【神尾寿のアンプラグド特別編】グローバルでは3Gが発展? クアルコム先進技術レポート前編

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アメリカ、サンディエゴに本拠を構えるクアルコムは、携帯電話を中心に、世界のモバイル関連技術の研究開発をリードする存在だ。同社は第3世代携帯電話(3G)のコア技術である「CDMA方式」をはじめ携帯電話関連に多くの特許を持つほか、モバイルブロードバンドやMediaFLOなど通信・放送の“次世代”への取り組みでも世界をリードしている。

そのクアルコムが、本拠地であるサンディエゴに世界中の報道関係者を集めて技術紹介イベントを実施。筆者も招待されて参加してきた。その模様について、前中後編の3回にわけてレポートしよう。

◆グローバルでは「3Gの発展」? W-CDMAを発展させるHSPA+

日本では、すでに第3世代(3G)の次のモバイル通信インフラに多くの通信業界関係者の目が向いている。例えば、NTTドコモはスーパー3G(LTE)の開発を進めており、2009年には商用化の見込み。さらに2012年以降には4Gを実用化すべく研究が進められている。他にも、KDDIとNTT東日本が中心となってサービス開始をめざす「モバイルWiMX」や、ウィルコムが来年の商用化を予定している次世代PHS「WILLCOM CORE」など、“モバイルブロードバンドアクセス”と呼ばれる高速・大容量モバイル通信技術の商用化は目前に迫っている。

むろん、クアルコムでもスーパー3G(LTE)や4Gに比肩する次世代モバイルブロードバンドアクセス技術を開発している。それが「UMB (Ultra Mobile Broadband)」である。しかし、クアルコムではUMBの研究開発に注力しつつも、グローバルな観点でみれば当面は「世界の通信キャリアの主流は現行3G(CDMA)でありつづける」(クアルコム幹部)とみている。特に欧米や新興国のモバイル通信インフラは3Gへの移行を始めたばかりであり、この3Gの発展系でモバイルブロードバンドを実現するという現実的なアプローチが取られる可能性が高いと踏んでいるのだ。

そこでクアルコムでは、W-CDMA(日本ではドコモ、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルが採用)とCDMA2000(日本ではKDDIが採用)という2つの3G規格において、さらなる高速・大容量化が重要として、研究開発に注力している。

まずW-CDMAの状況を見てみよう。現在、日本をはじめ世界各国のキャリアでは、3Gの高速化技術「HSDPA(3GPP Release 5)」の導入が進んでいる。これは3Gの下りデータ伝送速度を最大14.4Mbpsまで高速化するものだ。このHSDPAの次に予定されている高速化が、HSUPA(3GPP Release 6)。これを導入すると上りデータ伝送速度が最大5.72Mbpsまで向上する。このHSDPAとHSUPAはセットで考えられており、HSPAという総称で呼ばれている。

NTTドコモなどは、このHSPAの“次のステップ”として、通信方式のコア技術を大きく変えた「スーパー3G(LTE)」を定義している。しかし、クアルコムの考えは違う。多くの国ではHSPAの次も、現行CDMAの技術進化で対応する方向に駒が進むと見ており、同社はそこに向けたものとして「HSPA+(HSPA Evolved)」の開発に力を入れている。W-CDMAの標準化を協議する3GPPでは、HSPA+はRelease 7という名称で策定されており、2009年の商用化に向けて準備が進められているという。

HSPA+では下りの最大データ転送速度が28Mbps、上りの最大データ伝送速度も11Mbpsまで向上する。クアルコムではすでに「MDM8200」というHSPA+対応のチップセットを出荷しており、2008年中にVodafoneやTelefonica、3など欧州の携帯電話キャリアと商用化実験を開始する予定だ。

HSPA+はその後も進化のロードマップが描かれており、2010年以降は下り最大データ伝送速度42Mbps(3GPP Release 8として検討中)、2011年頃には下りの最大データ伝送速度84Mbps、上りの最大データ伝送速度23Mbps(3GPP Release 9として検討中)まで高速化する目処が立っているという。

