ホンダ『CR-Z』に、かつての『CR-X』と比べて足りない部分があるとすれば、こういうキャラだろう。そう思ってしまうほど、『シロッコR』は別物感たっぷりのスポーツクーペだった。
“2リットル直噴ターボ”というエンジン形式は2.0TSIと同じだが、ターボであることを感じさせないTSIに対し、こちらは3000rpmあたりではっきり加速が勢いづく。低く太い排気音のおかげもあって、255ps/33.7kgmという数字以上のスポーツマインドを感じさせてくれる。
さらに感心したのは、FFでありながら力を持てあましていないこと。発進で全開をくれれば前輪は空転するけれど、それ以外で同様の場面に出くわすことはほとんどない。リアサスペンションがしっかり踏ん張るおかげで、フル加速でも前輪の接地感が失われず、FRと錯覚するほどのトラクションで強烈に加速していく。
コーナーでも後ろ足の踏ん張りが安定感を生み出してくれるから、FFスポーツならではの操る楽しさを安心して味わえる。
4WDにしなかった結果得られた軽快な身のこなし、予想以上に快適な乗り心地もうれしい。開発陣が考えるシロッコの理想形はこのRだったんじゃないだろうか。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
森口将之|モータージャーナリスト
試乗会以外でヨーロッパに足を運ぶことも多く、自動車以外を含めた欧州の交通事情にも精通している。雑誌、インターネット、ラジオなどさまざまなメディアで活動中。著書に『クルマ社会のリ・デザイン』(共著)、『パリ流 環境社会への挑戦』など。