【中国 次世代トヨタ】入庫と作業が“視える化”BP工場

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◆広汽トヨタディーラーのサービス工場入庫は月間900台

広汽トヨタ(GTMC)ディーラーのほとんどは販売店に本格的な整備・修理工場を併設しており、鈑金塗装ブースまで自社で揃える。取材した広汽トヨタ第一店では、サービス工場に入庫してくる車両はなんと月間900台に達するという。1日あたり30台もの数を点検整備/修理/鈑金対応している計算だ。

これだけの入庫数を実現できているのは、e-CRBの導入、とくに i-CROPと連動してサービス工場への入庫・作業進捗を可視化する電子ボード「SMB(Servics Management Board)」があるゆえ。

e-CRBが導入されるまでは、顧客が事前連絡なくディーラーに現れ「ここを直してくれ」とクルマを置いていケースが大部分だったという。サービスフロントはいつ来るか分からぬ修理依頼に対して都度対応を強いられ、ストール(サービスピット)は入庫率も一定せず稼働率はなかなか上がらなかったという。 e-CRB導入以前のサービス入庫は月間平均400台程度と、現状の半分以下だった。

広汽トヨタ第一店の黄永江GMは「サービス部門はe-CRBの効果を実感できた顕著な例です」という。「中国には事前予約という習慣がありませんでしたが、e-CRBの導入によって入庫予約率が大幅に高まりました。コールセンターによる点検入庫のコールアウトを積極的に実施し、修理と一般のメンテナンスを分別して工数管理することで、ストールへの入庫時間を計画的に配分し、稼働率を上げられるからです」。

SMSでは縦軸にストール、横軸に時間が表示され、15分刻みで入庫のスケジュール入力できる。点検や整備の内容によってかかる時間(工数)が分かるので、計画的に入庫スケジュールを組み立てられるというわけだ。

◆ストールスケジュール/作業進捗を“視える化”

ではSMBの活用事例を見てみよう。

i-CROPに記録された顧客情報から一定の走行距離に達した(と推測される)車両のオーナーに対して、コールセンターから点検入庫を勧める電話をおこなう。オペレーターは、PC上でSMBにアクセスしてその場で直接入庫予約が可能だ。これはコールイン時も同じで、故障修理依頼の事前連絡があれば、ストールの空き状況を確認して入庫を確約できる。ストールがすべて埋まっているときに来店したがために、長時間待たされるというケースもなくなった。サービスは故障や点検箇所に対しての準備が事前にできるので、作業そのものも迅速に行え、結果的に顧客満足度の向上にもつながったという。

「e-CRBで計画的に予約をとらないと、1日30台の整備は無理です。お客様に事前予約をしていただいて、われわれも納期をきっちり守る。そうするとお客様も次回また来ていただける。そういういいサイクルができつつあるのを実感します」(黄GM)

作業の進捗状況は、顧客が待つラウンジに設置された大型モニターで確認が可能で、別モニターには予定作業時刻も表示される。

◆サービス技術を平準化する“システム台車”

SMBによる緻密な入庫スケジューリングは、サービスの技術が平準化していなければ実現できない。サービススタッフの技量によって早く作業が終わったり、逆に時間内に終わらなかったりというケースを防ぐために、ストールでの作業も徹底的な効率化が図られている。

その例が、最小限の移動量でタイヤ交換や各種点検・整備を可能にする「システム台車」だ。広汽トヨタでは“エクスプレス・メインテナンス(EM)点検”と称して、短時間の点検整備をおこなっている。このシステム台車には、タイヤの作業リフターや点検整備に必要な工具一式が備え付けられており、タイヤの脱着を伴う足回りの点検であれば3分とかからない。

鈑金・塗装(BP)工場でも作業の効率化は徹底されている。鈑金修理では一般的に車両は1か所に置かれ、鈑金後塗装ブースへ移動させる(大ダメージ車ならば鈑金前にフレーム修正機にかける)。広汽トヨタのBP工場では、入庫時に損傷に応じて大・中ダメージ/小ダメージ/バンパーの3ラインに振り分けられる。さらに鈑金・塗装は9つの工程に分けられており、それぞれの流れ作業で分担する方式をとっている。

広汽トヨタの可春光サービスフロントチーフによると、「工程の分割化は作業時間を大幅な短縮しており、これまでの小ダメージ車両の鈑金修理に要するリードタイムが50時間から8時間へと大きく短縮されました。現在、このBP工場では1日10台の修理が可能です」という。

