今までFF車の現実的な最高出力の限界は、正直なところ200psだと思っていた。実際、VW『ゴルフ』などは200psのGTIはFFだが、250psの『R32』には4WDを採用している。まれに200ps以上を発揮するFF車に乗ることもあるが、たいていは前輪のトラクションのかかりが悪く、その結果ハンドリングにも悪影響を及ぼしていた。
だが、『アクセラ』のマイナーチェンジと同時に追加設定された『マツダスピード アクセラ』は違っていた。264psを発揮する2.3リッター直噴ターボを搭載しながら、じつに巧みにそのパワーをコントロールして鋭い加速力と、優れたハンドリングを両立しているのだ。
アクセラの開発責任者を務めた前田龍雄さんは「マツダスピードアクセラを開発するうえで、もっとも苦労したところがまさにパワーとトラクション性能の両立でした。前輪駆動で264psというハイパワーを受け止めるために、過給圧や電子スロットルの制御を適切に行ない、さらトルクステアを抑えるためにステアリングの舵角と連携したエンジントルクの制御を施しました」という。
事実、マツダスピードアクセラの走りは、FF車とは思えないほど力強く、そして不自然な挙動が少ない。コーナーの進入時は大幅に補強が加えられたボディのお陰で、じつにナチュラルな回頭性を見せてくれる。
そして立ち上がりで、回転域をターボの過給圧がもっとも高い3500rpm前後に合わせてアクセルを踏み込んでも、何事もなかったように鋭いトラクションを与えてくれる。もちろんトルクステアのようなものは、ほとんど感じられない。264psのFF車で、ここまで自然なフィーリングでトラクションを体感できたのは正直驚きだった。
そのうえ、マツダスピードアクセラは価格も魅力的だ。これだけのパワーユニットを搭載して241万円はバーゲンプライスといえるだろう。(つづく)