2008年に発売されたイクリプスの「AVN Lite」シリーズ。取付け費込み10万円前後という強力な価格競争力と厳選された機能、そして使いやすさを徹底的に重視したインターフェース(UI)を武器に、初心者ユーザーを取り込みイクリプスブランドのシェア拡大に大きく貢献した。
そのAVN Liteがこの秋2年ぶりのフルモデルチェンジを実施して『AVN110M』が登場。ハードウェアの強化を図りつつ、好評のUIを見直してさらに使いやすさ・分かりやすさを向上したという。AVN Liteの企画発端と、新モデルの改良ポイントについて、製品統括部 アフターマーケット推進部の永元覚氏に聞いた。
◆新しい市場を作り上げるために、何が必要かを考えた
----:富士通テンは2008年に登場したイクリプス『AVN Lite』で“低価格AVN”という新しい市場を作り、この2年あまりでAV一体機の一大勢力となりました。そもそもAVN Liteの企画はどのような狙いだったのでしょうか。
永元:AVN Liteの企画がスタートしたのは2006年の後半です。アフターマーケット市場というのは、大きな成長が見込めない市場です。2006年から2007年あたりは、国内では当時15万円から25万円のAV一体型が主流でしたが、海外ではPNDも爆発的に普及しはじめ、今後は価格面の押し下げ圧力が強まっていくということは推測していました。
----:アフターで成長していくからには、新しい市場を作らなければならなない、と。
永元:“アフターマーケットでのパイを増やすにはどうすべきか“を考えた時、 “ナビをこれまで買ったことがない”層に狙いを絞ることが重要と考えました。軽自動車、コンパクトカー、あるいは女性層を中心に、ということです。
----:AVN Liteの企画がスタートした2006年の後半から、商品が市場に出た2008年にかけては、他のカーナビメーカーからはPNDが相次いで登場しました。一方イクリプスはこの秋にPND『EP001』が登場するまでAVN一本で勝負してきましたが、この理由は。
永元:当社は従来よりAVNを出してきたメーカーですので、2008年の時点ではいきなりPNDを出すという選択肢はありませんでした。高付加価値商品が売れる国内と低価格路線が主流の海外では市場の特性が大きく異なります。まずは、AVNの低価格商品で新たなニーズを切り開くことが先決という判断です。ただし、市場環境も変化してきましたので、今年の秋モデルでは、PNDモデルをリリースしました。
◆操作系の作り込みに徹底的にこだわった
----:フタを開けてみればAVN Liteは発売から25万台を超える大ヒットを記録しました。AV一体型ナビゲーションとしては異例の好セールスですが、このヒットの要因をどのように見ていますか。
永元:ナビを持っていない層をターゲットにしたと申し上げましたが、こうした層にナビを使わせるようにするには何が必要かを徹底的に調べました。一番こだわったのは、操作系、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)の作り込みです。「取扱説明書がなくても使えるナビ」がコンセプトでした。使いやすさにこだわるということは、機能も厳選することも重要でしたね。
----:高機能路線一辺倒になっていたAVNを、シンプルなナビに回帰させたのですね。
永元:とはいっても、ナビ機能でPNDに劣っていてはAVNである意味がありません。初代のAVN Liteではストレージは4GBでしたが、4GBだと収録できる地図データや検索データも限られてきます。ですが、交差点名称の読み上げなど本当に必要な機能は落とさずに収録しました。交差点の読み上げはPNDではほとんど入っていませんからね。
----:PNDの向こうを張る存在としてAVN Liteは25万台の大ヒットとなりました。
永元:もうひとつ決定的に重要なのは価格設定です。企画時に「取付け費込みおよそ10万円」というラインがあって、これが必須の条件としてありました。10万円というのは、購入のハードルが一気に下がる境界線です。国内市場では単独機種でこれだけの数がでることは滅多にありませんから、このヒットは嬉しい結果ですね。
