【東京モーターショー13】鋼鉄に生命吹き込む"魂動"…マツダ デザイン本部長 前田育男×エンリコ・フミア

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【東京モーターショー13】鋼鉄に生命吹き込む
  • 【東京モーターショー13】鋼鉄に生命吹き込む
  • マツダ デザイン本部長 前田育男氏
  • マツダ デザイン本部長 前田育男氏(左)とエンリコ・フミア氏(右)
  • マツダ デザイン本部長 前田育男氏(左)とエンリコ・フミア氏(右)
  • マツダ デザイン本部長 前田育男氏
  • エンリコ・フミア氏
  • マツダ デザイン本部長 前田育男氏(左)とエンリコ・フミア氏(右)
  • マツダブース(東京モーターショー13)

マツダは東京モーターショー13において、"魂動"デザインを象徴する「ソウルレッド」を纏った『アクセラ』『アテンザ』『CX-5』をブースに並べた。

23日に行われた「2013-2014日本カー・オブ・ザ・イヤー」の最終選考では、『アテンザ』が、秀でたデザイン、ドライブフィールなどを持つクルマに与えられる「エモーショナル部門賞」を受賞している。

各車に共通して流れるコアデザインとはいかなるものなのか。着目すべきは「日本の美」を突き詰め、車を無機質なツールにしないよう凝らされた趣向。マツダ デザイン本部長・前田育男氏とイタリア人デザイナー エンリコ・フミア氏による対談がモーターショー会場にて実現した。

目指すのは日本の工芸作品

エンリコ・フミア氏(以下敬称略):近年の日本メーカーは、ブランドの「ファミリー・フィーリング」が感じられるようになってきていて、嬉しく思っています。マツダもフロントフェイスやリアまわりの造形など、ラインナップに共通したイメージが感じられていいですね。

前田育男氏(以下敬称略):ありがとうございます。マツダではブランドデザインというのをやり始めていて、そこに注目していただけているのはとても嬉しいですね。ブランドを磨くことに力を入れるしかないと考えているのですが、その成果があらわれているということですから。

フミア:ただ、ドイツメーカーのトレンドを追いかけている印象もあります。これはマツダに限った話ではなく、他の日本メーカーにも言えることですが。

前田:マツダのデザインチームが目指しているのは、クルマを「日本の工芸作品」と言えるレベルに持っていくことなのです。「日本らしさ」や「日本の美」とはなにか、というのを常に研究しています。研究途中とはいえ新型アクセラでも、フォルムの完成度を高めるために相当にデリケートなコントロールをおこないました。こうした繊細な部分が、日本の美意識に繋がっているのではないかと思っています。

フミア:日本のアート&クラフトを追求するという方向性には賛同します。課題は、それをどう表現するかということですが…。たとえばヘッドランプやコンビネーションランプといった部分に、最新のテクノロジーを盛り込みつつ日本の手工芸品に見られるような、温かみがありつつ精緻な表現ができれば、欧米ブランドと違った新しいデザインが見出せそうですね。

前田:まさしくその通りです!やはり「人の手」というのは素晴らしい。人間が手で作り上げたような温かみを、ボディ全体にもディテールにも盛り込んでいきたいと考えています。ですからデジタルツールに頼って、短期間で手早くデザインをまとめるというのは絶対にやりたくないですね。

生き物の自然な姿が「魂動」になる

フミア:現在マツダでは「魂動」というテーマを掲げていますよね。これについて、いま一度教えてくれませんか。

前田:クルマというのは基本的に鋼鉄の塊ですけれども、そこに「生命」を吹き込もうとする行為を「魂動デザイン」と定義しました。クルマというものを、オーナーの友達やパートナーといった存在にしたい。そのためにはクルマが「生きて」いてほしい。そういう思いを込めて「魂動」と名づけているんです。だから最大の焦点は「一体どうやったら生き物のような、いきいきしたフォルムが表現できるか?」ということです。これはデザイナーがダイナミックなスケッチを描くだけで実現できるものではありません。

フミア:少し前のマツダのコンセプトカーはどれも個性的で、個人的にも気に入っていたし「これぞ日本のデザインだ!」と思っていました。

前田:「流」シリーズですね。現在追求している「生き物らしさ」はありませんが、あの表現も大事な財産になっています。ただ少し表層的なものでしたから、もし活用するとしたらまず「生きている」と感じられる立体を作って、そこへ盛り込むような順序になります。

形態ではなくロジックが重要

フミア:「流」が表層的と言っても、偶発的に生まれたのではなくて、明確な意図を持って表現していたものですよね。各車のグラフィックスに共通したロジックが感じられました。サイドビューを見るだけでブランドが判るというのは重要なことです。

前田:「魂動」でも目指すものは同じなんです。動物には不自然なところや無駄がない。どの車種でも、そういう自然なプロポーションを目標にして立体造形をしています。自然ではない、人工的に見えるものは「生きている」という感覚と相反するものですからね。

フミア:「自然なデザイン」というのはナチュラルという意味ですよね。自然界の動物の形態からインスピレーションを得て、それをそのままクルマに当てはめているわけではありませんよね?

