投資が続く空飛ぶクルマの社会実装…日本政策投資銀行 産業調査部兼航空宇宙室 岩本学氏[インタビュー]

投資が続く空飛ぶクルマの社会実装…日本政策投資銀行 産業調査部兼航空宇宙室 岩本学氏[インタビュー]
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空飛ぶクルマは多くの国や企業が関心を示し、多額の資金・人材が投じられている。空飛ぶクルマの社会実装に向けた世界各地や日本における動向について、12 月1日に開催する【オンラインセミナー】に登壇し、空飛ぶクルマの社会実装に向けた国内外の最新動向をテーマに講演する、株式会社日本政策投資銀行 産業調査部兼航空宇宙室 調査役 岩本学氏にセミナーの見どころを聞いた。

セミナー概要
「空飛ぶクルマ」大阪・関西万博での実装に向けて
開催日時:2022年12月1日(木)14:00~16:00
<2>空飛ぶクルマの社会実装に向けた国内外の最新動向
1.空飛ぶクルマの投資・受注動向
2.型式証明取得に向けた機体メーカーの開発動向
3.社会実装に向けた日本の自治体や企業の取組について

セミナーの詳細はこちらから

空飛ぶクルマは大きく分けて二種類

---:空飛ぶクルマの開発に参入する企業が増えていますね。

投資が続く空飛ぶクルマの社会実装…日本政策投資銀行 産業調査部兼航空宇宙室 岩本学氏[インタビュー]投資が続く空飛ぶクルマの社会実装…日本政策投資銀行 産業調査部兼航空宇宙室 岩本学氏[インタビュー]

岩本:今世界各地で開発競争が行われていて、いろんな人達が空飛ぶクルマの機体の開発を進めている所です。ベンチャー企業だけではなく大手の航空機メーカーであるボーイングとかやエアバスとかエンブラエルもそうですし、さらには自動車のホンダや現代自動車も参戦してきていますので、世界各地で開発競争が非常に盛り上がっています。いろんなメーカーがいろんなコンセプトで機体開発を進めているというのが一つ特徴です。

機体は大きく二つのタイプに分ける事ができます。マルチコプタータイプと、固定翼付きタイプです。マルチコプタータイプは、ドローンが大きくなって人を乗せられるようになったイメージで、日本で開発を進めるSkyDriveもこのマルチコプタータイプの機体の開発を進めています。

一方の固定翼付タイプは、羽根やプロペラが付いていて、プロペラで垂直に離着陸ができて、固定翼も使って水平方向に飛行していく機体になっています。

マルチコプター機のメリットとしては、構造が簡素なので開発コストが安く、そのため最終的な販売価格も安くなると考えられています。一方で飛ぶものとしては効率がいいわけではありません。羽がないので、常にローターをフル回転しながら飛ぶので、長い距離を飛ばすのは難しく、航続距離は今のバッテリーテクノロジーだと30km前後と言われています。またペイロードも限られるので乗客数1名、パイロット1名という形が多いです。

一方で固定翼付タイプは、羽があるので飛行効率にも優れますし、高速で飛ぶ事も長距離飛ぶ事も可能です。航続距離は300-400kmほど飛べるという機体もあります。さらに機体のサイズも大きいので乗客4名+パイロット1名などの人数を乗せる事ができます。

ただし開発の難易度は非常に高いですし、開発コスト自体も非常に高くなります。そのため想定される価格も億単位になりそうです。

開発レースの中で最も進んでいると言われているのが、トヨタ自動車が出資をしていてANAも提携している米国のJoby Aviationです。公表されているデータだと航続距離240km、乗客も5人ぐらい乗せられますので非常に有力な存在だと考えられていますし、一番初めにおそらく型式証明を取るのではないでしょうか。

また丸紅が提携しておりJALもリース会社を介してオーダーを入れているVertical Aerospaceも有力なイギリスの機体メーカーですし、Beta Technologiesは、双日が先日出資をして、日本で機体が飛ぶ可能性が高まっている機体メーカーです。