----:AVN Liteは7インチのモニターを搭載しながらCDスロットもあり、一見高機能のAVNとは姿形は一緒です。低価格を実現するために、ハードウェアの開発や調達は苦労されたと想像できますが。
永元:今後伸び悩むであろうアフターのナビ市場でビジネスしていく中で、イクリプスとしてどうしていくべきか、という共通課題をもってAVN Liteの開発にあたりました。いままでナビを持っていないひとに提供するには15万円では届かないだろう、と。工賃込み10万円で初めてこの市場を開拓できるという意識を共有して取り組みました。
----:実際の販売では、狙い通り初心者層に売れたのでしょうか。
永元:購入者アンケートでは、7割が初めて買ったというお客様でした。また軽自動車ユーザーが全体のおよそ3割を占めています。当初想定していた売れ方と言えますね。
◆基本コンセプトはそのままに、機能とUIをブラッシュアップ
----:そして2010年の秋に、AVN Liteとしては初めてのフルモデルチェンジとも言える『AVN110M』が登場しました。新モデルのアピールポイントは。
永元:新型でも“使いやすさ”と“低価格”というAVN Liteの基本コンセプトは全く変えていません。その中で、こういう機能があったらいいんじゃないか、こうしたら使いやすいのでは、という声を反映させてUIや機能面でチューニングを加えています。
----:例えばどのようなポイントでしょう。
永元:まずハード面では液晶の解像度を上げLEDバックライトを採用したこと、ナビ機能面では例えば市街地図をオプションで用意したり、複数の目的地設定に対応しています。また、FM-VICS用に専用チューナーを搭載してNHK以外を選局していても渋滞情報を受信できるようになっています。UI面では、ボタン類をできる限り大きく配置して押しやすさを改善しました。文字入力方法も、50音ではなくケータイ式の入力とし、ボタン配置も改めて整理しました。
この他、ナビ機能では地図とワンセグの同時表示や方面看板表示、AV機能では簡易的タイムアライメントやイコライザ、USBオーディオ対応などを新たに加えています。
----:今回のモデルでは地図がトヨタマップマスター製からインクリメントP(iPC)製に替わりました。
永元:国内の地図メーカー全て比較しましたが、品質やコストを見た中で、新型AVN Liteに一番適していたものがiPC製の地図だったということです。上位モデルの『AVN7500』や『AVN7300』ではマップマスター製を引き続き採用しています。
----:市街地図に今回新たに対応しましたが、標準搭載とせずオプションとしていますね。
永元:標準搭載とするとそれだけ値段に跳ね返ってくるからです。市街地図が必要だというお客様にご提供させていただくためにオプション設定としています。
◆PNDとの両輪で初心者ユーザーの取り込み拡大を狙う
----:バックカメラとのセットモデルも登場しました。
永元:バックカメラのオプションはこれまで用意していましたが、パッケージ(『AVN110MBC』)で用意したのは初めてです。特に市販の場合、ナビ購入後にカメラを追加設置するというのは難しいためです。であれば最初からパッケージとして用意しよう、と。
----:SDHCカードのメモリ容量も8GBに倍増となっています。
永元:ナビ地図の3D表示や、市街地図の対応を考えると8GB化は必要でした。3D表示は前モデルで敢えて省いたのですが、お客様からの要望が多かったこともあり、今回新たに採用しました。
----:AVN Liteのヒットを受けて他社から追随するモデルが登場するかと思いましたが、他社は追いかけてきませんね。
永元:AVN Liteを出したときは1年も経たないうちに追いつかれるだろうと思っていたのですが、各社から投入される製品はAVN Liteと直接競合するものはまだ出てきていませんね。これは少々意外でした。やはり、割り切った機能とGUIまわりの使いやすさ、そしてコスト面で優位に立てたのでは、と分析しています。PNDのEP001とAVN Liteとの両輪を『イクリプスLite』シリーズとして、初心者への浸透をさらに拡大していきたいと考えています。
《聞き手 三浦和也》