AGCがCES 2024に出展する理由…日米欧一体でグローバル企業としての技術力と総合力をアピール

PR
LVCC(ラスベガス・コンベンションセンター)のウエストホールに出展したAGCのブース(CES 2024)
  • LVCC(ラスベガス・コンベンションセンター)のウエストホールに出展したAGCのブース(CES 2024)
  • AGC 広報・IR部の小川知香子部長
  • AGC 広報・IR部の小川知香子部長
  • 360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」の展示。LiDARを様々な位置に取り付け、その環境に応じた最適なガラス技術を提供している
  • 360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」。近赤外線で高い透過率を実現でき、傷や衝撃による故障、雨滴・汚れによる検知精度の低下を防げる
  • 360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」の展示。LiDARを様々な位置に取り付け、その環境に応じた最適なガラス技術を提供している
  • AGC inc.のBert Philips氏
  • 「5G対応ガラスアンテナ」。ルーフのガラス面積が増え、アンテナを分散配置しやすくなったことで互いに干渉を小さくできる

素材メーカーのAGCは、1月9日より12日まで米国ラスベガスで開催された世界最大の先端テクノロジーイベント「CES 2024」に出展した。今回のテーマは“One Vision. Move the World.”。日米欧のAGCグループ関連会社が開発した様々な技術が集まる見どころ満載の総合展となっていた。

そもそもこれまでガラスが果たす役割といえば、外部と内部を仕切ることが基本だった。しかし、それはやがて熱や音をコントロールして快適な空間をもたらす素材へと発展し、今やその対象は情報までも含む“マルチファンクション”へと大きく進化を遂げている。

そうした中でAGCは、ブース面積を初出展の昨年と比べ約5倍に拡大。この広々としたエリアを使い、日米欧のAGCグループ関連会社が一堂に集結してガラスが持つ様々な特性を生かしたソリューションを披露した。

「AGCの技術開発では常に日米欧が連携」

今回の出展を統括するAGC 広報・IR部の小川知香子部長は、「AGCグループは売上げ全体の約7割を日本以外とするグローバル企業です。しかし、その割にグローバルでの知名度はそれほど高くないと認識しています。もちろん、製品を納めている自動車メーカーなどには知られていますが、それ以外の企業にはまだまだ知られていないのが現実。そうした状況を打破するためにもCESが最適であると考えて、昨年より出展を開始しました」と述べた。

AGC 広報・IR部の小川知香子部長AGC 広報・IR部の小川知香子部長

実際、出展の効果は大きかったようで、「昨年はもっと小さなブースで出展していましたが、それにも関わらず多くの方に来場いただき、それがビジネスへとつながり手応えを感じました」という。一方、昨年のブースは初出展ということで狭い面積しか確保できず、日米欧で別々の出展となってしまったことでAGCの総合力をアピールするには足りないとの反省もあった。

とくに「AGCは素材に関するハイテク企業であるにもかかわらず、何の会社であるか広く知られていません」と語り、グローバルで事業を展開するAGCとして「その総合力をより強くアピールするためにも、2回目となる今回は日米欧のグループ関連会社が一堂に集まって出展する形をとりました」と今回の出展でグループ関連企業が集結した背景を説明した。

また、「もともとAGCの技術開発では常に日米欧が連携してきました。そういった意味でも、日米欧が一緒に出展するのは自然な形」と小川氏は話す。今回の出展にあたっては互いに勉強となったことも多かったようだ。たとえば「欧米側は見せ方を重視したよりスタイリッシュな出展を目指すが、日本は地に足が着いたしっかりした展示を行いたい傾向があった」という。「それだけにブースをまとめ上げるのに苦労はしましたが、技術面での交流をずっと続けてきた経緯もあり、それを乗り越えることができました」と振り返った。

LiDARを守り性能を引き出すカバーガラス「Wideye」

ではCES 2024でAGCはどんな出展を行ったのだろうか。ここからはその見どころについてお伝えしたい。

出展は大きく“Detection(検知)、Connection(繋がり)、Comfortability(快適さ)”の3つの分野での訴求となっていた。

“Detection”でメインとなる出展は、360度LiDARセンシングをサポートするガラスソリューションだ。360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」は、LiDARの前面に設置することでメリットを得られる製品。LiDARで用いられる近赤外線領域で極めて高い透過率を実現した上に、傷や衝撃による故障、雨滴・汚れによる検知精度の低下を防ぐ効果もある。ここでは主に欧州のチームが関わった。

360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」の展示。LiDARを様々な位置に取り付け、その環境に応じた最適なガラス技術を提供している360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」の展示。LiDARを様々な位置に取り付け、その環境に応じた最適なガラス技術を提供している

見逃せないのがガラスによる優れた耐久性だ。これまでLiDARには加工のしやすさから樹脂素材のポリカーボネートが多用されてきたが、経年劣化にはあまり強くない。AGCではその形状設計の自由度を確保しつつも、紫外線による経年劣化を受けにくく、長期にわたって透過率を維持できるカバーガラスの開発に成功した。

また、ガラスの表面には撥水コーティングやARコーティングを施したほか、電熱ヒーターを取り付けることも可能で、これによってあらゆる環境下において優れた光学性能を最大限に発揮。さらにこの技術は大面積への展開も可能で、ルーフなど外装モジュールにも柔軟に加工して対応できることも見逃せないポイントとなる。