前田:ええ、それは違います。アテンザもアクセラもチーターなどがモチーフですが、体型を真似ているわけではありません。そうした野生動物たちが見せる、美しい動きの中にあるロジックを探すのです。高速で駆けるときや方向転換するとき、ジャンプするときなど、それぞれのロジックに従った身体の動きがある。そういう部分を観察して、立体造形に置き換えているんです。だから写真や映像も相当集めていますし、動物園にも通いました。

テクノロジーは美しさのために

フミア:「魂動」とは「生命感のあるデザイン」だということはわかりました。しかしクルマは無機的なメカニズムの塊で、常に最新のテクノロジーを組み合わせなければなりません。それについてはどうバランスを取っているのですか?

前田:いまはさまざまな要件を考慮しなくてはいけないので、自由奔放にデザインすることは難しい時代です。それでもできる限り自由にデザインしたいですし、深い味わいのある立体を作りたいとデザイナーは考えます。ですから、メカニズムをどんどん小型化して自由に造形できる余地を生み出す、ということにテクノロジーを使いたい。それによって生み出すことができる造形だとか、理想的な美しさだとか、そうした部分に焦点を当てたいんです。

フミア:日本車は、たとえばランプに最新技術が組み込まれてはいても、それがユニットとしてはトラディショナルなデザインになってしまっているのがもどかしい。スタンダードから飛び出す勇気がほしいですね。

前田:マツダではヘッドランプを生き物の眼だと捉えています。ですから、欧米ブランドによく見られるような冷たい表情のフロントエンドではなくて、眼光を感じる表情を作りたいと考えているんですよ。いくらLEDが小型だからといって、それをたくさん並べて存在を主張するという方向には向かいません。テクノロジーが主張するデザインをしたいとは、まったく思っていないのです。

新しい機能が新しいデザインを生む

フミア:ただ最新のデバイスを、新しい機能を持ったデザインに利用することはできるのではないですか?たとえば昆虫や蜘蛛などは、人間や哺乳類では不可能な動きができます。そうした機能がテクノロジーによってクルマでも実現できるなら、それもまた新しい「生き物らしさ」に繋がるのではないでしょうか?

前田:それはあり得ますね。いろいろな要件や制約はありますけれど、それを言い訳にしてしまうと驚きのあるデザインは生まれません。やはりデザイナーは「夢を描く」職業ですから、夢を創っていかないと未来は近づいてきませんよね。だからたしかに、昆虫からデザインを発想するというくらい考えを飛躍させる価値はあります。

フミア:テクノロジーをただ採用するのではなくて、それがもたらす新しい機能を、新しい造形として表現できるといいですね。

前田:その通りだと思います。「魂動デザイン」の次のステップとして、ぜひ考えていきたいですね。

前田育男|マツダ 執行役員 デザイン本部長
マツダ株式会社 執行役員デザイン本部長。京都工芸繊維大学卒 マツダ株式会社に入社後、横浜デザインスタジオ、カリフィルニアデザインスタジオで先行デザイン開発、後FORDデトロイトスタジオ駐在を経て、本社デザインスタジオで量産デザイン開発に従事。チーフデザイナーとして『RX8』、現行『デミオ』などを手掛ける。2009年から現職、デザイン本部長としてブランドデザインを推進。『CX-5』、『アテンザ』、『アクセラ』などの商品デザイン開発、モーターショー、販社店舗デザインの監修など、魂動デザインの具現化、コミュニケーションデザインを牽引する。

エンリコ・フミア|カーデザイナー インダストリアルデザイナー
1948年トリノ生まれ。76年にピニンファリーナに入社し、88年には同社のデザイン開発部長に就任。91 年にフィアットに移籍してランチアのデザインセンター所長に、96 年には同社のアドバンスデザイン部長となる。99年に独立、2002年にはデザイン開発やエンジニアリングのアドバイザリーとして フミア・デザイン・アソチャーティを設立した。手掛けたモデルは、アルファロメオ『164』『スパイダー』、ランチア『イプシロン』、マセラティ『3200GT』など。

《古庄 速人》

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