自動車ジャーナリスト・自動車経済評論家である著者が、企業動向や国の政策などを紐解きながら自動車業界の現状と未来に迫る連載「池田直渡の着眼大局」。今回は、レクサスが今年3月末に販売開始したBEV『RZ』試乗による考察と、BEV所有についての条件について語る。
◆レクサス初のBEVで伊豆へ
ゴールデンウィーク前から「一度是非!」と広報担当からご案内を受けていたレクサスRZ 450eで伊豆まで試乗に出かけた。オプション込み込み900万円のBEVフラッグシップ。RZに興味があるという10代の頃からの腐れ縁友達2名を引き連れ、朝7時30分に集合して、用賀から東名で目指すは伊東の干物定食屋だ。ちなみにこの2名は、片や科学全般の、もう片方は企業財務やM&A方面の専門家で、筆者の知恵袋として日々原稿執筆に貢献してくれているいわゆるブレーンである。
三連休初日の土曜日だけあって東名川崎ICからもう、どが付く渋滞。やむなく横浜青葉ICで降りて、246の北側の裏道伝いで16号を超え、海老名から圏央道で南下して茅ヶ崎まで。まあこれだけ裏道を通れば、時間もそれなりに掛かるので、おそらくおとなしく渋滞に並んでいても時間は変わらないか、むしろ早かったかもしれないが、ただ三連休の大渋滞に並んでクルコンに任せていても試乗にならないので、貧乏臭くちょこちょこと回避ルートを走り回った。というのは表向きで、ホントのところとしては、いい歳のジジィ3名なので、渋滞でトイレに行かれない恐怖が先だったのもある。
◆ADASはトップクラスにあると言える
という試乗の都合から、イレギュラーな順序だが、渋滞でのクルコンの様子から話が始まる。一言で言って制御はなかなかお見事。速度変化への追随も速いし、止まったり進んだりの状態でも、停止状態から穏やかな警告音を発して、無操作で前車追従スタート。こうした安全性と利便性のバランスが一歩一歩前進してきたことにとても好印象を持った。
技術のあり方として、できることはどんどん取り入れていくやり方と、安全性を重視し、例え技術的に可能でも採用を慎重に進めるやり方がある。日本のメーカーがどちらサイドかは明らかだろうが、その結果として使う側にとって、操作の煩雑さがあったのも事実である。例えば前車追従クルコンの作動中にブレーキを操作した後、再度クルコンに復帰する操作など、初期の頃は全部最初から設定をやり直しだった。
ブレーキを踏むということはドライバーが介入しなければならないほどの環境変化があったわけだから、アシストモードに安易に戻さないようにするというのもひとつの見識。意味がわからないわけではないが、リアルな路上ではわりと頻繁に発生する合流や車線変更で、前に割り込まれる度に再セッティングするのは、正直煩わしかったのも事実で、その“煩わしいの心”がブレーキ操作を躊躇わせる。「このままクルコン任せでなんとかしたい」という欲求が生じ、その度ごとにそういう楽をしたい気持ちとの葛藤が発生する。それはトータルで安全なのかという視点も大事である。
というトライ&エラーを繰り返し、少しずつステップを刻みつつではあるが、いわゆるリジューム、つまりクルコンの復帰設定のハードルを下げて、今レクサスRZのクルコンは、穏やかな警告音を発しつつ、トロトロ渋滞中の停止からの再発進をドライバーが介入せずに自動でやるところまできた。「そんなこと仰々しくいわずとも、最初から技術主導のワンステップでそこへたどり着いた会社もあるではないか」というご意見もあろうが、例えゴールは同じでも意味が違うと筆者は思っている。「問題があったら直せばいい」と、「高いリスクを回避しながら進歩させる」のは、特に命が掛かるクルマの領域ではやはり質的に違うと思うのだ。
もちろんどちらにもメリットデメリットのある話なので、技術アプローチへの好みの部分があるのかもしれないが、筆者としては、細かく確認を重ね、ステップを刻みつつ、ここへたどり着いたその知見の集積に深く同意するとともに、そういう愚直なやり方を貫いて、ついに利便性でも文句のないところまでたどり着いたことを祝いたい。