三菱自動車が9月2日に世界初公開した新型『パジェロ』。三菱自動車を代表するクロスカントリーSUVが、新世代のフラッグシップとして帰ってきた。
【詳細画像60枚】三菱 パジェロ 新型の内外装デザインと、スケッチ
1982年に誕生した初代パジェロは、本格的な悪路走破性と信頼性に乗用車の快適性を融合。4代にわたって進化を続け、累計生産台数は329万台を超え、170以上の国と地域で親しまれてきた。新型は2026年度にタイを皮切りに日本、オーストラリアへ投入し、次年度以降は世界約100カ国へ展開する計画だ。
それだけの歴史を背負うモデルを、いかに現代に蘇らせるのか。しかも単なる懐古ではなく、これからの三菱自動車を象徴するクルマとして。
三菱 パジェロ 新型「私たちが目指したものは、単なる復活ではありません」
そう語るのは、新型パジェロのデザインを担当した三菱自動車 デザイン本部 プログラム・デザイン・ダイレクターの吉峰典彦氏だ。
新型パジェロの内外装には、歴代モデルを知る人なら思わず反応するモチーフが随所に潜んでいる。しかし、それらは単純な復刻ではないという。新型のデザインから見えてくるのは、「パジェロらしさとは何か」をもう一度ゼロから問い直したデザイナーたちの答えだった。
◆「復活」ではなく「独創進化」だった新型パジェロ
三菱自動車 デザイン本部 プログラム・デザイン・ダイレクターの吉峰典彦氏
初代パジェロが登場したのは1982年。そこから1991年の2代目、1999年の3代目、2006年の4代目と進化してきた。
吉峰氏によれば、4代目の登場から今回まで20年という長い時間が空いても、社内では「次のパジェロはこうあるべき」という議論が絶えることはなかったという。
そこで導き出された言葉が「独創進化」だった。
「独創」とは、日本で生まれたパジェロが誰かの後を追うのではなく、自ら新しい価値を作り出してきた精神。そして「進化」とは、その精神を未来へつないでいくことだ。
世界を見渡せば、個性の強いクロスカントリー4WDやオフロードブランドは少なくない。だからこそ三菱自動車は、「日本にはパジェロがある」というところから考え始めた。
三菱 パジェロ 新型のエクステリアデザインスケッチそこから生まれたデザインコンセプトが、「グランドカリズマ」だ。
吉峰氏はこれを「時代の先を見据え、未来の挑戦を楽しむ静かなる冒険者」と表現する。堂々とした佇まいの奥に、いつでも走り出せる野性を宿す。それが新型パジェロの目指した姿である。
つまり、かつてのパジェロに似せることが目的ではない。吉峰氏は、オマージュによって「パジェロが帰ってきた」と感じてもらうだけでは意味がないと説明している。過去のモチーフではなく、その背景にあったデザインフィロソフィーそのものを未来へつなげようとした。
◆初代の「ロールバー」が新型のCピラーになった
初代パジェロの要素も取り入れた新型のデザイン。だが「ただの復活」ではないでは、パジェロのデザインフィロソフィーとは何なのか。新型のエクステリアでまず目を引くのが、水平基調でスクエアなシルエットだ。
これは初代から歴代パジェロが受け継いできた特徴である。ただし、新型ではその形をそのまま再現したのではない。吉峰氏によれば「その本質を継承しながら、プロポーションは1から作り直し」たという。象徴的なのがCピラーだ。
初代パジェロのボディ後方に備わっていたロールバーから着想し、新型では太く存在感のあるCピラーとして再構築した。
三菱 パジェロ 新型さらに、前方へ伸びていくようなシルエットによってFRレイアウトらしさを表現。力強いフェンダーと立体的なボディを組み合わせることで、クロスカントリーSUVとしての性能を視覚化している。
リアにも仕掛けがある。テールゲートには歴代パジェロの背面スペアタイヤを想起させるヘキサゴンのデザインモチーフを採用した。実際のスペアタイヤは床下収納へ移されている。つまり背面スペアタイヤという過去の「機能」をそのまま残すのではなく、その記憶をデザインとして残しながら、荷室容量や3列目の快適性を優先した格好だ。
まさに「継承」と「進化」の関係が見える部分である。
◆“武道の精神”を顔にした、日本発のクロカンデザイン
三菱 パジェロ 新型新型パジェロのフロントフェイスにも、単純な「強面」とは異なる考え方が込められている。
ワールドプレミアでのプレゼンテーションでは、剣道の面とともに紹介された新型のフロントフェイスだが、吉峰氏が表現しようとしたのは、日本の武道に通じる「冷静沈着さ」と「余裕のある揺るぎない自信」だった。
奥行きのあるヘッドランプによって、挑戦心と強い意志を秘めた「静かな眼差し」を表現。三菱車のデザインアイデンティティである「ダイナミックシールド」も、グラフィックとして貼り付けるのではなくボディと融合させ、より立体的でソリッドな造形へ進化させた。
そこに組み合わされるのが、縦方向に伸びる特徴的なTシェイプのランプシグネチャーだ。
三菱 パジェロ 新型のエクステリアデザインスケッチグリルは、日本のものづくりの精巧さを表現する横桟タイプと、無駄のない機能美や強度をイメージしたハニカムタイプの2種類を設定した。
