【トップインタビュー】東風日産 松元史明総経理…ブランド浸透には草の根戦略が有効

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東風日産 松元史明総経理
  • 東風日産 松元史明総経理
  • 東風日産が取り組む地域への周知活動のようす
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東風日産(東風日産乗用車公司)は、広州モーターショー11で、2011年の新車販売台数が約80万台となることを明らかにした。当初目標の77万2000台を超える数字だ。加えて中国専用ブランドの「ヴェヌーシア」から、量産車『D50』を発表した。中国市場で攻勢をかける東風日産の松元史明総経理に好調の要因となっている具体的な取り組みについて聞いた。

---:広州モーターショー11では好調さをアピールされていました。

松元氏:中国での事業が今年も順調だということをお伝えしました。当初の販売目標であった77万2000台を超え、今年は80万台超えが現実的になりました。また、今年はいろいろな賞をいただいたということです。『ティアナ』が耐久品質で中国ナンバーワンと評価されたり、『ティーダ』が三年連続で品質ナンバーワンと評価されたりしました。これまでいろいろやってきた活動が評価されたという気持ちです。

松元氏:加えて7人乗りの高級セグメントに属する『クエスト』の中国導入も発表しました。そしてもっとも大きい発表は正式にヴェヌーシアの量産車『D50』を販売するということです。こちらはすでに生産の準備を開始しました。日産とヴェヌーシアの2ブランドの活動が正式に始まったということが今年の大きなアピールポイントです。

---:東風日産の立ち上がりは2003年ですが、10年足らずで80万台に達したという事ですね。成功要因は何だとお考えですか。

松元氏:要因のひとつは中国進出にあたり、東風汽車という良いパートナーに恵まれたことです。東風汽車がもともと持っていた販売ネットワーク、情報などをベースに日産が持っていた商品を展開することが出来ました。どんなモデルを中国市場に投入すべきかという点に関しても、東風汽車というひとつの企業との合弁であったため、スムーズに取り組むことができました。

松元氏:また、合弁の初期段階で徹底した議論ができたという経緯は重要だったと感じています。当初は日産、東風汽車の間に少なからず軋轢がありました。そこで議論を行い、企業文化をどうするか、という話し合いを行いました。そこで東風、日産と分けて考えるのではなく、「東風日産」として考えるようになりました。こうした議論の末に課題を解決してスタートしました。合弁として一つになったということで、私はこの背景がものすごく大事だと思っています。これに加えて、東風汽車の方々は非常に若い会社であるということもあり、日産が今まで培った成功・失敗体験を学ぶ学習意欲が高く、過去の失敗を踏まえて企業としてあるべき姿を構築できた考えています。

松元氏:最後の要因としては、中国市場が重要になり、中国でのオペレーションが進んだことです。最近は中国の市場にあった商品を投入しようという動きが定着しており『ティーダ』などは中国でワールドプレミアしました。世界でも販売していきます。

---:世界市場のなかでリードカントリーを中国と定めたのはいつですか。

松元氏:日産は以前から現地に採用を任せてきました。どれだけ現地化しているかということが大事だとすれば、自然とそうなったという面もあります。日系の他社メーカーが、日米欧をメインに考えたクルマを中国に持ち込む、という順で取り組んでいたなか、我々は企画の時点で新興国をターゲットとしていたということも背景にあると思います。2007年から2008年の段階で、そのような発想がありました。

---:そのような背景は、日産の海外進出に対する体質といえますか。

松元氏:中国市場からの声は聞こえていました。日産は、大規模な開発によってグローバル展開する車両を手がけることはなかなか難しく、各国のニーズを拾って、専門開発を一つはやろうよ、という形でした。新興国のニーズにあったクルマをちゃんと作ろう、ということです。世界中のニーズを拾うことよりも、地域のニーズにあったものをつくるということが現在につながったのではないかと感じています。

---:ティアナ、『サニー』、ティーダと立て続けに中国開発車を投入していますが、中国のR&Dの体制を教えてください。

松元氏:日産ブランド車の先行開発は日産でやっています。東風日産ではありません。ただ、商品企画については初期の段階から中国で行なっています。商品企画というのは具体的にはデザインコンセプトなどです。現行ティアナの商品企画は中国で初期段階から取り組んでいました。それぞれのクルマについて商品企画が言う「ことば」をいかに技術に落とし込むかということが大事です。中国の開発体制は5%くらいが日本人で、ほとんどは中国人が行なっています。開発人員400人中の21人が日本人ですから。中国では環境やマナーなども違いますし、地域にも差異があります。こうした市場の状況を言葉にし、技術に落とし込んでいかないといけません。そして日産にも伝えていくということです。