また、鈑金の必要のないバンパーについては専用の補修ブースが設けられている。前・後のバンパーの仮置きを1つの乗せ台で兼用するなど、スペースの節約と工具点数の増加を防いでいる。これらは、日本の高岡成形工場でのアイディアを活かしているということだ。

◆「BPラインは私の誇り」

BPの作業工程も当然ながら“視える化”されており、鈑金塗装修理の受付では、専用の「BP-SMB」が設置されており、ここでは作業待ち・鈑金・下地処理・塗装・乾燥・洗車といった工程ごとの進捗をより詳しく確認できる。

「BP-SMBの仕組みには最初とまどいがありましたが、慣れるに従って効率的な工程管理ができるようになり、今では“短時間で納期通りに仕上がる”とお客様には喜んでもらえています。BPラインは私の誇りでもあります」と可サービスフロントチーフは胸を張る。

◆ディーラーの経営を支えるサービス部門

見てきたように、広汽トヨタのサービス工場では、車両生産工場同様に工程が分割され、SMBにより“見える化”が徹底されている。結果として、正確な納期提示が可能になり、顧客はより積極的にディーラへの予約入庫をするようになるという好循環を生んでいる。

黃GMは「金融危機の影響で新車販売は、08年の後半若干足踏み状態が続いたが、サービス部門の売上は景気の影響を受けず順調に伸びている」という。

新車販売の売上は2008年は2007年比で65%にまで落ち込んだが、サービス売上は216%に倍増している。結果としてサービスの売上構成は2.1%から7.0%にまで高くなった。

広汽トヨタの総経理助理友山茂樹氏は説明する。「広汽トヨタのディーラーでは、サービスの売上が四半期ごとに右肩上がりで伸びています。売上げ的にはサービス部門の占める部分は大きくはないのですが、サービスはディーラー利益率が50%ぐらい出ます。新車の(利益率)3 - 4%に比べれば、非常に大きい。したがって売上げは圧倒的に新車が多いのですが、利益はサービスが出すという構造になっています」。

友山氏の利益率(サービス利益率50%、新車利益率3.5%)を当てはめると、新車販売が前年比65%に落ち込んだ2008年でもサービスが補ってわずかな増益を達成。2008年のディーラーの利益構成は新車売上による利益と、サービス売上による利益がちょうど半々となった。しかもサービス売上は現在進行形で積み上がっているため、数年後の第一店はサービスによる利益が新車販売を圧倒することになる。

◆アフターサービスが自動車ビジネスをドライブする

「ディーラーにとっては新車を売れば売るほど、利益率の高いサービス入庫が取得できるので、定常的な収益になります。しかも入庫してくれる顧客の多くは再びディーラーで新車を代替します。e-CRBで顧客とコミュニケーションをとり、つなぎ止めておくことで、メーカーにとっては新車販売の成長が見込め、ディーラーにとってもサービスによる利益成長が見込めるのです」(友山)

以上のように、新車販売によるディーラー収益構造から、サービス売上による収益構造への変化をメーカー指導で行うことが、ここ中国ではトヨタの新しいビジネスモデルとして構築されつつある。リピーター+新規の新車販売で保有客を増やし、そこからのサービス収入でディーラーの経営を成り立たせることで「新車販売で利益が出なくてもいい」という認識をディーラーに持ってもらうのはメーカーにとって好都合だ。

思い出されるのは、ガソリンスタンドの例だ。石油元売りはガソリンスタンドに油外、つまりガソリン販売以外の整備や洗車などの利益率が高い商品に力を入れるよう促してサポートする。一方、ガソリンは薄利多売を勧めて集客に使うよう推奨している。ディーラーは宣伝費をかけなくてすみ、元売りはガソリンが沢山売れてハッピー、という筋書きだ。

広汽トヨタは、サービスを新車販売のツールとしても、またディーラー収益としても活用する。一挙両得作戦どころか、中国市場で「サービスのトヨタ」という信頼を得ることで新市場でのブランド構築にも貢献するツボとして狙いを定めている。

「(中国では)マーケットの拡大とともに、台数も収益も拡大する。こうしたビジネスモデルを確立していきたいと思います」という就任会見での豊田章男新社長の言葉が響く。まさに、新ビジネスモデル。トヨタはここ中国で「製造クオリティのトヨタ」から「アフターサービスのトヨタ」に脱皮しつつある。

《北島友和》

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