ポスト3Gの視座で見れば、ドコモが中心となって開発するスーパー3G(LTE)の方が4Gのコア技術である「OFDM」を先取りするなど、ポテンシャルは高い。実際その能力で見ても、最大条件下でのスーパー3Gの性能は、下りデータ伝送速度100Mbps、上りデータ伝送速度が50Mbpsと家庭用の光ファイバー並みだ。その一方で、スーパー3G(LTE)の実現に多額の設備投資と、大量の周波数帯域の確保が必要になるのも事実である。

ドコモはその設備投資を辞さない構えであり、現行の周波数の転換だけでなく、700MHz帯を中心に新たな周波数帯域を獲得してでもスーパー3Gのポテンシャルを開花させる考えだ。しかし、グローバルでみれば、3Gの設備投資の回収や、新規周波数の獲得が難しいといった要件により、「今の3Gインフラの発展で、(少ない投資で)モバイルブロードバンドを実現したいというキャリアは少なくない」(クアルコム説明員)という。スーパー3G(LTE)はドコモが主体となって“世界標準仕様化”が推し進められているが、HSPA+もまたモバイルブロードバンドアクセス時代の「もうひとつの世界標準」になりそうだ。

◆CDMA2000はDO Advancedで進化

W-CDMAと比べれば採用キャリアは少ないものの、技術的な先行では世界をリードしてきたCDMA2000。日本ではKDDIが採用しているこの規格も、次なるステップが用意されている。

CDMA2000方式では日本のKDDIが、下り最大3.1Mbps、上り最大1.8Mbpsの高速化技術「EV-DO Rev.A」を現在展開中であるが、この次にあたるのが「EV-DO Rev.B」である。これを導入すると下りは最大9.3Mbps、上りも最大5.4Mbpsにまで高速化する。クアルコムでは昨年4月からEV-DO Rev.B対応の基地局設備やソフトウェアを提供しており、キャリアがこれを導入すればすぐにでもサービス展開ができる段階になっているという。ちなみに日本でCDMA2000を採用するKDDIは、今のところEV-DO Rev.Bの導入時期について明言していない。

EV-DO Rev.Bは2010年頃にPhase IIに移行し、ここではデータの変調方式をさらに高度化するなどして、下りの最大テータ転送速度が14.7Mbpsにまで向上する。この先に予定されているのが、DO Advancedであり、こちらではアンテナ技術の高度化や複数の電波を束ねることで、下りのデータ伝送速度は最大34.4Mbps、上りも13.4Mbpsまで高速化するという。

他にも、CDMA2000で「通話」を担当する1xと呼ばれる技術も、1x Advancedという拡張が用意されている。これを導入すると、音声通話のキャパシティが2倍になり、同じ帯域でもより多くの通話トラフィックが捌けるようになるという。今後、音声定額サービスが急増したときに重要になりそうな技術である。

◆干渉制御で上りのスループットを「さらに2倍」に

HSPA+やDO Advancedなど、通信のコアの部分での進化以外にも、クアルコムでは様々な高速化の取り組みを行っている。そのひとつが干渉制御(Interference Cancellation/IC)だ。

この技術を導入すると、複数のユーザーによって発生する電波干渉が抑えられるために、上りの通信速度が向上する。具体的には「実効速度にして約2倍の性能向上がみられる」(クアルコム)という。この技術はHSPAやHSPA+、EV-DO Rev.BやDO Advancedなど複数の通信技術と組み合わせて利用できる。

また、干渉制御の導入にあたっては、クアルコム製の基地局設備を導入しているものならば基盤交換で対応できる模様だ。日本のKDDIなどは比較的低コストで導入可能なものであり、端末を変えずとも性能向上が期待できる。

モバイル通信業界を見渡せば、2009年から2010年にかけて通信の高速化・大容量化が大きく進展する。安価で高速な通信サービスが利用できるモバイルブロードバンド時代の到来だ。

この中で日本は、ドコモの牽引により次世代シフトがより強力に進められそうだが、世界的にみればクアルコムが主張する「3Gの発展・拡張」が続くというシナリオにも現実味がある。また、3Gにはそれを実現するポテンシャルもある。「ポスト3G」の時代は、日本市場と世界市場の両方を睨みながら、その動向を見ていく必要がありそうだ。

《神尾寿》

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