自動車の「100年に一度の大変革期」は、ガソリン車からEVへという製品として成り立ちの問題だけではない。OEMと下請けからなる自動車産業の垂直統合モデルの事業構造そのものが変わろうとしている。それを突き動かすのがすでに水平分業モデルを確立済みのIT業界から自動車への参入だ。モバイル分野で長らく活躍してきたITジャーナリストの石川温氏が、台湾のフォックスコンや、日本のDeNA、KDDIの自動車業界参入の動きをレポートする。
◆自動車がスマートフォンのように作られる
これからEVシフトが進むことで、自動車業界はメーカーを頂点にした垂直統合モデルから水平分業モデルに生まれ変わると言われている。
そんななか、通信業界の企業が続々と自動車業界でのポジション確保を狙っている。かつてNTTドコモの「iモード」というキャリア主導の垂直統合モデルから、iPhoneを代表とするスマートフォンによる水平分業モデルに移行した実績を持つIT系の企業が、同じように垂直統合モデルが支配的な自動車産業に、水平分業モデルが持ち込まれる動きだとも言える。
4月上旬、台湾にて「2035 E-Mobility Taiwan」というイベントが開催された。展示ブースにおいて、目玉企業として注目されていたのが、フォックスコン(ホンハイ/鴻海)だった。フォックスコンはiPhoneの製造を請け負っているEMS(Electronics Manufacturing Service)として有名であり、日本ではシャープの親会社でもある。
フォックスコンはパソコンやスマートフォンの下請けとして、アップルなどから下請けで製造して勢力を拡大してきた。実際、日本メーカーのAndroidスマートフォンも、安価なモデルは自社では開発や製造をしておらず、フォックスコンのようなメーカーのリファレンスモデルをベースに調達、販売されていることがある。
台湾の展示会ではフォックスコン製造のBEV『Model B』『Model C』『Model V』という3モデルを展示していたが、いずれも「リファレンスモデル」に過ぎない。フォックスコンは自社ブランドで売るようなことはせず、EVを売りたい自動車メーカーや強力なブランド、販路を持つ会社にカスタマイズして納入していくことになる。
つまり、フォックスコンはスマートフォンでの成功モデルを武器に自動車業界に進出しはじめているのだ。