アメリカの自動車発祥の地であり、いまでもデトロイト・スリーが本社を構える全米屈指の“モータウン”であるミシガン州デトロイト。クルマを愛する人々が世界中から集まり、自動車にかかわる仕事についている。そして、この街の人々にとって、自動車は日々の暮らしである以上に文化としても根付いている。
全米屈指の犯罪都市として知られるダウンタウンからわずか数十分ほど走ったエリアには、美しい郊外の街が広がっている。手始めにGMの技術の中枢であるテックセンターの近くにあるクラシックカーのパーツをあつかうドンおじさんの工房を訪ねた。
入り口の棚には1920年代のキャディラック『エルドラド』をはじめ、30年代、40年代といった戦前の自動車のフロントマスクを飾ったカーマスコットがところ狭しと並べられている。たいていは数百ドルという価格がついているが、中には1000ドル近い希少なものもある。奥の工房では、様々なパーツの再生やオーダーメイドが行われている。ここで商売を営んで50年ほどになる、と笑顔で笑うドンおじさんは自らもクラシックカーのオーナーとしてカーライフを満喫している。
次にお邪魔したのは、「クラシック&エギゾチック・サービス」だ。私と同じ1970年代の『ジュリア・クーペ』を自分でレストアしたいという男性がプロの横で作業を習うことを許容する自由な空気がある一方で、デューゼンバーグのような希少車のフルレストアにも応じている。
ボディワークだけなら珍しくないが、さらに別の工房でエンジンやシャシーまでレストレーションしている様子を見せてもらって驚きを隠せなかった。実は、ここミシガンとカリフォルニアは、全米のレストレーションの二大拠点であり、たいていの名車はいずれかの州でレストアされているらしい。
最後に、ミシガンの“普通の人のクラシックカーライフ”を紹介しよう。一見すると、線路沿いの倉庫のような建物だが、その中はミシガンのクルマ好きが集まる拠点になっている。
不動産会社を営むビルさんがマイクロブリュワリーだった建物をガレージに改装して、近隣のクルマ好きが冬の間にクラシックカーをしまっておいたり、簡単な修理をするスペースとして貸し出したのがこの場所の始まりだ。
ナロー・ポルシェの横に60年代のピックアップ・トラックが並んでいたり、マツダの初代『ロードスター』と50年代のビュイックがお隣同士だったりするが、異なる趣味のオーナーが月に一度集まって交流するのも、今ではミシガンのカーガイたちの楽しみのひとつになっている。全米屈指のモータウンは、全米屈指の自動車文化人が集まる街でもあったのだ。