クルマのデザインは、なにも造形(スタイリング)だけで語られるものではない。エクステリアだけに限っても、ランプやウィンドウのグラフィックス、カラーリング、それに周囲の風景までもが造形の印象を大きく左右する。さらには、みずから発する光でさえも、クルマのイメージを方向づける要素となる。
たとえばアウディでは、LEDランプの採用を一気呵成に進めたことで、先進的なイメージをラインナップすべてに備えさせ、ブランドイメージを高めることに成功している。フルモデルチェンジばかりでなくモデルライフ途中のフェイスリフトでもランプのデザインを大幅に変更し、レーシングカーまでもがLEDを強調することで「アウディといえばLEDランプ」という印象を植え付けることになった。
誤解してはいけないのは、こうした戦術はただ単にLEDの採用をアピールするためにやっているのではない、ということだ。LEDランプによって可能となる精緻なディテール表現やグラフィックス、そして点灯時の強烈なビームがもたらす怜悧さや硬質感に、ブランドのメッセージを代弁させているのだ。点灯部が小型化したことを生かして、ヘッドライトユニットに金属調の装飾板を配して、精密機械を思わせる装いにしているのもその一環といえる。
またリアのコンビネーションランプでも、アウディではLEDを緻密に配置、あるいは導光チューブを利用することでシャープな線としてみせたり、ランプユニットの輪郭を線状に浮かび上がらせるといった演出を行なっている。ボディの造形が判別できない夜間では点灯したランプが、造形に込めたブランドのメッセージを伝える役目を担っているわけだ。
こうした演出はやがて多くのブランドに波及、普遍化してゆくことになるであろうが、アウディではさらに未来を見据えた研究を行なっている。それは有機EL(OLED)による表現だ。面全体が発光するOLEDでは、プログラミングによって点灯のタイミングや部位を自在にコントロールできるし、いずれは曲面で構成されたボディそのものを輝かせることだってできるようになるかもしれない。現在は商品展開できるレベルには至っていないが、そう遠くないうちに新しい光と影の表現を味わえることになるのではないだろうか。
またLEDであっても、蛍の明滅のようにON/OFFの境界があいまいな、かつての電球ウィンカーの緩慢な点滅を表現できるようになるかもしれない。こうなれば悠然としたイメージや温もりを感じさせるという演出に用いることができ、新たな付加価値となり得る。技術の進歩が、いっそう多様で彩りに富んだデザインを可能にし、光と影によるブランド表現もさらに進化してゆくことだろう。