【クラリオン 70周年】 “チャレンジする社風”の源は…開発者に聞く

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オンライン交通情報探索に対応した『スムーナビ NX609』
  • オンライン交通情報探索に対応した『スムーナビ NX609』
  • 『スムーナビ NX308』
  • 日本初の車載PC『AutoPC CADIAS』 2002年
  • 米マイクロソフトと共同開発した『AutoPC』 1998年
  • 【クラリオン 70周年】 “チャレンジする社風”の源は…開発者に聞く
  • スムーナビ NX609
  • 商品開発室担当部長の国井伸恭氏
  • SSD搭載AV一体型「スムーナビ」の商品企画を担当したAV/NAVI商品企画部の清水健良氏

2010年、創立70周年を迎えるクラリオン。同社の歴史を振り返れば、日本初のカーラジオの開発に始まり、カーステレオ、音声ナビ、Windowsベースの車載PCの発売など、常に新しい発想を世に問うてきた歩みでもあった。

このチャレンジ精神はどのような社風から生まれたものなのか。同社商品開発室担当部長の国井伸恭氏と、市販初のSSD搭載AV一体型「スムーナビ」の商品企画を担当したAV/NAVI商品企画部の清水健良氏に聞いた。

◆「進むべき方向が決まればそこからの動きは早い」

----:クラリオンの歩みを振り返ると、時代に先駆けた製品を世に送り出してきた歴史でもあります。こうした“ないものを生み出そう”とする発想の源はどこにあるとお考えでしょうか。市販ナビで初となるSSD(Solid State Drive)搭載AV一体機『スムーナビ』もその“クラリオンらしさ”が発揮された一例だと思いますが、新しいストレージを使うことを決断した理由についてまずお聞かせください。

国井:では、SSD採用の背景から説明させていただきます。私は90年代末にAutoPCを手がけた後、01年以降ナビ畑でHDDをストレージとして開発に取り組んで来たわけですが、ここ最近HDDのロードマップを見ていると、容量は増えるもののデバイスとしての価格はなかなか下がらないという実情がありました。カーナビの低価格化が進む中で、新しいストレージを採用する必要性を感じていたのです。価格面での折り合いが付きそうなメドを付け、07年の冬にリリースするスムーナビで採用したというわけです。

清水:開発側が“安くて良いナビを実現するにはどうしたらいいか?”を真剣に考えた結果、強い意志をもって“クラリオンの製品はSSDを使っていくんだ”と進むべき方向が決まってしまえば、進展は実に早かったですね。

----:クラリオンは市販だけでなく、自動車メーカーと協業してディーラーオプション(DOP)ナビを中心とするOEMビジネスも展開されています。OEMナビにも早くからSSDを採用していましたが、当初この新しいストレージが取引先に受け入れられるか、不安はありませんでしたか。

清水:実を言うと採用当初はけっこう苦戦しました。約2年前というとストレージにメモリーを採用しているのはPNDくらいでしたからメモリー=低スペックという印象が一部のお客様にはあったようです。

国井:ですが、取引先に対して信頼性や読み書き速度といったSSDの長所を粘り強く説いていくと、だんだんとそのメリットを受け入れていただけるようになりました。もちろん、他社からSSD採用の一体型ナビが登場し、PNDの高機能化が進んだという背景もあります。

◆スムーナビの投入に合わせてプラットフォームを一新

----:SSD採用のAV一体機というと、下からはPNDの低価格路線に引っ張られる恐れがある一方で、上位のHDDモデルからは例えば型落ちモデルの値引き攻勢があったりと、価格維持が難しい点もあったと思います。

清水:価格面のポジショニングは開発当初から考慮していました。ですので、設計段階からひとつひとつのパーツを吟味して、コストを下げていくことでトータルの原価を抑えています。

国井:スムーナビの開発に当たってはSOC(System On Chip:カーAVナビとして必要とされる一連の機能を集積した半導体チップ)を含めたプラットフォームを一新しています。これもコスト削減の一環ですね。

◆価格が安いモデルだからといって妥協はしない

清水:SSDナビに対する風向きが大きく変わったのは、09年に入ってからです。スム―ナビは08年暮れに出した改良モデルで市街地図を入れるなどしてナビ機能の向上を図ったのですが、こうなると機能的にはHDDとの差がなくなってきます。