さらに、フードは「王冠」をイメージした硬質で立体感のある造形とし、その両脇には大きく張り出したフェンダーを配置する。いずれもパジェロが長年培ってきた走破性やパフォーマンスを、直接的な装飾ではなく「形」として見せるためのものだ。
世界中に強烈なキャラクターを持つオフローダーが存在する今、新型パジェロが選んだのはそれらを追いかけることではなく、日本生まれのクロスカントリーSUVとしての個性を磨くことだった。
◆インテリアの原点も「初代パジェロ」
歴代パジェロのインパネと、新型のデザインスケッチ興味深いのは、インテリアもまた初代パジェロを原点としていることだ。そのヒントになったのが、ダカールラリーでパジェロを駆った増岡浩氏の言葉だったという。
吉峰氏が紹介したのは、ラリーで重要なのはドライビングスキル以上に、限界走行でも「運転しやすく疲れない」ことだった、という趣旨の言葉である。それが誰よりも速く確実にゴールすることにつながり、パジェロをダカールの伝説へ押し上げた。
そこでデザイナーたちが初代パジェロを見直すと、その室内にも「あらゆる挑戦を受け入れる自信と包容力」が表現されていることに気付いたという。新型のインストルメントパネルが水平基調なのはそのためだ。
三菱 パジェロ 新型インパネをキャビン全体へ大きく水平に広げ、明るく開放的な空間をつくる。それによってドライバーだけでなく、すべての乗員にゆとりや安心感を与え、長距離の旅でもくつろげる室内を目指した。
豪華さを足してフラッグシップにするのではなく、長く乗っても疲れないというパジェロ本来の機能を、上質さへとつなげたわけだ。
◆「木目込み」と3連メーター、ヘリテージを現代化する
三菱 パジェロ 新型もちろん、新型パジェロのインテリアは初代の再現ではない。象徴的なのが、ダッシュボード上に横長に配置されたモノリスディスプレイだ。2枚の14.3インチ大型ディスプレイを用いながら、そこに表示されるグラフィックには歴代パジェロへのオマージュが忍ばせてある。
そのひとつが3連メーターだ。歴代パジェロを象徴するアイテムを、デジタル時代の「マルチメーター」として復活させた。高度計、方位計、温度計に加え、車体の前後左右の傾きやAYCの制御量なども表示する。
一方、デジタルとは対照的に、人の手や素材感も重視した。
インストルメントパネルやドアトリムには、日本の伝統工芸「木目込み」から着想した縫製技法を採用。柔らかな素材と縦方向のアクセントによって、視覚だけでなく触覚でも上質さを感じられるようにした。
三菱 パジェロ 新型のインテリアデザインスケッチさらにドアトリムを走るS字ステッチは、熟練した職人が手作業で仕上げるという。
初代への敬意を込めた特徴的なグリップ、ソフトパッド、伝統工芸を思わせるステッチ。そして最新の大型ディスプレイ。古いものをそのまま残すのではなく、ヘリテージと先進性を同じ空間に共存させている。
インテリアカラーにも同様の思想が見える。自然素材本来の色合いを意識したキャメルをベースにブラックを組み合わせ、上質感だけでなく汚れの目立ちにくさにも配慮した。アウトドアを出自とするパジェロだからこそ、「美しいが気を使う内装」にはしなかったのである。
◆新型パジェロが考える「プレステージ」とは
三菱 パジェロ 新型新型パジェロには、従来からの商品思想である悪路走破性・信頼性の「Confidence」、快適性と扱いやすさの「Comfort」に加え、新たにフラッグシップにふさわしい上質さを意味する「Prestige」が加えられた。
しかし、その「Prestige」をどう表現するのかが新型パジェロのデザインにおける重要なポイントだったのだろう。吉峰氏は、パジェロにとっての先進性についてこう説明する。
「人を驚かすことや、技術を誇示したりすることではありません。冒険をもっと自然にもっと快適にすることです」
だから大型ディスプレイを備えていても、GUIは直感的で機能的であることを重視する。インテリアも豪華さを見せつけるのではなく、乗員を包み込み、制約を感じさせない開放的な空間を目指した。
三菱 パジェロ 新型新型パジェロのデザインを眺めていると、Cピラーや3連メーター、背面スペアタイヤを思わせるリアなど、歴代モデルを知る人に向けた“答え合わせ”のようなディテールが確かに存在する。
だが、それだけではない。
「日本から新たなパジェロを生み出す」。そのために必要だったのは、過去のパジェロの形を再現することではなく、なぜパジェロはその形だったのかをもう一度考えることだったのではないだろうか。
水平でスクエアなプロポーションも、開放的なインテリアも、3連メーターも、そこには本格オフローダーとして積み上げてきた理由がある。
20年という時間を経て、その理由を現代の技術と価値観でもう一度形にする。それこそが、新型パジェロのデザインが掲げる「独創進化」なのだ。
三菱自動車 デザイン本部 プログラム・デザイン・ダイレクターの吉峰典彦氏









