そこに存在するだけで、タダならぬ存在感を発散させることこそスーパースポーツの証であり、フェラーリはその典型。だが、この『カリフォルニア』は存在感こそあるが“タダならぬ”度合いは控えめだ。意外と周囲の景観になじんでしまう。
理由は、車高にあるのではないだろうか。同じフェラーリでも『430スクーデリア』は1200mm以下。ところが、カリフォルニアは1308mm。たとえば、『フェアレディZ』と比べても大差ない。
とはいうものの、いわば現実感の獲得により得たものも多い。運転席に腰を降ろしたときの着座位置が低すぎないので、思わず身構えるといった事態になりにくい。頭上のスペースにさえ余裕がある。ミッドシップにエンジンを搭載するスーパースポーツで問題になりがち(カリフォルニアはFR)な、後方の視界が十分に得られないといった不安とも無縁でいられる。
また、カリフォルニアはフェラーリでは初となるデュアルクラッチ式2ペダル7速MTを採用。オートモードを選択すれば、AT限定免許の人でも当たり前に走らせることができそう。ダンパーは減衰力を連続可変制御するので、日常的な場面での乗り心地は驚くほど快適。エンジンをスタートする瞬間こそ“バォン”という咆吼を発するものの、走行中の静粛性は想像とは大いに異なり興覚めするほど優れている。
だが、それもこれもあくまで日常的な場面での印象だ。アクセルを踏み込み、エンジンが3000回転を超えるとカリフォルニアはスーパースポーツとしての本能を剥き出しにする。その瞬間、まさにフェラーリであると納得せずにはいられない。こうした二面性を持つことが、新世代のスーパースポーツに求められる価値なのかもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
萩原秀輝|モータージャーナリスト、AJAJ理事
在学中よりレポーターとして活動。同時期からツーリングカー・レースに参戦。連続入賞や優勝の経験がある。そうした経験を生かし「クルマの走り」と「ドライビングの理論」について深い洞察力を持つ。クルマに対する知識とドライビング理論に基づき、自動車メーカーなど主催の安全運転教育インストラクターの経験も多数。とくに、日本に初めて実践型安全運転教育を導入した輸入車系のスクールでは、開校時の1989年から現在に至るまでの受講者が累計で10000人を越え、その指導にかかわってきた。