マツダは3月18日、東京都内で電動化戦略についてのマルチソリューション説明会を開催した。そこで強調したのは、2030年までを“電動化の黎明期”と位置づけ、スモールプレーヤーであることを念頭に置き、マツダらしい戦略に徹するということだ。
「電動化を取り巻く環境は、インフレによる投資コストの増加、地域ごとの電動化進度の違い、保護的通商政策、経済安全保障、地政学的リスクの高まりなど、多くの不確実性を抱えている。こうした状況下でも、経営リスクを最小化しながら、事業の競争力を高めるために、業界におけるスモールプレーヤーの当社は『ライトアセット戦略』を推進していく」と毛籠勝弘社長は話す。
“意思あるフォロワー”としてのBEV戦略
ライトアセット戦略とは、資産の負担を抑えつつ活用度を高めることで、弱小企業でも競争力を高めることができるというアプローチだ。マツダはカーボンニュートラルとビジネス成長を両立するには、エンジン車(ICE)、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリーEV(BEV)などマルチソリューションを提供することが重要とのスタンスだが、すべてに力を入れて行くには無理がある。自社の強みを生かして、メリハリの効いた戦略を行っていく必要がある。
そこで、BEVについては、「“意思あるフォロワー”という戦略を採用し、電動化の進展に対応する」(毛籠社長)方針だ。電動化で重要となるソフトウェア開発では協業を軸とする。例えば、トヨタ自動車やデンソー、ブルーイーネクサスといった企業の力を借り、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)開発の土台である電気電子アーキテクチャー、ADAS(先進運転支援システム)、電動パワートレインなどの開発を効率的に進めていく。

また、中国でのパートナーである長安汽車と協業し、BEVを電動化の進展が早い中国、欧州、アセアン市場に投入していく。近々、欧州やタイに投入予定の『MAZDA 6e』は「長安汽車の電動技術やソフトウェア技術にベースを置きながら、マツダの匠エンジニアリングとデザイナーの知見を注ぎ込み、マツダならではのデザイン、人馬一体の走行性能、クラフツマンシップを体現した商品」(梅下隆一常務執行役員)とのことだ。

マツダ社内では、BEVの開発のために2023年11月に電動化事業部、通称「e-MAZDA」to発足。現在、全社23本部から集まった約300名が商品開発やビジネスの変革に取り組んでいる。
電池投資の最適化を含めた、こうした取り組みの結果、「2022年に発表した電動化投資1.5兆円は、インフレの影響で2兆円規模となる見込みだったが、総額1.5兆円程度に押さえつつ、自社開発のハイブリッドやスカイアクティブZ、ロータリーエンジンの開発を進めるなど、電動化の選択肢を広げながら、成長投資の大きな効率化と将来計画の強化を進めていく」と毛籠社長は説明する。
CN実現の要となるICE「スカイアクティブZ」
一方、ICEについては、電動化時代においても、フロントランナーであり続ける方針だ。「BEVの普及にはばらつきがあり、ICEのある電動化はカーボンニュートラル実現のために重要だ」と廣瀬一郎専務執行役員兼CTOは強調する。

廣瀬専務によると、開発中の2.5リットル直列4気筒ガソリンエンジンのスカイアクティブZは、厳しいエミッション規制である欧州ユーロ7、米国LEV4、Tier4をクリアしながら、走行性能をさらに高次元で両立させるエンジンだという。「つまり、お客様が街乗りから積極的に走りを楽しむ実際のシーンまで広い領域で、高い燃費性能を実現しながら、気持ちのよい走りを実現する」と廣瀬専務は太鼓判を押す。

さらに、スカイアクティブZは電動化技術を組み合わせ、より高い環境性能と走行性能を両立させる、電動化時代のエンジンラインアップの中心になるそうだ。2027年には、スカイアクティブZとマツダ独自のハイブリッドシステムを組み合わせた『CX-5』が投入される予定だ。
その後、スカイアクティブZで培った燃焼改善技術を、ラージ商品群の直列6気筒エンジンへの展開、ロータリーエンジンの厳しいエミッション規制適合へと進めていく計画である。
BEVとエンジン車の混流生産で稼働率100%に
生産面でもマツダならではの高効率で柔軟な生産を追求していく。弘中武都常務執行役員は「マツダにはBEV専用工場は必要ない」と前置きし、「ものづくり革新ですでに生産ラインの工程数を4割削減しているし、BEVとエンジン車の混流生産できる生産基盤ができあがっている。また、当社のようなスモールプレーヤーにおいては、混流生産で生産ラインの稼働率を100%にすることが賢いやり方だと考えている」と話す。