【インタビュー】EVドライバーの「15分」のために…JX日鉱日石エネルギー

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リテール販売部リテールサポートグループマネージャー田野靖幸氏(右)と、リテールサポートグループ担当マネージャー横田信之氏(左)に話を聞いた
  • リテール販売部リテールサポートグループマネージャー田野靖幸氏(右)と、リテールサポートグループ担当マネージャー横田信之氏(左)に話を聞いた
  • ENEOSスタンドに設置されている充電スタンドと三菱i-MiEV
  • 急速充電設備の設置を知らせるエネゴリくんの看板
  • EV用急速充電器
  • 充電器利用の際に発行される認証カード

今夏、ENEOSブランドを展開する新日本石油と、JOMOブランドを持つジャパンエナジーが合併し、巨大石油元売企業となるJX日鉱日石エネルギーが誕生した。

両ブランドの色を維持しつつ、全国を網羅した店舗ネットワークを活かし、電気自動車(EV)時代に向けて積極的に取り組む同ホールディングスが描く「EV時代のSS(サービスステーション)のあり方」について、JX日鉱日石エネルギー・小売販売本部リテール販売部の田野靖幸氏、横田信之氏に話を聞いた。

----:経済産業省の「平成21年度電気自動車普及環境整備実証事業」に対し、JX日鉱日石エネルギーはどうかかわったのでしょうか。

旧新日石と旧ジャパンエナジーであわせて24か所にEV用急速充電器を配置しました。エリアとしては青森・東京・神奈川・岡山・福岡ですね。青森・岡山・福岡はひとつずつ、残りは東京と神奈川に置きました。この経産省の委託事業として実験をスタートさせましたが、いまは当社独自の実験として継続させています。期間は2010年6月から2011年3月までの予定です。

----:JX独自の実験とはどんな取り組みなのですか。

ひとつはEVを自社導入し、それを100世帯のユーザに貸し出して、さまざまなニーズ調査を行いました。もうひとつはEVのカーシェアリングですね。これは24か所のうちの3か所を選び、その周辺のユーザに会員になってもらって無償でEVを貸し出し、顧客のニーズを調査しています。どちらのサービスも、いずれはどこかで有償化させたいですが、いったいいくらぐらいお金をもらえるか、そのほかの付帯サービスはないかなど、ユーザの声を聞き取りながら調査をまとめているところですね。

----:どんな声がユーザから届いたのでしょうか。

まずわかったのは、SSの最寄性について、たいへん便利だと感じている人が多いようです。自宅で充電できるにもかかわらず、「EVはスタンドで充電してもらったほうが便利だ」などの声が多く寄せられます。当社のモニターですから、ややバイアスかかっているのではないかと思っていたのですが、確信めいたものがありましたね。

やっぱりSSに行ったほうが便利だと言いますね。現状のEVは一回の充電で意外と走らないことや、EVの充電は自宅よりも出先で必要なんだなと、実際に乗って感じてもらえました。

イオンやローソンなど大手流通がEV充電サービスをどこまで取り組むかわかりませんが、EVに詳しいスタッフが常駐していないなどの不安もあるようですね。大規模な店舗になると、どこに充電器があるかわからないこともあるようです。その点、SSは自宅の近場で、クルマに詳しい人がいる。SSの存在を再確認してもらえた機会だったと思います。

----:最寄性という強みを持つSSの付帯サービスなどはどう考えていますか。

ユーザの声を集めてみて、いろいろとアイデアが出てきましたが、「ユーザのSSでの充電時間は15分」というひとつの結論にたどり着きました。その15分の間に何ができるかをいろいろ考えましたが、洗車となると、充電中に水をかけるわけにはいきません。そこで去年行なった実験では、水を使わない簡易洗車を試してみました。しかし、お金をかけてまで受けるサービスではないという実感を得ました。そして15分という、ある意味中途半端な時間を「くつろぎたい」「休憩したい」という声に耳を傾けることにしました。

しかし、単にSSにマッサージ器を置くだけでは芸がありません。ハードルは高いと思いますが、会員制ビジネスなどを考えて、仕組み・スキームを考えなければならないでしょう。EV時代が本格的にやってくる前に、顧客との接点を失わないよう、急速充電サービスを早くに打ち出したいですね。

