EV普及を阻む課題を蓄電池ソリューションで解決するパワーエックス【EVを取り巻く破壊的イノベーションの全貌 第2回】

パワーエックスの蓄電池付き超急速EV充電器「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」
  • パワーエックスの蓄電池付き超急速EV充電器「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」
  • パワーエックスの「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」
  • パワーエックス EVチャージステーション事業部 部長 森居紘平氏
  • パワーエックス テクニカルソリューション部 シニアマネージャー 松岡亘氏
  • リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ クロスモビリティ事業部 ディレクターの西口恒一郎氏
  • パワーエックス EVチャージステーション事業部 部長 森居紘平氏(奥)とリブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ クロスモビリティ事業部 ディレクターの西口恒一郎氏(手前)
  • リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ クロスモビリティ事業部 ディレクターの西口恒一郎氏、パワーエックス EVチャージステーション事業部 部長 森居紘平氏、パワーエックス テクニカルソリューション部 シニアマネージャー 松岡亘氏(左から)
  • パワーエックスの蓄電池工場。「パワーベース」はフルオートメーションのマザー工場で、来年稼働予定

世界的なカーボンニュートラルへの動きとEVシフトは、自動車業界だけでなくビジネス環境全般に大きな変化を起こしつつある。これを「EVトランスフォーメーション(EVX)」と呼ぶ。

EVXの領域でビジネスを展開する各社の動きとビジョンを深掘りする「EVを取り巻く破壊的イノベーションの全貌」。第2回は、蓄電池を軸とした事業展開で注目を集めるベンチャー企業、パワーエックス(Power X)に話を聞いた。

EVによってビジネスと社会構造が変わる「EVX」

EVXは10の事業領域に分かれる。

1. EV+エネルギーセット販売(電力会社や石油会社)
2. EV導入サービス(企業のEV導入をトータルサポート)
3. EV+MaaS(MaaSのEV化)
4. BCP(災害時などにおける事業継続計画)におけるEV活用
5. EV用の全国充電インフラの整備
6. BasS(バッテリー・アズ・ア・サービス)=EV用バッテリ交換サービスなど
7. EMS(エネルギー・マネジメント・システム)=電力消費の最適化
8. VPP(バーチャル・パワー・プラント)=EVなどを束ねた仮想発電所
9. V2X(ビークル・トゥ・X)Xはホームやグリッド(電力網)
10. EVフリート=法人所有の複数EVの効率的な充電を含めた運行管理

これらの事業領域は単独ではなく、それぞれが影響し合う関係にある。これらの事業やサービスを運営して提供していく場合も、逆に利用する立場にある場合も、企業にとって避けて通れない領域になっていくだろう。

自動車業界はこのメガトレンドとどう向き合うべきなのか。そこで今何が起きているのか。本連載はそこに着目し、実際のプレイヤーの声を聞きながら明らかにしていく。

今回は、大型蓄電池を内蔵し、高圧契約なしで設置できるEV急速充電器「Hypercharger(ハイパーチャージャ―)」を展開するパワーエックス社に話を聞いた。EVには充電時間の長さという弱点があり、それをカバーしEVの本格的普及を図るためには充電拠点の大規模な普及が必要とされる。

そのための電力確保などの課題を蓄電池ソリューションで解決しようとしているのがパワーエックス社だ。聞き手は、EVXという言葉の生みの親でもあるリブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ クロスモビリティ事業部 ディレクターの西口恒一郎氏が務める。

リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ クロスモビリティ事業部 ディレクターの西口恒一郎氏、パワーエックス EVチャージステーション事業部 部長 森居紘平氏、パワーエックス テクニカルソリューション部 シニアマネージャー 松岡亘氏(左から)

ソフトウェア技術による蓄電池ソリューション

西口恒一郎氏(以下敬称略):はじめに、御社の概要をご紹介いただけますか。

パワーエックス EVチャージステーション事業部 部長 森居紘平氏(以下敬称略):我々のミッションは、自然エネルギーの爆発的普及を実現し、永遠にエネルギーに困らない地球を作っていくことです。設立は約2年前で、現在の従業員数は約80名です。資金調達額は現在106億円で、大企業を中心に、電力会社や商社、銀行、造船会社などから出資を受けています。

今後、自然エネルギー普及を加速させることで、地球環境に貢献していくのが我々の使命です。

西口:事業内容はどのようなものでしょうか。

森居:事業の柱は、再生可能エネルギーが増えていく中で変動エネルギーを溜める機能を安価に、規模感ある形で提供することです。

具体的には、蓄電池の製造販売を軸として、蓄電池を使ったEVの超急速充電器や充電ステーション事業、蓄電池を搭載した船で電気を運ぶ、電気運搬船の事業も展開しています。