----:確かに、特にナビ性能においては上位モデルに匹敵する機能を揃えていますね。

国井:まずスムーナビを開発するに当たって大前提としてあったのは、SSDナビをやるにしても、“カーナビの基本的性能”については(ハイエンドHDDナビの)『クラスヴィア』と差を付けない、ということでした。われわれはカーナビメーカーです。自律系センサーとGPSとのすりあわせを初めとするナビゲーションのノウハウについては、製品の価格レンジに関係なくできる限りのことをやったつもりです。

◆より幅広い顧客層を意識したHMIづくりを

----:PNDの登場とAVNの低価格化でディーラーの営業からしてみればカーナビを安価で提供するなどして、値引きの原資として利用する場合もよくありますし、ユーザーにとってはクルマとナビを同時購入すればローンも一緒に組めるなど、双方にとってのメリットもありますからね。一体型ナビの低価格化でカーナビ購入の敷居はより下がっています。

清水:ハイエンドモデルの『クラスヴィア』のように、DVDも見られて、後席モニターも見られるといった“全部入り”を望む層も存在する一方で、CDだけでいいとか、iPodが聞ければいいとかいった理由でオーディオ代わりに一体機をチョイスする層も増えてきています。当社としては、エントリー層や高齢者にも使いやすいように、統合されたインターフェースを追求してブランド価値を高めていきたいと考えています。

国井:当社では“Clarion HMI(Human Mobile Music Media Interface)”というブランドスローガンのもとインターフェイス開発には特に力を入れています。

◆苦闘の連続だったWindowsカーナビ

----:クラリオンでは、海外市場では98年からWindowsプラットフォームで車載器を展開するという構想で開発を進めました。その取り組みは2002年に『AutoPC CADIAS』というプロダクトで結実しましたが、汎用プラットフォーム上でナビを動かすことについて、どのような構想を持っていたのでしょうか。

国井:Windowsはカーネルだけで完結しているOSではありません。通信機能や外部機器との接続、そしてUIなど、さまざまなミドルウェア/モジュールが付随しています。カーナビメーカーにとってはこれらのモジュールの存在が重要です。iTornのようにカーネルのみのOSだと、メーカーがミドルウェア以下をスクラッチで組まなくてはいけない。カーナビの機能が増えて行くにつれて、いずれは開発的にはしんどくなっていくであろうことは開発当時の時点でも容易に想像できました。

----:そこでマイクロソフトとのコラボレーションが浮かんできたのですね。ですが、当時のハードウェアでは車載要件を満たすために相当な努力が必要だったのではないですか。

国井:CADIASの頃はまだ『Window CE for Automotive』と呼ばれていた頃でしたが、また車載用として十全な機能が備わっていませんでした。また、イグニッションのON/OFFのような電源変動があったとき、ナビをしながらの音楽再生といったようなマルチタスク環境でもリアルタイムで動かすことができるか、といった課題をクリアするのは大変な苦労でした。協業した他社の開発者とも協力しながら、努力を重ねたのです。“日本初の汎用OSを実現したい”、という思いが開発者たちの一心にあったのでしょう。

清水:ドライバなどの下回りについては、Windowsはとても開発しやすいプラットフォームです。HMI関係の工数低減にもつながりました。

国井:ただ、当時は情報がとても少なかったのを記憶しています。参考書も1冊しかなく、それを発注して、プロジェクトメンバーの全員に配ったくらいです。例えば、メモリーリーク時の原因究明など、検証やデバッグ自体が試行錯誤でした。マイクロソフトの開発拠点である調布に行き来して、そこで寝泊まりしたときもありましたよ。

----:クラリオンのナビ開発は苦闘の歴史でもありますね。リスクを背負ってでも新しい分野に切り込んでいくクラリオンのフロンティア精神を示すエピソードだと感じました。

清水:もちろん、私たちが業界で最初に取り組んだ事例のすべてが成功しているとは限りません。ですが、普及価格帯へのVGA採用や、ワイド7インチの大型モニター、ジャイロ・GPS・車速センサーを組み合わせたハイブリッドの自車位置検出、などは他社に先駆けて取り組んだことで業界標準となった機能も少なからずあります。

