エコじゃないし、癒しもない。昨今のトレンドとは真逆をいくクルマだけれど、BMW『Z4』はスペシャリティカーらしい楽しさに満ちている。
筆者が試乗した「sDrive35i」は、Z4のトップグレードに位置するモデルで、とにかく過激だ。直列6気筒3リットルの直噴パラレルツインターボエンジンを搭載し、トランスミッションはツインクラッチの7速DCTを装備する。今の時代背景を無視すれば、これほど楽しく蠱惑的なパワートレインはないだろう。少し過敏なまでの正確さを示すハンドリングと合わさり、ひとたび走り出せば、否が応でも運転に引き込まれる。都内で乗っていると、そのじゃじゃ馬ぶりにちょっと疲れるほどだ。まるで戦闘機に乗っているような気分になる。
このようにBMW Z4は抜群に楽しいクルマだが、それだけに日常利用だと気になる部分もある。
例えば、BMWの7速DCTは超低速時でのスムーズさがイマイチで、駐車場内や都内の渋滞に捕まった時などは、ギクシャクした動きに少し辟易した。むろん、高速走行やスポーツ走行では楽しいトランスミッションなのだけれど、全速度域でのスムーズさは、同様のメカニズムを持つフォルクスワーゲンのDSGやアウディのSトロニックの方が優れていると感じる。
また、根本的な部分として、「35i」のパワートレインは日本では過剰に過ぎる。バランスや軽快感も含めて考えれば、下位グレードの23iで充分だろう。それでもZ4の魅惑のデザインは変わらないし、常に緊張状態を強いられることなく、運転が楽しめるだろう。
これから10年 - 20年後を考えれば、Z4のように内燃機関を操る喜びに満ちたクルマが公道で楽しめるかはわからない。それほど遠くない将来、それは乗馬のようなエンタテイメントになってしまっている可能性だって考えられる。資金に余裕があったら、乗っておきたいクルマのひとつである。
■5つ星評価
パッケージング:★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★
神尾寿│通信・ITSジャーナリスト
学生時代にIT専門誌で契約ライターをし、その後、大手携帯電話会社の新ビジネス企画担当などを経て、1999年にジャーナリストとして独立。ウェブ媒体やビジネス誌、新聞各紙を中心に執筆する。通信およびインターネット、ITS、次世代交通システムなどの分野で、技術および市場動向の取材、ユーザーニーズの分析を行っている。21世紀の交通社会に向けたクルマの進化、安全および環境分野での先進技術/サービスの開発・普及と、利用促進に向けた取り組みを重視している。2008年からCOTY選考委員。