西口:自社工場を建設中だそうですね。

森居:はい。2つの工場で、6.2GWh規模の生産能力を立ち上げる計画で、これは日本で最大級の規模になると思います。徳島の工場では今年3月からテスト生産を開始し、6月には商業生産を始めます。この工場では超急速充電器も作られます。

また、岡山県の玉野市にはフルオートメーションのマザー工場を建設中で、来年から稼働させる予定です。建築家・妹島和世氏の設計によるデザイン性の高い工場で、「Power Base(パワーベース)」と呼んでいます。

当社では電池のセル自体は作らず、競争力のあるものを外部から調達しています。それをモジュール化し、ラックに詰め、システムに組み込むところを手掛けています。

また同時にそれを制御するソフトウェアを自社開発し、充放電のコントロールや電力サービスに合わせたアプリケーション開発を行っています。お客様には電池と、電池を使った電力マネジメントのソリューションを提供しています。

西口:現在どのような製品を提供しているのですか。

森居:まず、「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」という蓄電池付きの最大240kW対応の超急速充電器があります。この夏から当社直営拠点でサービスを開始し、9月からは法人のお客さまへの納入も開始します。

次に、「Mega Power(メガパワー)」と呼ばれる定置用の蓄電池で、20フィートコンテナに入る3MWhの大型蓄電池です。これは物流センターや工場、発電所などで使用される予定です。これらの製品で、現在先行予約を1800億円分ほどいただいています。

西口:それほどの強いニーズを得ている理由は何だと思いますか?

森居:まずは、性能に対して価格が安いことです。経済産業省が2030年に目標としているストレージパリティ(定置用での一般的な目安として6万円/kWh程度)を下回る価格で、今年から販売するという点が評価されています。

次に、日本製であり、6.2GWhの生産能力があるため納期も早いという点が挙げられます。また、ハードだけでなく、ソフトウェアも自社内で開発し、お客様に提供できることが評価されています。これらの要因が1800億円の実績につながっていると考えます。

先行予約はハイパーチャージャーと、メガパワーの両方でお受けしており、このうち多くを占めるのは、より大容量の蓄電池を搭載するメガパワーです。とは言え、ハイパーチャージャーについても注目度が高く、お客様の興味や要望を多くいただいています。

西口:どのようなユーザーが多いのでしょうか?

森居:ハイパーチャージャーについては自動車ディーラーの需要が高いという状況です。物流会社やバス・タクシー会社などの企業も脱炭素化やEV化に取り組んでおり、効率的な充電やフリートマネジメントにハイパーチャージャーを検討されています。

また、自社で太陽光パネルを持っていながら、十分に活用できず、昼間の発電分を系統に売ってしまっている企業様から自社でのEV導入に蓄電池機能と急速充電器機能を兼ね備えたハイパーチャージャーを予約いただく、というケースも多くあります。

パワーエックスの蓄電池付き超急速EV充電器「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」

2030年までに超急速充電器7000カ所で再エネ活用

西口:それでは、EV充電サービスについてご紹介いただけますか。

森居:まず、EVの目的の1つは脱炭素ですが、充電する夜間には再エネがほとんどなく、火力電源からの電力でEVを充電しているという矛盾があります。この課題を解決するのが、我々が提供する蓄電池付き超急速充電器、ハイパーチャージャーです。

現状、100kWを超える充電出力の充電器に限っては、欧州やアメリカに比べて日本では数が非常に少ないですが、今後はEVの普及と共に、これらの数がより多く必要だと考えており、当社では今年の夏から、急速充電ネットワークの整備に取り組む予定です。

我々のサービスの特徴は、超急速充電、再エネでの充電、導入費用とランニングコストの安さ、そしてBCP(事業継続計画)も含めてエネルギーマネジメントが可能な蓄電池を持っていることです。

そして、アプリで充電予約可能で、待ち時間も30分の時間制限も無い充電ステーションを、まず今年(2023年)夏に10カ所から設置予定です。2030年までには7000カ所のチャージステーションネットワークを目指しています。

再エネを蓄電池にため、EVに超急速で充電することができるハイパーチャージャー。導入費用とランニングコストが安く、エネルギーマネジメントも可能

西口:再エネでの充電とのことですが、どのような仕組みなのですか。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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