◆「小回りの良さ」と「思い切り・決断の早さ」

----:クラリオンにとってOEMナビも非常に重要なビジネスですが、ではOEM部門と市販部門はお互いどのように連携しているのですか。

清水:DOPナビは、もとは市販品をそのまま持ってくるというのが前提でした。ですが、自動車メーカー様との協力を通じて様々な要望が出てきましたので、独自の仕様を次第に付加するようになっていきました。そうした要望を実現するフットワークの良い開発体制が当社に整っていたことはこの分野の業容拡大に少なからず貢献していると思います。

国井:「思い切り・決断の早さ」と「小回りの良さ」とは当社の特長と言えるかも知れませんね。

◆グループ間の連携は強めていく

----:昨年、日産のメーカーオプションナビを開発していたザナヴィ・インフォマティクス(以下ザナヴィ)と統合しました。現在はどのような体制で取り組んでいるのでしょうか。

国井:09年の4月1日付けでザナヴィと完全統合し、現在はここさいたまと水戸、そして座間の3拠点で開発に当たっています。マネージャークラスも旧クラリオン/旧ザナヴィ入り交じっていますし、組織的には統合は順調に進んでいます。

----:ザナヴィは日産のメーカーオプションナビを長年引き受けてきた実績があります。開発サイクルなどクラリオンとは異なる部分も多いのではないですか。

国井:そうですね。また、営業スタイルも両社では異なります。DOPはこちらから営業しなければクライアントを獲得できませんが、MOPは基本的に受注。異なる開発ラインにあるものについては、一挙に統合という訳にはいきませんから、海外の拠点や工場の生産ラインも含めて、最適化を図っている最中です。

清水:今後のカーナビの進化を見据えると、通信・テレマティクスの技術は重要なキーファクターになってきますから、旧ザナヴィ、旧クラリオン、そして日立を含めた、グループ内での協業を一層図っていくことになるでしょう。

◆世界のマーケットを意識した製品開発を

----:この2年はナビメーカーにとっては非常に厳しい時期だったと思います。逆に、この経済状況で得たプラス面の体験・経験はありますか。

国井:やはりコストの考え方ですね。特にスケールメリットを重要視するようになりました。国内の車両販売台数は漸減していますので、グローバルへの展開を意識した開発が必要です。

清水:ここ3・4年でナビのあり方は大きく変わっていくでしょう。テレビのアナログ終了に伴う周波数帯の再編、3G/3.9G、そしてWiMAX。また、私たちが『チズルとススム』でやっている地図ポータルや日立が得意とするWeb・通信ビジネスなど、これらを連携したサービスがカーナビにも取り入れられてくるでしょうね。

----:これまでのメーカー的な考え方から脱却したサービスの発想が必要になってくるのでしょうね。

国井:いままではハードウェアを売っておしまいでしたが、端末価格が安くなっているなかで売り切りビジネスの将来は厳しいものがあります。当社でも09モデルからBluetooth連携によるプローブを取り入れましたが、通信が入ることによるカーナビの変革を機に、収益構造を再構築していく必要はあります。

清水:私は、あとから機能追加ができるプラットフォームが鍵になると考えています。商品のライフサイクルを通じてお客様とリレーションシップを築いていくことが必要でしょう。また、ハイブリッドを初めとするエコカーに注目が集まっていますので、エコをキーワードにしたサービスは必須ですね。

◆MiNDのエッセンスは今後の製品に引き継がれる

----:北米と欧州市場で投入したインターネットナビゲーションデバイスの『MiND』はカーナビのみならず、ITの世界でも最先端の事例でした。

国井:MiNDは市場に対して積極的に問うていく当社の姿勢が現れた典型例ですね。MiNDで収益構造を作れますかと言われると、正直厳しいものはあります。ただ、Linuxベースのソフト開発やネット企業との連携については、得られたノウハウは無数にあります。今後出すカーナビでMiNDのエッセンスを活用できる機会はあるはずです。

----:初夏にリリースする新型モデルに向けて開発は佳境に入っていると思います。この新モデルについて、開発陣からの抱負はありますか。

清水:いま、開発は最終の追い込みにかかっています。SSD搭載の一体型AVNというスムーナビの方向性は維持していますが、いままで先行開発していたエッセンスも入れていくつもりです。是非ご期待いただきたいと思います。

《聞き手 三浦和也》

《まとめ・構成 北島友和》

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