4 | 醤油&ラー油を眺めながら |
実際のピザは薄く、かつ均一に延ばされていている。チーズも盛りだくさんに載っている。普通のピッツェリアのものとまったく変わりないか、それ以上のクオリティである。縁のカリカリ部分も無闇に肥大しておらず、香ばしい。
あまりのボリュームに食べきれなくなり、「残りを持ち帰りたい」と言ったら、ウェイターは嫌な顔をせず紙ケースに入れてくれた。これで、いまどき1枚6ユーロ(960円)は安い。
そのためであろう、周囲のテーブルを見回すと、独身サラリーマンと思われる人たちが、何人もいた。リストランテ=基本的にカップルで、という伝統的イタリア食文化からすると、画期的なことである。
家族連れも何組かいた。いずれも、お父さんと子供たちは中華、おじいちゃん・おばあちゃんはピザを注文している。食文化に柔軟な日本人と違い、イタリアのお年寄りは長年の食習慣を変えられないのである。家族みんなで楽しめるピッツェリア兼中華料理店は、イタリア外食産業界の画期的なハイブリッドだ。
唯一慣れなくてはいけないのは、「脇に置かれた醤油とラー油を見ながら、ピザを食べる」という、これまたハイブリッドな光景である。
喰いすぎ注意 |
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。