レスポンスセミナー「【EV電池の未来】リサイクル・リユース・セカンドライフ~新たな潮流とCATL、NIO、Redwood Materialsの事例~」では、リージョンごとの差が顕著になり、不透明感が増すEV市場におけるバッテリーライフサイクルにかかわる技術と市場動向を追っていく。
このセミナーのひとつのポイントは、AIを活用したデータ駆動型のビジネス戦略だ。データ駆動型の意思決定および戦略を経営戦略や商品企画に加えることは、EV、SDVといった新しい潮流に対応するためにも必要な考え方であるからだ。
セミナーの講師は、沖為工作室合同会社 Founder CEO沖本真也氏。沖本氏に、セミナーの概要と、EV市場の鍵を握るEVバッテリーのデータ駆動型の価値を生む資産戦略について聞いた。
先が読めないNEV・バッテリー市場をどう読むか?
――EV市場の拡大・安定には、バッテリーの再利用やリサイクルビジネスがエコシステムとして成立することがポイントとされていますが、ここ1、2年はEV市場が混迷を極めているようにも見えます。
沖本氏(以下同):はい。アメリカではトランプ政権による政策変更は、化石燃料回帰など反EVの動きにつながっているように見えます。レアメタル不足、産出国や加工輸出国の偏りなど希少天然資源が持つ問題も、本質的にはなくなっていません。ロシアや中国、中東などの地政学的な問題も、状況を複雑にしています。また、消費者心理も、バッテリーに対していまだに価格や信頼性(発火事故)などの不安が残っています。
EUやアメリカではEV市場の減速が言われていますが、一方で、中国においては、補助金など政府支援もあり、2025年1~7月期のNEVの生産・販売台数はともに約820万台を超え、前年比約39%増となっています。新車販売に占めるNEVの割合は45%に達し、輸出も130.8万台(前年比84.6%増)と大きく伸びています(中国工業情報化部の公式発表による)。
EV市場、EVバッテリー市場を見る上では、地域性や国ごとの違いを踏まえる必要があります。とくに、バッテリー素材の安定供給、リサイクル・リユース技術が今後の競争力を左右するものと考えています。
リサイクル・セカンドライフを生かすためのバッテリーおよび車両設計
――バッテリーのリサイクルやリユースが広がれば、車両コストの低減や中古車リセール市場の拡大などが見込まれますね。
それだけではありません。ソフトウェアが付加価値の源泉となるSDVの時代は、電池制御にも変化をもたらします。

リユースはそのまま中古車としての利用や、回収したバッテリーのうち劣化していないセルを選別して、再利用するといった用途があります。SDVの進展により、EVバッテリーは単なる駆動用電源から、蓄電池、分散型電源、非常用電源といったエネルギーインフラとしての役割を担うようになります。さらに、車内空間の再定義が進むことで、移動中の快適な滞在空間(車内リビング)や、自動運転によるロボタクシーの乗車体験など、モビリティサービスの基盤としても活用されていきます。
このような多用途化を実現するには、設計・製造段階から、走行中や充放電時のエネルギー管理をAIによって最適化できる技術が不可欠です。EV電池のリユースと多用途化は、SDVの進化と密接に関係しており、今後のモビリティとエネルギーの融合を象徴する重要なテーマとなっています。
SDVバッテリーに求められるAIデータ駆動型戦略
――用途ごとに劣化を最小限にする制御モデルや劣化予測、性能評価、そして設計や素材選定にもAIを活用したバッテリー開発・制御が必要ということですね。
このような制御やシミュレーションを行うには、バッテリーの走行時の他、充放電など、製品のライフサイクル全体にわたるデータ収集が必要です。そしてバッテリーや車両などのビッグデータを処理するにはAIも不可欠になってくるでしょう。AIデータ駆動型の戦略は、バッテリーを車両の動力から価値を生むデータ資産に変わるのです。

たとえば、充放電のデータを分析することでバッテリーの状態の診断ができ、劣化状況に応じたリユースやセカンドライフの提案ができます。交換式バッテリーの場合、そのタイミングや交換・回収の最適化といった新しいサービスや価値が提供できるようになります。設計段階では、素材の分析や提案、新しい物性・高分子の設計、シミュレーションによるテストやプロトタイプの開発にもAIはすでに活用されています。
EVバッテリーについても、ライフサイクル全体を見据えた設計と出荷後の管理を効果的に進めるためにAIデータ駆動型のアプローチが欠かせません。
バッテリーリサイクル・セカンドライフの課題
――バッテリーのリサイクル活用、AIデータ駆動化にあたって課題などはないのでしょうか。