360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」。近赤外線で高い透過率を実現でき、傷や衝撃による故障、雨滴・汚れによる検知精度の低下を防げる360度センサー LiDAR用カバーガラス「Wideye(ワイドアイ)」。近赤外線で高い透過率を実現でき、傷や衝撃による故障、雨滴・汚れによる検知精度の低下を防げる

“Detection”では他に、「FIRカメラ対応フロントガラス」の出展も興味深かった。これはフロントガラスの一部を特殊加工し、そこにFIR(遠赤外線)光を透過できる特殊素材を一体化したものだ。ADASではヘッドライト光が届かないエリアでの歩行者検知が重要視されており、そういった状況下で大きな効果が期待される。

FIR(遠赤外線)カメラ対応フロントガラス。夜間のFIRカメラの有効性を高められるFIR(遠赤外線)カメラ対応フロントガラス。夜間のFIRカメラの有効性を高められる

車体の美観と安定した通信性能を両立する「5G対応ガラスアンテナ」

“Connectivity”では、車体の美観と安定した通信性能を両立する「5G対応ガラスアンテナ」の出展が興味深い。

「5G対応ガラスアンテナ」。ルーフのガラス面積が増え、アンテナを分散配置しやすくなったことで互いに干渉を小さくできる「5G対応ガラスアンテナ」。ルーフのガラス面積が増え、アンテナを分散配置しやすくなったことで互いに干渉を小さくできる

ガラスアンテナは透明のため外観においてアンテナの存在を意識させることなく分散配置することができ、十分な受信性能を獲得できるというものだ。特にアンテナの役割を果たすには、車両でもっとも高い位置にあるルーフに装着するのが理想的。開発担当者によれば「最近はルーフのガラス面積が増える傾向にあり、アンテナを分散配置しやすくなったため互いの干渉を小さくできることも開発がスタートしたきっかけの一つ」でもあったようだ。

また、導電性の熱反射コーティングによる影響を最小限にとどめつつ、グローバルでのLTE+5G-sub6の周波数を共通のアンテナでカバーすることができる。その上で放送波アンテナなど他のアンテナとの共存も可能になるという。この開発により車両の外観に全く影響がない状態で高い受信効果が得られる、まさに“さよなら、シャークフィン”となる日が現実に近づいていることを実感させてくれた。

強度と安全性、デザインを網羅したディスプレイ用カバーガラス

ガラスによって快適な車内環境がもたらされる“Comfortability”にも多くの出展があった。その中で注目されたのが、ダッシュボードの左右いっぱいに展開できる「Pillar to Pillarディスプレイ用3D曲面形状カバーガラス」だ。

「Pillar to Pillarディスプレイ用3D局面形状カバーガラス」。左右に広がりながら緩やかに湾曲させ、同時に安全性や耐久性も担保した仕様となっている。継ぎ目のない表示も可能とした「Pillar to Pillarディスプレイ用3D局面形状カバーガラス」。左右に広がりながら緩やかに湾曲させ、同時に安全性や耐久性も担保した仕様となっている。継ぎ目のない表示も可能とした

最近、新型車で多く見られるのがダッシュボードのほぼ全面をディスプレイとするスタイル。組み込まれたディスプレイによって、より多くの情報が乗員に与えられるようになっているのだ。しかし、ディスプレイを組み込むのにパネルを平面とすれば、乗員はどうしても圧迫感を感じやすい。そこでパネルを緩やかに湾曲させる3D加工が必要となるわけだが、実はここで重要となるのが加工を施した後の耐久性や安全性だ。

AGCでは化学強化用特殊ガラス「Dragontrail」を用いることで、高い強度を備えながら内装材として求められる高い安全性も確保した。そして、使い勝手を高めるために反射防止膜や指紋付着防止膜などの成膜技術を活用。これがガラス自体の質感をそのままにディスプレイとダッシュボードの一体感を高める、卓越したデザインをもたらすのだ。

他にも、次世代HUD(ヘッドアップディスプレイ)で先進的なコックピットを実現する「黒セラ部投影HUD(Black-band Display)」や、光と熱を制御して車内を心地よい空間にする調光サイドガラス「Digital Curtain」、「Low-eコート付き調光パノラマルーフ」といった多彩な技術の出展があった。

次世代HUD(ヘッドアップディスプレイ)で先進的なコックピットを実現する「黒セラ部投影HUD(Black-band Display)」次世代HUD(ヘッドアップディスプレイ)で先進的なコックピットを実現する「黒セラ部投影HUD(Black-band Display)」

今回の出展でAGCは、これまで互いに培ってきた日米欧の技術開発を一つの大きなソリューションとして提示していたのが印象的。会場には欧米から派遣された技術スタッフも多く、その雰囲気はグローバルで事業を展開するAGCとしての特徴がうまく再現されていたのではないかと思う。「100年に一度の大変革」とされる中で、今回の出展からは、持ち前の高い技術力や対応力によって、そうした変化に柔軟に取り組もうとするAGCの総意を感じた。

AGCのモビリティ関連の情報はこちら

《会田肇》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集