【池原照雄の単眼複眼】カタログ値と実走行値…2つの燃費をどう縮めるか

エコカー 燃費
JC08モードで35.4km/リットルの燃費性能をもつトヨタ アクア(参考画像)
  • JC08モードで35.4km/リットルの燃費性能をもつトヨタ アクア(参考画像)
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  • JC08モードの測定方法

燃費の良いクルマほど乖離幅が広がるジレンマ

日本では、国が測定しクルマのカタログに表示される燃費と実走行燃費の違いを、多くの自動車ユーザーが容認しているのが実情だ。2011年度からは、実走行により近づける「JC08」モードに全面的に切り替えられ、カタログ燃費と実走行の差(=乖離幅)は縮小されつつある。

だが、日本自動車工業会(自工会)がこのほど公表した調査では、カタログ燃費の良いクルマの方が乖離幅が大きくなる傾向が分かった。これだと、燃費のいいクルマを買った人ほど、期待値との落差に直面しやすくなる。導入されたばかりのJC08だが、乖離幅をさらに縮小するには新たな測定法の確立が求められる。

自工会の調査は、乗用車のカタログ燃費と実走行燃費の関係について、環境委員会の「乗用車燃費基準検討会」が進めているもので、今回、これまでの分析状況を中間報告として公表した。

それによると、1990年度以降のカタログ燃費に対する実燃費の到達率は、92年度から2002年度にかけては、ほぼ73%前後で推移していたものの、その後は徐々に低下(乖離幅は拡大)する傾向となっている。直近の09年度のデータでは到達率は約70%。つまり、乖離幅は約3割だった。

エアコンなどの負荷が反映されない

同検討会は、燃費が乖離する要因として、(1)気温などの「外部環境」、(2)使用地域や走行距離など「クルマの使い方」、(3)燃費の「計測試験法」――を挙げている。イードが運営する「e燃費」のデータを基にした分析では(1)の外部環境はエアコンの使用による気温が高い地域での燃費の悪化、(2)のクルマの使い方では、渋滞の多い大都市部での燃費の悪化といった相関関係が導き出されている。

また、燃費性能が良いクルマほどカタログ燃費との乖離幅は拡大するという傾向もデータ分析から明らかになった。その原因を究明するうえで、自工会が注目したのが(3)の計測試験法の問題だった。国の燃費測定は、試験室のシャシーダイナモという装置にクルマを乗せて、発進・加速・定速走行・減速・停止といった一定のモード走行を繰り返して燃費(=カタログ燃費)を求める。

自工会が指摘する問題は、より実走行に近づけようとしたJC08モードでも、エアコンやランプなど走行に直接関係しない電装品のスイッチが切られたまま測定されるということだ。燃費を、単に「走るためのエネルギー消費効率」と捉えるため、実走行燃費とはかけ離れてしまう。

JC08に変わる新たな測定法を

そこに、カタログ燃費のいいクルマほど、実走行との乖離幅が拡大してしまうという、この測定法の問題が潜んでいる。分かりやすくするために、話を単純化する。「A車」と「B車」があり、走行に関係しないエアコンなどの電装品のエネルギー消費をともに1とする。さらに走行のためのエネルギー消費をA車は2、燃費の良いB車は1とし、これがそのままカタログ燃費に反映されると仮定する。

走行に関係しない電装品のエネルギー消費が加味されないカタログ燃費では、B車がA車より2倍良いということになる。ところが、実走行での消費エネルギーはA車が1+2=3、B車は1+1=2。それぞれのカタログ燃費への到達度は67%(2÷3)と、50%(1÷2)であり、B車はカタログ燃費の半分しか走れないという結果になる。

乗用車の燃費は、ハイブリッド車の普及や、既存ガソリンエンジン車の改良もあって、日進月歩で改善が進みつつある。日本のユーザーの間では、「カタログ燃費とはそんなもの」という認識が浸透しているため、米国のように自動車メーカーを訴えるというケースは聞かない。

ただ、現行の測定法では「燃費の良い車ほど、カタログ燃費との乖離幅が大きくなってしまう」(自工会・乗用車燃費基準検討会の大野英嗣幹事)という問題が明らかになった。今後、燃費性能の向上とともに、ユーザーの不信感を高める要因になりかねない。

政府はJC08モードに基づく、「2020年度燃費基準」をすでに策定しており、近く公示する段取りとなっている。このため、直ちにJC08を撤廃するというわけにはいかないだろうが、次の次となる「25年度燃費基準」の策定に向け、電装品のエネルギー消費も加味した新たな測定方法の検討を急ぐべきだ。

《池原照雄》

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