【神尾寿のアンプラグド 特別編】ドコモ参入で競争激化!? 車載モジュール市場

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1990年代後半から爆発的に普及し、「1人1台」があたりまえになった携帯電話。しかし、その総契約数はすでに1億の大台を超えており、コンシューマー市場の成長は鈍化の兆しを見せている。MNPによる携帯電話会社の変更はあるが、“初めてケータイを持つ”という純粋な意味での新規契約市場は先細る一方である。

この市場環境の変化の中で携帯電話会社が注力するのが、1人のユーザーに2台のケータイ/スマートフォンを持たせる「2台目市場」の創出と、ひと以外のモノに通信機を内蔵する「通信モジュール市場」の創出である。1人のユーザーのまわりに多くの通信需要を創り出すことで、契約数増加の頭打ちを防ごうというワケだ。

そして、後者の「通信モジュール市場の創出」において、一大マーケットとして期待されているのが、クルマ向けの“車載通信モジュール”市場である。周知のとおり、国内の自動車保有台数は約7000万台。最近ではトヨタの高級ブランド「レクサス」のように通信モジュール標準装備で出荷されるクルマもあるが、ほとんどの乗用車/商用車が通信モジュール非搭載だ。新車製造時の組み込みから車載器としての後付けまで、車載通信モジュールの潜在市場はとてつもなく大きい。

◆ドコモが「車載通信モジュール市場」に本格参入

2009年4月2日、NTTドコモが本格的な車載通信モジュールとなる「FOMAテレマティクスモジュール(TM01-SA)」を発売した。少し意外に思われるかもしれないが、本格的な車載モジュールの提供は今回がドコモ初だ。車載通信モジュール分野ではKDDIが先行し、トヨタ自動車のレクサスや、いすゞ自動車などが採用している。それだけに「(KDDIとの対抗のためにも)何としても欲しかった通信モジュールのラインアップ」(NTTドコモ 法人事業部 法人ビジネス戦略部 マシンコムサービス戦略担当部長の中村康久氏)である。

「今回のFOMAテレマティクスモジュールは、ドコモが自信を持って送り出す『車載スペック』の通信モジュールです。耐熱や耐振動、耐衝撃などクルマ専用品として求められる信頼性を確保し、その上で全国の幅広いエリアで使えるFOMAプラスエリア対応にしました」(中村氏)

あまり知られていないが、これまでもドコモの通信モジュールは自動車業界で広く使われている。例えば、多くのバス会社が導入する「バス・ロケーションシステム」の車載端末や、オリックス自動車の「プチレンタ」などカーシェアリング用の車両管理端末、パーク24のコインパーキング「タイムズ」の精算機などに使われているのも、ドコモの通信モジュールだ。しかし、それらは「FOMAユビキタスモジュール」という汎用製品を使ったものであり、最初から車載用として設計・開発されたものではない。

「FOMAテレマティクスモジュールで特に重視したのは、信頼性と耐久性です。例えば、耐振動では運転時間の長い商用車での利用でも耐えられるように設計しました。またクルマはとてもロングライフのプロダクトですので、耐久性も重要です。そのため、FOMAテレマティクスモジュールの端末は『10年以上は使えるもの』を開発目標にしました」(中村氏)

一方で、今回のFOMAテレマティクスモジュールは下り最大384Kbpsのデータ通信までしか対応していない。ドコモは現在、HSDPAによる最大7.2Mbpsのモバイルブロードバンド通信を開始しているが、「今回の製品では信頼性確保の方を優先し、最新の高速データ通信サービス対応はやや後回しになった」(中村氏)。HSDPAへの対応は、将来的な車載通信モジュールのラインアップ拡大の中で行う方針だ。

◆エリアの広さと多機能さがセールスポイント

しかし、車載通信モジュール分野では、先行するKDDIが強力なライバルとして存在する。その中で、ドコモの車載通信モジュールはどのような競争優位性を持つのだろうか。

「まず我々の大きな強みとなるのが、FOMAエリアの広さと信頼性です。今回のFOMAテレマティクスモジュールは、(FOMAが)メインで使う2GHz帯に加えて、地方郊外のエリアをカバーする800MHz帯のFOMAプラスエリアに対応しています」(中村氏)

