3 | タレント料理人の意外な弱点 |
しかし、こうした人気絶頂のタレント料理人にも、唯一の弱点がある。それは「自分の国を出ると、意外に知られていない」ということだ。
背景には彼らが使う言語と、欧州では各国に確立した食文化があるのだろう。そのため、たとえ他国の料理番組を受信できても、人々はあまり関心を示さないのである。
追い討ちをかけるかのように、欧州でも衛星・地上波テレビのデジタル化を機に、よりエリアを限定した放送を行なうようになってきた。アナログ時代にはチラ見できた隣国の放送がだんだん映らなくなってしまった。彼らの名前を冠した商品も、国境を隔てるといきなり売られなくなる。
したがって前述のミッレミリアにおけるリヒターも、異国の地方都市で、それも東洋人に騒がれたことはかなり驚きだったようだ。
それからすると、世界各地で有名な食品は、ずばり「ポール・ニューマンのオーガニック調味料」シリーズである。もはや26年近い歴史がある。日本でも彼の肖像ドレッシングやミートソースが、和田アキ子女史の麻婆春雨と背中合わせの陳列棚に並んでいたりするから、ご覧になった方も多いだろう。
ただし少々心配なのは、あの世の人となってしまった今日、彼を俳優やルマン・レーサーではなく、伝説の料理人と信じる人が今後増えていくのではないか? ということだ。
喰いすぎ注意 |
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。