----:洗車や車検、関連品販売など、石油業界用語でいうところの「油外商品」について、EV向けにガソリン車同様に取り組む予定でしょうか。

車検やカーケア機能というのは、ガソリン車であろうがEVであろうが、切り離せないでしょう。まさにSSの武器ですからね。しかし、EVだけにしかない特徴もあるわけで、充電時間と滞在時間もガソリン車より若干長いので、サービスの質も変わってくると思いますね。

最寄、近いところで、クルマのサービスを受けられる。EVだって電池が弱くなったり、電池の寿命がやってくるときがある。車重もそれなりにあるので、空気圧もこまめにチェックし、ガソリン車と同じような接し方から、EVにしかない関連域サービスにまで拡充させていきたいですね。

乗る人、ドライバーのニーズも当然違ってくるでしょう。EVのドライバーはエココンシャスな人かもしれない。こうしたユーザの意識の変化に対応したサービスを展開していく必要があります。

----:スマートグリッドとの連携について、どのような取り組みがありますか。

例えば、太陽光発電で得た電気エネルギーをクルマに充電するという場合、一連の技術的な課題はクリアできたのですが、やはりコストの面でまだまだ難しいと感じました。

EVの充電に必要な電気エネルギーを得るための太陽光パネルは、かなり大きくなるでしょうし、それを蓄える電池も必要となるでしょう。そうなると商業ベースにのるためのハードルはかなり高くなりますよね。今後、横浜などでスマートグリッドの実証実験がまた始まりますが、東芝や日産などといったキープレーヤーのなかで、我々はサブプレーヤーとして参加する予定です。

----:日産『リーフ』が間もなく発売されますが、同社に搭載されるような通信機能について、JX日鉱日石エネルギーはどうかかわっていこうとしているのでしょうか。

ユーザは、今や携帯電話やスマートフォンなどのモバイル端末で情報を取得してしまうでしょう。わざわざクルマのなかの通信機能を頼ってSSを探すというのは、あまりイメージできない。やはり、通信機能に我々が絡むというよりも、基本的に給油・充電とクルマ周りの事業に特化するのでしょうね。ただ、何分後にどこのSSの急速充電器が空くのかとか、どこのSSが混み合っているなどの情報は、通信会社などにデータを提供するということは考えられるかもしれません。

----:EV時代の手前にプラグインハイブリッド(PHV)車の時代が訪れると言われていますが。

現在、ENEOSで展開しているDr.Drive(安全点検、車検などトータルサポートが可能なSS)のオプションメニューとなりますが、SSスタッフのHV研修サポートや受入れ態勢の整備をすすめています。PHVとなると燃費は1リッター60km程度になるといいます。これは顧客接点を失うリスクも大きくなります。ガソリン車と変わらない、タイヤの空気圧チェックや、洗車・車検などをきっかけとして、きちっとクルマまわり全般について顧客と関わっていかなければならないでしょう。

こうした見地から、ガソリン車もEVも、自動車のエネルギーを供給する場所ということで、まんべんなくサービスを提供できるオールインワン・ワンストップなSSを目指していきたいですね。自動車メーカーなどが描く未来の充電インフラなどとはイメージが違って、我々はEVだけの充電ステーションというのは考えにくい。クルマの快適な走行を支えるためのSSの立場からすると、EVもガソリン車も燃料電池車車も、すべてに対応できるステーションになると考えています。

SSにどんなクルマがきてもそのドライバーに安心感を与えられるサービスが提供できることがベストです。これからはガソリン車の知識だけでは太刀打ちできないが、ガソリン車に対して電気自動車という、いわゆる分野が違う部分の研修プログラムづくりも必要に迫られている。こうしたプログラムは、自動車メーカーや外部ブレーンとの連携の上で具現化していきたいですね。

----:ENEOSとJOMO、両ブランドがひとつとなり、今後展開される新たな取り組みのヒントを教えてください。

ユーザの滞在時間15分は、変化球よりもストレートにサービスを提供していくほうがいいでしょう。いかにくつろげる場所を提供できるか。JOMOといっしょになったことを活かし、くつろげる空間づくりに積極的に取り組んでいきたいですね。

旧JOMOブランドで展開していたValueStyle(バリュー・スタイル)は、SSに立ち寄ったドライバーが、快適な時間を過ごしてもらえるように、清潔感のある店内にカフェやマガジンコーナーを設置しています。こうした旧JOMOのノウハウを活かしつつ、互いに相乗効果をあげていきたいですね。

Dr.DriveとValueStyleの融合型店舗が今後どんどん増えていくでしょう。このタイミングでEVドライバーの「15分」という課題をクリアしていきたいと考えています。

《レスポンス編集部》

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