2 | スクデリア・フェラーリもかくや |
イタリア人のエスプレッソを飲む時間は極めて短い。バリスタに注文する→カップが出てくる→砂糖をドドッと入れる→グイッと一気に飲み干す→脇に置いてあるスポーツ新聞『ガッツェッタ・デッロ・スポルト』で昨晩のカルチョの結果をチェックする→会計しながら、バリスタの娘と冗談を交わす→退出、まで3分前後である。スクデリア・フェラーリのピット作業を見るような鮮やかさがある。
エスプレッソは表面にできるクリームを味わうことも大切だが、アメリカンコーヒーと違って何より冷めてしまっては台なしなのである。寿司を名店の職人の前でダラダラ食べてはいけないのと同様、バリスタに対してもグイッと飲み干すのが礼儀である。
東京でイタリアかぶれした奥様方が、オープンカフェでカップを掌でいじって話に花を咲かせていたり、ゆっくり傾けているのは噴飯ものだ。店の客回転率を上げるためにも、とっとと飲んでほしい。
エスプレッソ文化は、バール以外にも浸透している。アウトストラーダのサービスエリアにおけるセルフ式食堂でも、大手ハンバーガーショップでも、会計のとき「カフェ、どうしますか」と聞かれる。si(はい)と言うと、レジ係はそのぶんを加算してくれる。
お客は食後、店の片隅にあるバールカウンターにレシートを持ってゆくと、エスプレッソを入れてくれる仕組みだ。ただし、多くのイタリア人は、エスプレッソだけは場所を変えるのは前述のとおりだ。
大きな工場や会社だと社員食堂とは別にバールがあって、みんな休み時間や昼食後にグイッとやっている。フェラーリやドゥカティにも、社員専用のバールがある。自動車販売店でも隅っこに大抵エスプレッソ・マシーンが置いてあって、セールスも客も自分で操作してジュワーッ!、とやる。