21世紀型モビリティへの挑戦。トヨタ「iQ プロトタイプ」に乗る

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21世紀型モビリティへの挑戦。トヨタ「iQ プロトタイプ」に乗る
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速く、大きく、そして力強く。

20世紀、クルマはそうして進化し、もっとも身近で、人々の生活を支える移動手段になっていった。安全性向上や機能・装備の充実など様々な理由付けとともに、ボディの大型化を受け入れる。そして、多少の例外はあれど、"大きいほど高級"という不文律があったのも20世紀の特徴だった。

21世紀、かつてのクルマの価値観が揺らいでいる。「速く、大きく、力強い」は絶対の価値ではなくなり、憧れの対象としての力も失いつつある。特に若い世代や都市在住者ほど、旧世代のヒエラルキーから無縁だ。彼らは環境意識が高く、合理性と知性を重視する傾向にある。

そのような中で、トヨタ自動車が新たな時代に向けて提案するのが「iQ」である。全長3メートル以下の2,985mmのボディで4シーターを実現。それでいて街乗り専用のシティコミュータではなく、都市間移動もこなす基本性能と、華美ではないが高品質な内外デザインを用意したという。

トヨタの「iQ」とは何者なのか。筆者は市販に先立ち、プロトタイプへの試乗とキーパーソンに話を聞く機会を得た。それをもとにiQの可能性と価値について考えてみたい。


■超高効率パッケージを実現した異端のプロジェクト

トヨタのiQで、まず目を奪われるのが、全長2,985mm、全幅1,680mm、全高1,500mmというユニークなボディサイズだ。全長は軽自動車以下だが、横幅や高さは普通車サイズ。この中に4シーターと、質感の高い走りを実現するメカニズムを詰め込んでいる。

「(iQ で)トヨタが目指したのは、超高効率パッケージによる革新です。人々の環境意識が高くなり、またガソリン価格も多少の変動はあれば、昔のような価格水準には戻らない。世界中でライフスタイルは変わらざるを得ないでしょう。そのような時代にあわせて、クルマのかたち(パッケージ)も変化しなければならないと考えています」(トヨタ自動車 専務取締役の市橋保彦氏)

開発チームはこの"パッケージの変革"を実現するために、従来の常識を捨てて、ゼロからiQを創り出した。ほぼ手探りで、技術的なアプローチを行っていったという。開発を指揮したトヨタ自動車 第2乗用車センター 製品企画チーフエンジニアの中嶋裕樹氏は「技術的にどこまでできるか(というアプローチ)では、iQは作れなかった」と述懐する。

「最初に全長の目標値を3メートル以下、高い走行性能や優れたデザインも実現すると設定しました。最終的な着地点となる『答え』を示した上で、(技術的なアプローチとなる)方程式は自由に作ってみい、と開発チームに任せたのです」(中嶋氏)

iQが目指す常識外れの超高効率パッケージを実現するには、今までの"技術の積み上げ"では無理。それを承知しているからこそ、中嶋氏は無茶な要求をしつつ、開発の自由度を可能なかぎり支援するマネージメントを行ったのだ。

「無理なものは『理がない』わけだから、実現不可能だと(開発チームに)言われてしまう。でも、僕が言ったのは無茶なことなので、これは発想を変えて頑張ればできる。無茶な注文を実現しようとする中で、新しいアイディアや手法は生み出されるものなんですよ」(中嶋氏)

むろん、そういった無茶が言えるのは、中嶋氏が開発チームを信頼していたからだろう。関西生まれの関西育ち、ざっくばらんで楽天的な彼の人柄が、iQの"自由で革新的な設計思想"を下支えすることになった。

「(開発が終了した)今だから白状するとね、最初に設定したiQの設計目標値は、そもそも無茶な数値に『プラスα』の上乗せをしていたんです。例えば、全長ならば当初の目標値は、現在の2,985mmよりももっと短かった。

なぜ、そんなことをしたかと言うと、開発の最終段階になれば、パッケージやデザイン、空力とかの必要性から、どうしても調整局面に入るわけです。この時に当初の目標値を、本来の目標値よりも厳しめに設定しておけば、『技術的にこれ以上コンパクトにできません!!』とか、『デザイン上、どうしてもあと2mm必要です!!』となった時に、"そかそか、頑張ったな"と対応できる。もし仮に発想の転換や新技術で、当初の目標通りの条件で小型化できれば儲けものなわけで」(中嶋氏)

言いながら、悪童のような表情で笑う中嶋氏。技術者やデザイナーの挑戦心に火をつけ、能力を引き出していく。かくしてiQは、「クルマは大きいほど快適で偉い。そういった(かつての)自動車文化の主流からみれば、異端のプロジェクト」(中嶋氏)として進展していった。


■無茶から生まれた「コロンブスの卵たち」

超高効率パッケージを実現し、クルマのかたちを変革するというトヨタの経営戦略。そして、中嶋氏がとった"無茶を実現するための自由なアプローチ"は、パッケージングにおける様々な新技術・新手法を生み出した。コロンブスの卵が、次々と転がり出てきたのだ。

