今や日本国内で保有されるクルマの4割を占めるといわれる軽自動車。軽が現代の日本のクルマ社会において着実にシェアを伸ばしてきた理由は、日常の足として扱いやすい手軽な移動手段でありながら、女性目線を真摯に盛り込み、使い易さを磨き上げたクルマ作りにあるだろう。
軽自動車ユーザーの実状と市場環境
実際には軽ユーザーの3人に2人は女性。日常での向き合い易さを切望し、快適な環境に身を置きたいと願う女性に向けたクルマ作りを実現すれば、子供やお年寄りにとっても優しいクルマができあがるというワケだ。
軽いクルマを最小限のエネルギーで走らせる軽自動車は、優れた燃費性能や税制面の優位性など、経済性の高さにメリットが見いだされてきた。さらに、リーマンショック後は燃料代高騰が起爆剤となり、必要最小限のクルマを選ぶダウンサイジング化の動きが加速。コンパクトカーを凌ぐ室内スペースが自慢の軽自動車にとって追い風となった。
勢いに乗るスーパーハイト軽、その魅力とは
現在の軽の新車販売のトップセラーは全高1800mmに迫るサイズのスーパーハイトモデル。広々使える車内空間は、軽からサイズアップする若者からファミリー層まで、幅広いユーザーを獲得できる立場にある。そんな市場で3強のモデルとなるのが、ミラクルオープンドアをもつダイハツ『タント』、ホンダが軽市場に本格参入するキッカケとなった『N BOX』、パレットの車名を改め、親しみ感のあるスタイリングで登場したスズキ 『スペーシア』だ。
これらの車両価格は120万円前後からカスタム系に至っては180万円近い価格帯。つまり、決して安い買い物ではない。大枚をはたいてでも欲しいと思わせるこれらの軽の魅力とは、一体何なのだろうか?
スーパーハイト軽自動車は“新発想モビリティ”
答えは登録車や軽といった枠を超え、新しい発想で乗りこなせるスモールカーに進化したところにある。内外装の質感はかつての『軽自動車=それなり』というチープなイメージから脱却、走行フィールや安全面など、『登録車から乗り換えても違和感のないレベル』に目標を置いて開発が行われている。
ここで、3強モデルの特徴に注目してみると、ボディのシルエットこそ似ているが、キャラクターは似て非なるものだ。
ホンダ N BOX が開拓した新境地
ホンダが日本にベストな新しい乗り物として提案したN BOXは、標準モデルの外観は無機質なフォルムが特徴。クルマらしいというよりは機能をデザインに閉じ込めた道具箱的なユニークなキャラを打ち出し、お洒落にモダンに乗りこなせる新種のスモールカーを作り上げた。
ルーフの高さは3車で最も高い1780mm(FF)。ホンダ独自のセンタータンクレイアウトを活用して室内スペースを確保。2520mmのロングホイールベースで走行安定性を意識したレイアウトとした。DOHCエンジンやCVTは新開発され、燃費はJC08モードで22.2km/L(FF、NA仕様車)を達成。これまで、軽では普及率が低かった横滑り防止装置や坂道発進後退の抑制装置等の安全装備を標準装備化し、安心して乗れるクルマであることを印象づけた。
マーケットをけん引してきたスズキの本気、スペーシア
一方で、優しい表情をもつスズキ スペーシアの標準モデルは動物的な親しみやすさを与えるクルマだ。減速時に発電した電力を蓄え、エンジン負荷を抑えることで燃費を向上させるエネチャージの採用をはじめ、ライバル2車よりも100kg以上軽く仕上げた車量の効果でJC 08モード 29.0km/Lという圧倒的な低燃費をたたき出し、スペース性と燃費性能を上手く両立してきた。
ダイハツ タント、熟成進む
最後に、ライバル2車の出方を待つ形で登場したダイハツ タントは、このカテゴリーの潜在的なニーズを掘り起こし、すでに3代目を迎えて熟成を重ねてきた強みがある。
ボディ左サイドのミラクルオープンドアは先代から受け継ぎながらも、右サイドは後ドアをヒンジ式からスライドドアに変更。ボディ剛性の強化や空力向上、安全装備使いによる重量増を相殺すべく、ボディ外板の約40%に設計自由度が高く軽量な樹脂パーツを採用してきた。これによって製造工程が見直され、効率化が図られたことは軽作りの世界においては大きな変化といえる。
さらに、アクセルとブレーキの踏み間違い事故を抑制する機能や低速域の衝突回避支援ブレーキなど、話題の安全装備もいち早く導入し、ファーストカーとしての資質を高めた。