだけれども、それもまたハイレベルの、少なくともBセグ5ベスト内での順位付けであることは、間違いない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
西川淳 │ 自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めること を理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーと いった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパー カー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近 のテーマ。精密機械工学部出身。