【プリウス プロトタイプ 試乗】5年後の世界…神尾寿

試乗記 国産車
【プリウス プロトタイプ 試乗】5年後の世界…神尾寿
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モーターと内燃機関が高度に連携し、高効率で知性を感じさせる走行感覚。これを私は「プリウス・エクスペリエンス」と呼んでいるが、3代目『プリウス』はまさに、プリウス体験のひとつの完成系だ。

特に強化されたのが、電気系パワートレイン。モーターの最高出力は60kWに引き上げられ、高出力バッテリーの搭載とパワーコントロールユニットの大容量化により、EVっぽさが一段と増した。

満充電ならばEVドライブモードで60km/hくらいまでモーターオンリーで走れる。さらにアイドリングストップからの立ち上がりでは、モーターから動き出すので振動・騒音ゼロからの出だしになる。これはとても気分がいい。これならEVに傾倒しているアメリカのオバマ大統領も、「プリウスもいいか」と納得してしまうのではなかろうか。そのくらいEVっぽさが増しているのだ。

先進性の向上と、その演出もきっちりと進化している。まず先進安全装備の充実度がすばらしい。スタビリティコントロールを含む総合的なアクティブセーフティ機構「S-VSC」や、急ブレーキ時にすべてのストップランプを明滅させる「緊急ブレーキシグナル」、さらにオプションでミリ波レーダー方式のプリクラッシュセーフティシステム(ACC機能付き)などを用意。最新の高級車に負けないほどアクティブセーフティ分野への対応が充実している。

利便性を高める装備としては「インテリジェントパーキングアシスト(IPA)」も設定されており、こちらも先代より機能・性能が進化した。

また、個人的にたいそう気に入ってしまったのが、プリウスのUI(ユーザーインターフェイス)。特に高く評価したいのが、ハンドルのタッチセンサー付きボタンに触れると、センターメーターに透過して浮かび上がる「タッチトレーサーディスプレイ」だ。このデザイン性はとても高く、さらに使いやすい。新設計のマルチインフォメーションディスプレイとあわせて、プリウスのUIデザインはとても先進的で合理的なものになっている。

一方、デザイン面で特筆すべきは、インテリアデザインのよさ。「まだプロトタイプなので内装はトヨタクオリティに達していない」と言われたが、すっきりと清潔感のあるインテリアはとても上質でクオリティが高かった。ケレン味たっぷりだったホンダ『インサイト』のインテリアやUIのデザインと比べると、プリウスのそれは落ち着きがあって好感度が高い。一言でいえば、センスがよくて大人なのだ。

インサイトでは“子ども専用”的な後席スペースも、プリウスは天井が高くて広々。これならタクシー会社で採用してもらってもまったく不満がない。乗る人すべての満足感が高く維持できるのも、3代目プリウスの魅力のひとつになりそうだ。

最後に少し残念だった点をふたつ。ひとつはEV走行時や回生ブレーキ作動時の高周波ノイズが完全に抑え込めていなかったこと。

これはモーターやインバーターなど電気系パワーソースを持つクルマの宿命であり、ライバルのインサイトにだってある。ノイズレベルだって微かなものだ。しかし、インサイトと違いプリウスは「エンジンがかからない」領域がけっこうあるので、エンジン音でかき消されず、高周波ノイズを感じやすいのだ。微かだが耳につきやすい帯域の音でもあるので、何とか抑え込めないものかと思う。

もうひとつ残念だったのが、長い加速時などでエンジンが高回転をキープしたとき、聞こえてくる音が事務的でぶっきらぼうに感じられることだ。まるで「僕は主役じゃありませんし」と投げやりになっているようで、あまり好ましくない。

確かにエンジンを回して楽しむ類のクルマではないけれど、それならそれでもっと静かで上質なフィーリングを作れなかったものかと思う。終始上質なプリウスなのが、この瞬間だけ粗雑な印象になってしまい残念だ。EVっぽい今回の電気系パワーソースに、レクサスっぽくふるまう内燃系パワーソースが組み合わさっていれば、プリウスは全方位弱点なしの究極のハイブリッドカーになったと思うのだが。

総じていえば、プリウスはとにかく完成度の高い「21世紀のクルマ」。ハイブリッドシステムはもとより、そのパッケージや各種先進装備、設計思想はすべて5年後の世界を先取りしている。ハイブリッドカーの世界観をここまで広げただけあって、プリウスの名前は伊達じゃないといったところか。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★★

神尾寿│通信・ITSジャーナリスト
IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネス企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。モバイルICT分野と自動車/交通(ITS)分野を両軸に、ビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、国際自動車通信技術展 企画委員長なども務める。

《神尾寿》

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