---:東風日産の開発力は現段階でどの程度なのでしょうか。

松元氏:エンジン、パワートレインは難しいけれども、車体や内外装については東風日産だけで開発しようとしています。D50は多少、日産にフォローしてもらいましたが、近い将来はすべて作っていきたいという想いはあります。日産の既存ノウハウを応用しながらゼロから作る事が出来ればと考えています。東風日産に開発部門が出来てから7年ですが、急速に力を高めています。クルマを開発する中で高めています。

---:ヴェヌーシアを立ち上げた狙いは。

松元氏:ヴェヌーシアブランドを立ち上げた目的は、日産のブランドでカバーできない領域をカバーすることです。日産ブランドはグローバルブランドで、価格や技術の面で中国のお客様に対しては「帯に短したすきに長し」という側面があります。ですので、どのようにして、中国のお客様に合ったものを提供できるかということを考えたところ、日産ブランドとは別のブランドが必要だという結論に至りました。ブランドとは、商品とサービスがセットです。ブランドのイメージを徹底するためには、販売ネットワークも別になります。

---:日産車とヴェヌーシア車の価格について、重なってしまうことなどはありますか。

松元氏:価格についてはクルマを発売するときに発表します。

---:ヴェヌーシアブランドでは5車種をそろえるそうですが、その背景は。

松元氏:ひとつのブランドで販売ネットワークを保持しなければならないので、そうなると5車種は必要だろうという判断です。全体の状況から見ても5車種はラインアップできると。販売台数は年間30万台と目標を設定しています。販売店は約250店舗、1店舗あたり1000〜1500台を販売できれば到達する数字です。

---:日産にとってヴェヌーシアは、ルノーのダチア、VWのセアトというような位置づけとは違うのでしょうか。

松元氏:ヴェヌーシアは、中国国内のお客様しか見ていません。日産のラインアップは「先進性」、「イノベーション」といったところにフォーカスしています。一方でヴェヌーシアは「フレンドリー」、「親近感」、「実用性」などをコンセプトとしています。もちろん国際基準での品質は確保しています。例えるなら日本にモータリゼーションが起きた時代、サニーや『カローラ』が出てきたときのイメージで、国民車を作りたいという発想ですね。日本人に合ったクルマをつくりたいという発想と同様に、中国人に合ったクルマをつくりたいという発想で出来ているのがヴェヌーシアです。

---:ヴェヌーシアブランドでEVを出すとのことですが、どのようなEVになりますか。

松元氏:中国の環境というのは欧米や日本とは全く違います。インフラ、人々の習慣といった部分が大きく違う。EVを使う環境も然りです。グローバルで展開するEVではなく、中国の人々の生き方を尊重し、市場にあったEVをヴェヌーシアで量産します。

---:日産ブランドとヴェヌーシアブランドで販売戦略の棲み分けの方向性は。

松元氏:ヴェヌーシアブランドでは2級、3級都市も重視するということはあります。中国国内は広く、ディーラーでカバーするのは困難です。そのため、“行商”にも取り組んでいます。「日産テクノロジー&セーフティードライビングフォーラム(NTSDF)」といっているのですが、トレーラー2台に日産の技術を説明する展示物を詰め込んで、全国行脚するのです。地域の小学校や広場を使って安全運転のセミナーを開催します。この取り組みは2005年から行なっており、昨年一年間で100回以上のフォーラムを開催しました。フォーラムは二日間ほど行なわれるのですが、1回開催すると1万人を超える来場者がありますので年間で合計100万人以上は参加してもらったという計算です。中国の特に内陸部では、8割から9割のお客様がクルマを初めて買う方たちなので、クルマの情報を求めています。ちなみにNTSDFが行なえるトレーラー2台のチームは3つあります。

松元氏:このNTSDFを一回り小さくし、トラックを“トランスフォーム”することで、商談ブースにもなる車両も今年から3チーム用意しています。これにより、トラックが1台あれば、畑のあぜ道でも東風日産が紹介できます。ポイントはただの商業イベントにしないということです。技術を知ってもらう、安全運転を知ってもらうという目的をしっかり持って取り組んでいます。中国では、人々の実際の体験、経験、言葉による情報伝達が非常に重視されます。中国の2級、3級都市、それ以外の地域に対する広告宣伝は、こうした実体験型の方が効率よく、ピンポイントに伝わります。また、この取り組みは地域のディーラーと共同で行なっています。今後も中国のモータリゼーションにあわせて地域をまわり続け、トランスフォームする車両はまだまだ増やします。

---:日系ブランドが中国市場でどのようにとらえられているか、日系ブランドが中国で戦うためには何が必要でしょうか。

松元氏:中国ではVWの取り組みなどがあり、安全性については欧州車というイメージが強いのではないでしょうか。日本車は品質、燃費といった「バリユーフォーマネー」という面で強みがあると感じます。中国で日産は「技術の日産」とシンプルに打ち出しています。CVTやV6エンジンに代表される技術です。

《インタビュア:三浦和也、文責:土屋篤司》

《レスポンス編集部》

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