Wiskは、ボーイングが出資をしており、Archerはユナイテッド航空やステランティスが出資をしているメーカーになります。

EVEはブラジルのエンブラエルという有名な航空機メーカーが開発している機体になります。

自動車メーカー関連ではホンダがハイブリッドの機体を発表したり、現代自動車がSupernalという子会社を立ち上げて機体開発を進めています。ホンダはすでにホンダジェットの事業がありますので、もともとノウハウがありそうですが、現代自動車が自分達で機体を作ろうとしているのはちょっと意外な感じはありますね。

それ以外の自動車メーカーは、ベンチャー企業と提携や出資をする形で参入しているケースが多いですね。スズキはSkyDriveと提携してこの分野で取り組みを進めていますし、ダイムラーがVolocopterへ出資して取り組みを進めています。

空飛ぶクルマに投資が続く背景

---:各業界から参入があるようですが、それだけ空飛ぶクルマに対して、新しい産業になるという期待感があるという事ですか?

岩本:おそらくアメリカを中心に、自分達の日々の移動のあり方を変える可能性があるという期待感が大きいと思います。こういう移動があったら面白い、こういう移動手段が本当に世の中にできたら素晴らしい、そういう期待感だと思います。

---:日本にいると、アメリカの通勤とか渋滞事情はあまり実感がありませんね。

岩本:アメリカってみんな渋滞にはまりながら毎日通勤してまた家に帰る、みたいなライフスタイルじゃないですか。車中心の社会になっていて、それってなぜかというと最初から車中心の都市計画になっているからだと思います。

ダウンタウンで日中は働いて、ダウンタウンの周辺に、タウンホームや郊外都市を作って、車でその間を行ったり来たり、毎日1時間半ぐらい渋滞にはまりながら生活しているという事です。

ただこれは米国だけでなく世界全体を見ても、世界的には人口は増えていて、増えた人口は仕事を探して都市部に行くという事で、世界各地でアーバナイゼーションがどんどん深刻になってきています。そうすると今ある渋滞という問題を解決するためには都市計画から見直すしかありません。それこそ新しい道路を作って、電車を通して、などとやっていると、それって何十年かかるのですかという話になります。

毎日渋滞にはまってみんな辛い思いをしている、という状況を変えるために、空という空間をインフラ化して、空を使ってそういう移動を生み出していこうという動機が背景になるのだと思います。

さらにアメリカみたいな広大な土地だと、空を高速で移動していくという文化が受け入れられやすいということもあり、こういったモビリティに注目が集まっていると感じます。

---:毎日渋滞で時間を無駄にするようなライフスタイルを変える要素として見ているわけですか?

岩本:そうですね。例えばJoby Aviationのミッションステートメントは、全世界の人口の時間を1人1秒間節約するだけで何十億の時間が生まれる。そういう人々の時間をもっと貴重に扱えるようにしていく、という事を掲げています。

欧州においても、渋滞が厳しい都市が多いですが、街全体が遺産のようなところも多く、それこそ新しい道路も作りにくいですよね。大規模な都市開発がなかなかできなくて、古い景観も残さなきゃいけないとなった時に、解決手段としての空飛ぶクルマがぴったりはまるという事だと思っています。

その手段がヘリコプターでもいいのですが、音がうるさかったり値段が高かったり、そういう理由もあってなかなか世の中に普及してこなかったという経緯があるので、それが電動化される事によって、もしかしたら全く新しい空の移送手段、移動手段みたいなものが生み出されるのではないかと思っています。

いっぽうで日本は渋滞がそこまで深刻ではないでので、ニーズドリブンにはなりにくく、どうしてもプロダクトドリブンのような形になってしまうように思います。ゆえに、そのため渋滞のような交通の社会課題をどう解決しようかという議論よりも、空飛ぶクルマをどう社会実装しようかという話になっている部分はありますね。

岩本氏が登壇するオンラインセミナー「空飛ぶクルマ 大阪・関西万博での実装に向けて」は12月1日開催。詳細・お申込はこちらから
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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