日産 フェアレディZ NISMO日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。
ヘリテージと言われても
「このシートの何が特別なんですか?」
先日、「ゴルフGTI」の取材の際に、某自動車雑誌の若手編集者から聞かれて言葉に詰まった。考えてみれば、ごもっともな感想である。GTIのお約束であるタータンチェック柄のシート生地も、世代によって受け止め方はさまざまだ。これぞGTIの伝統だ、有難い象徴だ、とオヤジ世代からどこか上から目線で言われても、その当時の流行や熱気を知らない若い世代にとってはピンとこないはずである。伝統のモチーフやヘリテージデザインとはいえ、映画やアニメの中で重要なアイテムとして登場していれば再発見されることもあるだろうが、そうでなければ「へー、そうですか」というぐらいのものだろう。
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かつてのS30型Zを想起させるべく、より長く伸ばされたノーズの先端に付く日産エンブレムが伝統の「Z」エンブレムに変わったという今回のマイナーチェンジでの変更も同様ではなかろうか。一貫して用いられているならまだしも、時々思い出したように引っ張り出されても、どれほど響くのかとちょっと心配にもなる。これもまた、分かる人なら説明しなくてもウヒョーッと興奮してくれるだろうが、分からない人にはどんなに説明しても伝わらない、という類かもしれない。お、あれね、とすぐ分かるオジサンも、今時それだけで大丈夫なのかと不安になるのである。

Z NISMOにもMT追加
現行のRZ34型フェアレディZとZ NISMOが2026年8月にまたもマイナーチェンジを受けた。車外騒音の最新規制に適合させるのが主目的だと推測されるが、それに合わせて上記のようにノーズを伸ばし、Zエンブレムを装着したほか、大径モノチューブダンパーを採用するなどの改良が施された。ただし、Zエンブレムを除けばこれらは標準モデルに限られる。高性能版のNISMOについては、新たに6MT仕様が追加されたことが最大のトピックだが(3年前に現行RZ34型にNISMOが追加された時は9ATのみだった)、何とも残念なことに取材のタイミングの都合で今回の試乗車は9ATのNISMOである。申し訳ありません。
ご存じのとおり、フェアレディZ NISMOは内外装のみならず、足まわりやエンジンにまで手が加えられた特別仕立てのZである。もともとノーズデザインやリアスポイラーなどは空力や冷却性能の向上を狙った専用品であり(そのため今回は変更なし)、レカロ製スポーツシートやレイズ製の19インチ鍛造アルミホイールもNISMO専用である。搭載される「スカイライン400R」譲りのVR30DDTT型3リッターV6ツインターボは、ブーストアップや「GT-R」同様の気筒別点火時期制御などのNISMO専用チューニングが加えられ、最高出力420PS/6400rpmと最大トルク520N・m/2000-5200rpmに引き上げられている(スタンダードのZ用は405PS/6400rpmと475N・m/1600-5600rpm)。車両価格はこれまでの920万0400円が最新型では975万2600円(MT/AT同価格)に値上がりし、もはや1000万級。標準型の最上級グレード「バージョンST」の約700万円と比べると大きな差がつけられている。

今時珍しい精悍なエンジン
専用チューニングによってさらに強力になったV6ツインターボエンジンだが、もともとこのVR30DDTT型は滑らかで鋭いレスポンスに定評があり、怒濤(どとう)のパワーというよりも、ターボユニットながら洗練された爽快な吹け上がりがスポーティーで、それはこのNISMO仕様でも違いはない。スタンダードユニットに比べて特にパワフルになったという感じはしなかったが(それよりもトルクの余裕が増した感覚)、もちろん十分に強力で、発進時やタイトなコーナーでスロットルペダルをあえて踏みこめば容易に後輪のグリップを失わせることができる。とはいえRZ34型Zのキーワードは“ダンスパートナー”というものだから、荒々しい速さというよりも一体感を重視したものといえるだろう。
新登場の6MT NISMOではスロットルや点火タイミングをMT用に最適制御したというが、9AT仕様については言及なし。それでも従来型に比べてレスポンスがよりシャープになったようで、特に発進時にはたとえ「スタンダード」モードを選んでいても(NISMOでは「スタンダード」「スポーツ」「スポーツ+」の3種類)、かなりピーキーに反応するから最初は注意すべきだ。また、新たにフロントにGT-R譲りの2ピースのドリルドローターを採用したブレーキも山道では実に頼もしい反面、低速での踏み始めのタッチがちょっと敏感だ(まだ当たりがついていなかったのかもしれないが)。ちなみに車重はバージョンSTのAT仕様より50kg重い1670kgだが、上記ブレーキのおかげかこれでも従来型より10kg軽い。従来どおり、トップの9速には100km/h巡航では入らないハイギアリングで、普通に走る場合にはトトトンとあっという間にシフトアップしていくが、低回転でも十分以上にたくましいので扱いやすい。とはいえ精悍(せいかん)に吹け上がるフィーリングを楽しみたい今時珍しい(電動化されていない)エンジンだ。

この先の道はあるか
運転席まわりについてはQi2規格(マグネット付き)のワイヤレスチャージャーが新設されたぐらいで、それ以外はこれまでどおり。専用スポーツシートはホールド性は高いが、電動調整機構やシートヒーターが省かれた手動調整式で着座位置はやや高めだ。デジタルメーターやシフトセレクターは最近の日産車同様のものだが、手動式(しかもコンソールの左側)のサイドブレーキをはじめ、ダッシュに並んだ3連メーターなども相変わらず。サイドブレーキが手動式で停止保持ができないためだろうが、ATにもかかわらず、ACCは渋滞の中で一旦停止するとピーッと音を発してオフになる仕様である。今回、エマージェンシーブレーキが自転車にも対応するなど細かな改良は加えられているものの、基本骨格は古い(Z34型から数えるともう18年)ということを感じないわけにはいかない。
よりスムーズな操舵感のために低フリクションラックを採用したというステアリングの違いは正直感じられなかったが、もともとZ NISMOは正確なステアリングインフォメーションと頼もしい後輪のトラクションが特長だ。荒れた路面ではさすがに強い上下動にさらされるが、ラフなハーシュネスは抑えられているから普段使いをためらうほどスパルタンではない。電子制御ダンパーやリアステアリングなどの飛び道具はないものの、後輪駆動クーペらしい自然で安定感あるハンドリングを好ましく思う人は多いはずだ。
ただし、もはや1000万円クラスともなれば純エンジンの後輪駆動車というだけで皆が納得するかどうか。あるいはNISMOというならば、もっとアグレッシブであってほしいと期待する人もいるだろう。Zのキャラクターはそもそもそういうものではないとの意見もよく分かるが、このままでは行く道がますます狭まってしまうのは間違いない。日産の覚悟が問われる時である。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=日産自動車)

テスト車のデータ
日産フェアレディZ NISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1870×1315mm
ホイールベース:2550mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:420PS(309kW)/6400rpm
最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)/2000-5200rpm
タイヤ:(前)255/40R19 100Y/(後)285/35R19 103Y(スポーツマックスRS)
燃費:9.2km/リッター(WLTCモード)
価格:975万2600円/テスト車=999万5505円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール/スーパーブラック 2トーン>(8万2500円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア DJ7-S>(9万6745円)/ウィンドウはっ水 12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面はっ水処理>(1万3640円)/NISMOフロアマット(5万0020円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1235km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:369.4km
使用燃料:50.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.3km/リッター(満タン法)/7.5km/リッター(車載燃費計計測値)











