MiToの発表試乗会に赴いたときのこと。この小さなアルファロメオを開発した背景として現地のスタッフは、「イタリアでも若者のクルマ離れが進んでいる」ことを挙げていた。
そのためには、そこそこ手頃な価格だけど決して安物じゃなく、ポップでオシャレで乗って楽しいクルマを作らなければいけない。
その回答がアルファの場合MiToというわけで、そんな彼らがさかんに言っていたのが『ターゲットモデルはMINI』だった。つまりMiToはMINIを最大のコンペティターと考えて登場しており、それだけこのセグメント(欧州Bセグメントのカジュアルプレミアム路線とでも言おうか)においてMINIが成功を収めているということだ。
◆バリエーションの豊富さが魅力のMINI
MINIの魅力のひとつに、オプショナルプランを加えたバリエーションの豊富さを挙げることができる。なかでも、“MINIといえばクーパー”という日本人の刷り込みに応えてくれるスポーツバージョンの存在が、マーケットのイメージリーダーモデルとしても大きいとボクは思っている。特に、クーパーS(クラブマン/コンバーチブルを含む)もの“理屈抜き”のファン・トゥ・ドライブさは、先代以来、多くのニューMINIファンを育てた。
そんなクーパーS/クーパーSクラブマンと、MINIをライバルに開発されたMiToの日本仕様は、スポーツ性という点で互いに格好の好敵手(ライバル)である。同じターボカーでも排気量的にはクーパーSの方が200cc多いこともあって、最高出力ではMiToの155psに対してクーパーS系が+20psの175psと勝っている。けれども、ホットハッチの“楽しさ領域”で主に重要となる最大トルクでは、ほぼ互角(MiToはオーバーブースト時)だから、勝負としては面白い。
◆FFホットハッチの古典的な操縦感覚が魅力のMiTo
ボディサイズを考えると、MiToがなんだかんだ言って全長4mちょいあるから、ジャスト4mサイズのクーパーSクラブマンでもライバルとして遜色ないことになる。もちろん、走りの印象においてはハッチバックモデルの方がよりホットではあるけれど、実用性+ファンという点でクラブマンの存在もクローズアップされていい。
実際に乗り比べてみると、どうか。MiToの魅力は、その古典FFホットハッチかくあるべし的なライドフィールや操縦感覚にあると思う。決してモダンな乗り味ではない。基本的な走りの性能をしっかりと煮詰めた上で、アルファロメオらしさ、たとえば最初は粘り気が強く途中からシャープになるステアリングフィールやDNAという走行モード別制御によるドライビングファンの演出、を随所に散りばめた。
内外装ともに誰が見てもイタリアンモードで、決して質感が高いわけじゃないけれども、走る気分はかなり昂揚する。そういうイタリア流の巧みさを感じずにはいられないし、町中をゆっくり走っているつもりでも、だんだん気持ちの方が熱くなっていくサマは、正にアルファロメオらしさのせいというべきだ。
◆クラブマンは上質なライドフィール
対してMINIのクーパーSクラブマンはどうか。二世代目になって、先代のいかにもゴーカートちっくなフラット感覚がやや薄れ、いい意味で乗り味がフツウのクルマに近くなったMINIだったが、ホイールベースの長いクラブマンはさらに走りにしなやかさが加わって、はっきりとライドフィールが上質になった。乗り心地にピーキーな面がなく、高速域での安定感ではMiToを上回っている。
それでいて、より地面に近いドライブ感覚はMiToとはまた違う種類の一体感を乗り手にもたらしてくれるし、ツボにハマれば時が立つのを忘れてしまうくらいに運転に夢中になれるエンジンの活発さも特筆ものだ。そういった“引き”の強さは、本物のコンパクトカーならではだろう。
全くコンセプトの違う2台。乗り手を熱くさせる手法も、実際の走りの楽しさにおいても、その感じさせ方はまるで異なっているけれども、乗った後の充実感というか、“今日は走ったな”という満足度では、両車ともに他のコンパクトカーを大きく上回っていた。