日産 エクストレイル「タフさは体で、上質さはディテールで表現」…エクステリアデザイナー・インタビュー

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  • 日産グローバルデザイン本部第二プロダクトデザイン部デザイン・マネージャーの小泉顕一郎さん

2022年にフルモデルチェンジした日産のSUV『エクストレイル』。2022-2023日本カーオブザイヤーのテクノロジカー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、VCターボやe-4ORCEに目が行きがちだが、そのデザインはタフさとともに上質さを加えこれまで以上に力が入れられている。

◆自分が欲しいエクストレイルをデザインしよう

エクストレイルのエクステリアデザインを担当したのは、日産グローバルデザイン本部第二プロダクトデザイン部デザイン・マネージャーの小泉顕一郎さん(以下敬称略)だ。これまで初代『リーフ』と現行『リーフ』、現行『セレナ』、現行『ムラーノ』、北米の『タイタン』や『フロンティア』などに携わってきた実績を買われ、エクストレイルのエクステリアの担当が決まったようだ。そこで、改めてエクストレイルのエクステリアデザインについて詳細を伺った。

日産グローバルデザイン本部第二プロダクトデザイン部デザイン・マネージャーの小泉顕一郎さん日産グローバルデザイン本部第二プロダクトデザイン部デザイン・マネージャーの小泉顕一郎さん

---:エクストレイルのエクステリアの担当が決まった時にどのように感じましたか。

小泉:日産の最重要車種なので、半分嬉しかったのと、半分緊張したのと半々でしたね。身が引き締まる思いをしたの覚えています。

---:かなりプレッシャーがあったんじゃないですか。

小泉:はい、プレッシャーはありました。ただ、そのプレッシャーに勝っていたのは、自分がターゲットユーザーのど真ん中にいるということでした。私も、このエクストレイルを欲しいなと思っているユーザーでしたので、自分が買えるクルマをデザインできるという嬉しさも大きかったですね。

---:そのときにはどのようなクルマにしたいと思っていたのでしょう。

小泉:商品企画、エンジニア、デザイナーが最初から一貫して1枚岩だったんです。そこでは初代から受け継いでいるエクストレイルらしさ、つまりタフギア的な側面と、それを現代風にすごくモダンに再解釈したようなものができれば、ライバルに対しても唯一無二の存在になるだろう。それをよりどころにしてデザインしていました。

◆タフさだけでなく上質さも必要になったわけ

---:今回のデザインコンセプトでも、タフさはありますが、一方で上質さも挙げられています。タフさは初代から受け継いでいるものとして分かるのですが、上質さを入れたのはどうしてでしょう。

小泉: CセグメントのSUVは、最も多用途で、シーンを限定しないオールマイティーさ、大勢のお客さんにも刺さる1番ストライクなクルマです。そこで、悪路走破性的なものとしてキャラクターを浮かび上がらせることでエクストレイルらしさは残しつつ、やはり上質さ、少し洗練された感じで、より多くのお客さんに届けたいというところが、もう1つの柱として掲げられた理由です。

---:それをデザイナーとして体現していかなければいけません。まずタフさでは、どういったところでデザイン表現されているのでしょう。

小泉:それはなんといってもプロポーションです。ここでタフさを表現しました。人間でいうと、洋服ではなくて肉体の部分といったら分かりやすいでしょうか。クルマではスタンス、タイヤが四隅で踏ん張っている感じは1mm単位でこだわりましたし、それと肩(ショルダー部分)がガンと張って、いかにも強い筋肉で守ってくれそうなボリューム感。そしてがっしりしたボンネットのボリューム感など、人間でいうと体そのものにあたるところをタフさとして表現しました。

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---:特にリアのショルダーの辺りはすごくタイヤのスタンスを強調していますし、ドアハンドルの下あたりの削ぎ面があることで前後のフェンダーのボリューム感が表現されています。

