トヨタ自動車が11月に発表した新安全装置のひとつ「衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステム」。対応速度レンジを追突事故の9割を占めるという60km/hまで拡大し、事故防止や被害軽減の能力を大幅に強化したのが特徴だ。
発表間近の次期『クラウン』に搭載されるとみられる新システムを現行クラウンに実装した試作車に、トヨタの研究開発拠点のひとつである東富士研究所で試乗する機会を得たのでレポートする。
テスト車に乗り込み、まずは60km/hまで加速。前方をノロノロと動いている可動バリアをレーダーが感知し、一定以上接近するとまず電子警報音が鳴る。とっさに急ブレーキをかけられなかった場合を模して、車内に取り付けられたGセンサーの表示が0.2G程度になるようブレーキを軽く踏む。するとクルマ側がブレーキを踏みきれなかったと判断し、ブレーキアシストを最大に利かせて停止する…はずだったのだが、筆者はバリア接近時にブレーキを少し強めに踏んでしまい、自力で停止。残念ながらシステムの機能を体験することができなかった。
不意の居眠りや脇見ならいざ知らず、緊急時に0.5G程度のブレーキも踏めないドライバーなどいるのだろうかと疑問に思ったが、実はこの新システムの仕様は一般ドライバーの行動データを大量に取得して決まったのだという。
「東富士研究所には公道走行をほぼ完全に再現できる大型のドライブシミュレータがあります。老若男女のドライバーに乗ってもらい、予告なしに緊急停止が必要な事態を作ってみたところ、警報音が鳴った時に約1割のドライバーが何もできず、ブレーキの踏力が不十分な人はもっと多かった。パニック時の行動は私たちの想像とは全く異なっていたのです。実証データに即して仕様を考え、作ったのが今回の安全システムです」(開発に携わったエンジニア)
かつて、安全技術は金にならないと言われていた。エアバッグやABSなどは普及したが、車線逸脱装置、衝突防止装置などの予防安全デバイスは高価だったこともあって装着率はきわめて低かった。
が、富士重工業がステレオカメラだけで衝突防止や被害軽減を実現する低価格型の新システム「アイサイト」を搭載して注目を浴びたのをきっかけにユーザーの関心が沸騰。今や先進安全技術は自動車メーカーにとって環境技術と同等以上の主戦場となっている。
トヨタブランドおけるエンドユーザー向けの実質フラッグシップモデルであるクラウンに搭載される先進安全技術は、アイサイトよりは高価だが、従来のものに比べるとかなり低価格化されているという。自分のクオリティオブライフへの感度が高い高級車ユーザーがどういう反応を示すか興味深い。