そのいくつかを見てみよう。

まず、パワートレインではエンジンとディファレンシャルギア、タイヤの位置関係を全面的に見直した。これまでエンジンセンターより後方だったディファレンシャルギアが前方に配置され、それにあわせてトランスミッションや補機類も一新した。これらの工夫により、ドライバーの足回りを窮屈にすることなく、フロントオーバーハングの大幅な短縮化を実現している。

また、狭いエンジンルーム内を効果的に活用するために、エアコンも新開発。容積で従来比20%削減した小型エアコンを搭載し、インストルメントパネル中央にすっぽりと収まるようになった。さらに、このエアコンは新開発であることをいかして、小型化だけでなく省電力化も図り、燃費への負担を減らしている。

これら機械部のコンパクト化をする一方で、人がすごす車室は可能なかぎり広くとるための工夫が凝らされている。

その中でも画期的なのが、左右非対称の空間設計だろう。運転席に対して、助手席位置はオフセットで配置されており、インストルメントパネルとシート位置は左右非対称になっている。さらに全長の短さに対して全幅は広いという特性もいかし、前席は左右にやや離して設置。これらにより前席の広々感が得られたほか、足下に余裕のある助手席を前にスライドさせると、助手席側後方の居住性も向上。2人乗車ならばサイズを感じさせない広々感が得られ、大人3人+子ども1人ならば無理なく乗れるというiQの特徴的なパッケージが完成した。

「トヨタがなぜ今、iQを作ったのかというと、そこにあるのは『危機感』ですね。かつてのプリウスも、(石油)エネルギーに対する危機感から誕生しました。そして、iQ はクルマという存在が、今までの価値観や在り方でいいのか、という(根源的な)危機感に基づいて作られています。ですから我々は、iQをきっかけにして、多くのユーザーと"クルマの未来"について対話をしていきたい」(市橋氏)


■iQが実現した新次元の「高品質コンパクト」

トヨタ開発陣の想いは、どれだけiQというプロダクトに結実したのか。ここからはiQ プロトタイプに試乗した感想を述べたいと思う。

今回、試乗したのは日本市場向けに投入が予定されている1リッター ガソリンエンジン(1KR-FE)とSuper CVT-iの組み合わせ。カラーバリエーションや装備は最終検討中とのことなので詳細は伏せるが、内外装ともにクオリティの高いデザインであることは間違いない。

実際に走り出すと、驚くのはその静粛性の高さだ。iQはフロント部が大きく切り詰められ、パワートレインとドライバーの位置は極端に接近している。そのはずなのに静粛性のレベルは、コンパクトカーの平均を大きく超えている。

「iQ では不快なノイズや振動の低減に特にこだわっていまして、Aセグメントのコンパクトカーでは常識外の静粛ボディを与えています。例えば、フロントの高遮音性ガラスは通常ならば高級車向けの装備ですし、ルーフライニングや衝撃吸収パッドの量も多い。さらに、iQはパワートレインからボディーに至るまで、すべてゼロから開発しましたので、静粛性の実現において最新のテクノロジーを使うことができました」(トヨタ自動車 第1車両実験部 第1振動実験室主査の杉原 敏彦氏)

かといって、走行性能が静粛性の犠牲になっているわけでもない。 iQのコンセプト上、パワーを誇示するわけではないが、アクセルを踏めばスムーズに加速する。直線コースで時速100Km以上を出せばコンパクトカーとは思えないほど安定感があり、中高速でのコーナリングはナチュラルで気持ちいい。走らせていて、とても高品質で伸びやかな感触を受けた。小さなクルマだが、速度が上がるほどにクルマがヴァーチャルに拡大していくかのような安心感がある。トヨタが「街乗りだけのシティコミューターとは違う」と強調するのも頷ける。

一方で、街中の利用を模した狭路走行コースでは、最小回転半径3.9mという"小回り"の性能を遺憾なく発揮。狭い道でもクイクイと曲がり、わずかなスペースでの車庫入れやUターンもこなす。しかし、iQは全長は驚異的に短いのに全幅は普通車並みというある意味トリッキーなサイズで、しかも最小回転半径はとても小さいので、初めての狭路走行コースでその動きに戸惑うこともあった。頭で想像する以上に「小回りが利きすぎる」ことにヒヤッとさせられたのだ。逆説的だが、初めてiQに乗ったときは小回りのよさに慣れが必要かもしれない。

プロトタイプ、さらに限られた時間とコースでという制限付きであったが、iQがまったく新しいカテゴリーを目指し、ほぼその目標通りに創りあげられたクルマだということは十分に理解できた。そして、それはこれまでの「プレミアムコンパクト」とは明らかに違うと感じた。もっと知的かつ合理的で、"ひと"を中心において快適・安心なモビリティを目指す「高品質コンパクト」とも言うべき新たな方向性だ。


■新たな価値をユーザーとともに育てていきたい

iQはコンパクトカーであるが、月間販売台数を大きく設定し、「数多く売ることだけを優先した市場投入はしない」(前出の中嶋氏)という。かといって、iQをプレミアムブランド化して、"お高くとどめおく"わけでもない。iQの価値を見いだし、ユーザーとその世界観を一緒に育てていきたいというのが、トヨタの想いだ。

かつてのプリウスが「環境の時代」の象徴になったように、iQが「効率性の時代」の象徴になれるか。それは自動車社会とユーザーひとりひとりの意識が、新時代のステージに進めるかの試金石かもしれない。
《神尾寿》

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