大矢アキオの『ヴェローチェ!』…イタリア車不振の陰でコンパクトSUVが元気!

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イタリア・シエナの街に佇む日産キャシュカイ
  • イタリア・シエナの街に佇む日産キャシュカイ
  • 日産キャシュカイ
  • 日産ジューク・イタリア仕様
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  • トヨタRAV4
  • フリーモントを発表するフィアット・ブランド責任者A. フォルミカ。2011年3月1日、ジュネーブモーターショー
 マーチの試乗に来てジュークを買ってしまった

イタリアで日本のコンパクトSUVが元気だ。

イタリア輸入車協会調べによる2011年2月のイタリア国内乗用車登録統計を参考にすると、日本ブランド車の登録トップ4は、
1位:トヨタ・ヤリス 2953台
2位:日産キャシュカイ(日本名デュアリス) 2706台
3位:トヨタ・アイゴ(プジョー-シトロエンとの合弁小型車) 1499台
4位:トヨタRAV4 1174台
の順だ。実に2モデルがコンパクトSUVである。

2位の『キャシュカイ』はセグメントC全体でも6位にランキングされている。4位の『RAV4』に至ってはセグメントDの2位で、それも1位のアウディ『A4』と171台の僅差である。

こうしたモデルの好調の恩恵は大きい。イタリア国内全体の登録台数が前年同月比マイナス20.49%と大きく落ち込む中、そうしたコンパクトSUVのおかげでトヨタはマイナス1.96%にとどまり、日産は前年同月比で17.39%のプラスを記録した。

上記のランキングには出てこないが、三菱は67.8%のプラスを記録している。これもコンパクトSUVである『ASX』(日本名『RVR』)の好調によるところが大きい。

実際に筆者が販売店に行き、現場のセールスから話を聞いてみると、面白い事実が浮かび上がってきた。「小型車を買いに来た客が、最後にはコンパクトSUVを買ってゆく」というのだ。

トヨタ販売店のセールスマンは筆者が聞くより前に「『RAV4』の販売は好調」と嬉しそうに教えてくれたのと同時に、「『ヤリス』の売れ行きは以前よりも落ち着いてきた」と話した。話をもとに資料を見直すと、たしかにヤリスは日本車トップを維持しているものの、前年同月比では1025台のマイナスである。

日産のセールスも「(2011年)1月末に『ミクラ』(『マイクラ』。日本名『マーチ』)をメインとしたディーラー展示会を催したものの、逆にキャシュカイや『ジューク』が飛ぶように売れた」と証言する。

欧州における現行型(2代目)ヤリスはモデル末期であること、ミクラはディーゼル版投入が遅れていることが、人々の関心を逸らせる原因となっていることを両ブランドのセールスは認める。

そこで資金的許容度のある顧客は、ヤリスを観に来てRAV4を買ってしまったり、ミクラを試乗に来たものの気がつけばジュークの契約書にサインをしていた人が続出しているのだ。

日本製コンパクトSUV人気の影には、「隙間戦略」ともいえる巧みなマーケティングもある。2万ユーロ(約230万円)台もしくはそれ以下を中心価格帯とした、スタイリッシュな小型SUVが欧州メーカーにほとんどないのだ。また、ジュークの1万6000ユーロ台からという設定は、同ジャンルの韓国ブランド車にもない低価格だ。

ところで迎え撃つフィアットといえば、2011年3月のジュネーブモーターショーで、同年後半から欧州市場に投入するSUV『フリーモント』を発表した。ベースは提携先であるクライスラーのダッジ『ジャーニー』だ。

2駆はフィアット製2リットルエンジンでマニュアル変速機との組み合わせ、4駆はフィアット製2リットルもしくは「ペンタスター」3.6リットルV6が選べ、変速機はATとなる。価格は明らかにされていないが、オリジナルであるジャーニーのイタリア販売価格は2万5000ユーロ(約285万円)台からだったので、同程度になろう。

遅れをとったSUV市場に、ひとまわり大きなサイズで、それも本国で4年前に発表された型のリメイクでどこまで立ち向かえるのか、興味あるところだ。

同時に、イタリアですでにダッジ版を買ってしまった人の気持ちは、スバル『トラヴィック』登場前に、そのオリジナルであるオペル『ザフィーラ』を手に入れてしまった人と同じであろうと考えると、少々複雑な心境になる筆者である。

大矢アキオの欧州通信『ヴェローチェ!』
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。
《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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