小泉:まさにごつごつしたタフさと、すごくリファインメントされた美しい曲面とをどう融合させるか。ここは1番時間をかけて失敗を繰り返したところです。

◆ディテールで上質さを表現

---:では上質さではどういったところで表現されていますか。

小泉:先ほどの例えでいうと、体そのものというよりも身につけているものの領域に入ってくるでしょう。具体的にはグリル、ランプ、そしてホイール、その他のディテールのパーツで表現しています。例えばランプでいいますと、今回初めて、歴代エクストレイルにはなかった2段ヘッドランプを採用しました。これによって、ひとクラス上のクルマに見せられるのと同時に、よく見ると上側はポジショニングランプで光って、下側はメインビームとして光ります。そして光っている状態を見てもらうと、2段に分かれてはいるのですが、中で1つのブーメランとして繋がって大きなモーションのシグネチャーを見せているんですね。こういったところで上質さを表現しています。

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次にグリルでは、日本の組子細工からヒントを得ているんです。よく見ていただくとワンピースで作られていますが、艶っとしているところと少しマットなところが混在しています。これはいわゆる御影石のような世界観を狙っているのです。御影石は高級でありながら、少しラフな印象があるでしょう。そこで今回のコンセプトにすごく合うなということで、すごく上質なグリルのイメージとしてこだわりました。

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そしてホイールです。アルミの地肌がむき出しになっている部分のグラフィックはとても幾何学的で都会的な表現なのですが、断面はすごく堅牢な印象にまとめています。通常のリムは、アルミの地肌がリムのところでくるっと一周まわっているんですが、エクストレイルの場合は断続リムというんですが、途切れさせています。最近よくある処理ではあるんですが、すごく上質でありながら堅牢さを狙いました。

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リアコンビは、遠目には大きなブーメランのモーションに見えますし、近寄っていただくと、江戸切子のグラスみたいな細かいパターンをあしらって、遠目の大胆さ、近めの精密さというので上質さを表現しています。

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この辺が上質を狙ったディテールのサンプルです。

◆電動化のレベルで使い分け

---:今回、エクストレイルとしては初めてe-POWERを採用しました。そういったことを踏まえてデザインとしては何らかのこだわり、表現はあったんでしょうか。

小泉:分かりやすいところでいうと、『アリア』以降、日産は電動化をスローガンに掲げている上で、それにシンクロしてデザイン哲学みたいなものもアップデートしています。最近公式に謳っているのが、”タイムレスジャパニーズフューチャーリズム”という世界観で、これは一体何かというと、上質さを表現するにあたって、装飾物を足して足して上質に見せる手法ではなく、日本らしい上質さ、つまり、元来あるものを作り込んで余計な段差だとか、余計な隙間感だとか、目につく不揃いだとか、そういったところを極力消し込んでいきましょうというアプローチでの上質表現、これを掲げています。ですので、今回電動化されたこのエクストレイルでも、デザインの根底にはその思想を置いてデザインしています。

---:その電動化の中でも、アリアや『サクラ』のようなフル電動車と、エクストレイルのようなハイブリッドとは変えていくように思いますが、その辺はいかがですか。

小泉:確かにフル電動のアリアやサクラのデザインアプローチの方がタイムレスジャパニーズフィーチャリズムの適用レベルがもう1桁あがっています。

---:その中で今回のエクストレイルは、その辺でどう表現されていますか。

小泉:とてもマニアックなところなんですが、普通ドアパネルでは、ウエストのモールディングよりも、パネルの方が少し外に出ているんです。そうすると、このパネルの上の断面によってモールディングの水平方向に余計な光の線が入ってしまうんです。今回はドアパネルが奥に引っ込んでいますので、その線を消しています。こういう段差レス、シームレスと我々は呼んでますけれど、ところどころでそういうことにこだわっていますね。

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---:では最後にエクストレイルのエクステリアデザインについてお話しておきたいことがあればお願いします。

小泉:なんといっても、タフさ、上質さはもちろんなんですけど、実は我々エクステリアデザイナーが1番楽しんでやったところは、前後のタイヤの周りの固い塊をどうつなげるかだったんです。

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Aピラーの付け根からリアのドアハンドルのあたりに向けてUの字を描いているんです。こういった面の処理は凄く珍しいと思います。これはいままでにない面の表情を作ろうと、デザイナーがこだわったところで、すごく大変だったんですけれど、結果的にすごく塊感がありながらも、上質な面質、面の表情みたいのが、エクストレイルらしさを象徴していると思います。これは環境によってよく見えたり、見にくかったりするんですが、そういう環境による表情の変化、移ろいみたいなものも楽しんでもらいたいですね。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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