FOMAのサービスエリアについては、サービス開始初期に「エリアが狭い」というイメージがつきまとったが、現在では所有する基地局数とエリアカバー率の広さの総合力で、他キャリアを圧倒している。また、台風や地震など災害時に基地局にトラブルがあった時、いち早く復旧するなど「インフラそのものの信頼性が高いこと」(中村氏)もドコモのサービスエリアが持つ優位性である。

このような信頼性の上に、FOMAテレマティクスモジュールは多機能かつ高性能を実現しているという。

「通信モジュールというとデータ通信のみで使うものというイメージがありますが、FOMAテレマティクスモジュールでは音声通話やテレビ電話に対応しています。これにより単体でハンズフリー通話も実現できる。さらに音声通話とデータ通信を切り替えることなく同時に使う機能も用意していますので、オペレーターと通話しながら、データセンターと車両情報や位置のやりとりをするといったテレマティクスサービスやモバイルソリューションも実現可能です」(中村氏)

また、ユーザー側からは見えにくい部分であるが、FOMAテレマティクスモジュールでは「ROM-UIM」方式という番号格納方式を採用している。通常の携帯電話や通信モジュールでは契約者情報を記録した「SIMカード」を用いているが、FOMAテレマティクスモジュールでは契約者情報をドコモのネットワーク側から遠隔でモジュール本体のROMに書き込むことができる。そのためモジュール本体に一切触れることなく、通信契約の開始や変更が可能だ。

「ROM-UIM方式の採用は、車載通信モジュールの運用性を劇的に向上します。例えば、(通信モジュールを内蔵したクルマが)中古車市場に流れた場合、販売までの間は通信契約を解約しておき、新たなオーナーが購入した後に(新しい契約者名義で)通信モジュールを新規契約することができます。クルマの利用や流通形態に柔軟にあわせられるのです。

また、運用性の利点以外にも、SIMカードを使わないことは、振動や温度の影響で接触不良を起こすといったトラブルを防げます。クルマ向けでの利用で考えますと、ROM-UIM方式はとてもメリットの多い仕組みなのです」(中村氏)

これらの特長以外にも、FOMAテレマティクスモジュールには非公開の「クルマで使うことを前提にした、新しい仕組みや機能が搭載されている」(中村氏)という。それらを活用したアプリケーションがどのようなものかは採用事例が登場しなければわからないが、ドコモは車載通信モジュール分野で後発だけに、機能の開発と搭載にはかなり注力しているようだ。

◆クルマは通信モジュールの主要市場のひとつ

少し乱暴な言い方をすれば、これまでクルマを取りまく通信モジュール市場は、車載モジュール市場はKDDIが優位にあり、バスやカーシェアリング、駐車場など周辺ビジネスはドコモが有利といった形で“棲み分け”されていた。しかし今回、ドコモが本格的に車載通信モジュールに参入することで、競争の激化は必至である。

「ドコモのM2M(マシン・トゥー・マシン)への取り組みにおいて、クルマ市場は住宅や情報家電に並ぶ最重要領域になります。今回、我々は車載通信モジュールをリリースすることができましたが、これによって自動車業界の様々な企業とアライアンスを作り、テレマティクスをはじめ自動車向けサービス/ビジネスの活性化に貢献したい」(中村氏)

クルマそのものの進化と、クルマを用いたサービス/ビジネスの発展において、通信モジュールの重要性は今後さらに増してくる。ドコモとKDDIの車載通信モジュール分野における競争激化、さらに他のキャリアの市場参入なども本格化すれば、クルマとその周辺向けのモバイル通信環境が急速に整備されていくだろう。

クルマがネットにつながる日は、次の10年で確実にやってくる。そのタイミングとサービスを見る上で、各キャリアの通信モジュール戦略とその趨勢は、自動車業界にとっても注目といえるだろう。

《神尾寿》

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