【フォーミュラE】パワートレインだけではないEVレースのユニークさ…第12戦レビュー

【フォーミュラE】パワートレインだけではないEVレースのユニークさ…第12戦レビュー
  • 【フォーミュラE】パワートレインだけではないEVレースのユニークさ…第12戦レビュー
  • 世界選手権となったフォーミュラE
  • 毎戦ストリートコースで開催される
  • 速さだけでなく効率の良い走りが求められるFE
  • 「電費」を考えて抑えた走りも見られる
  • 【フォーミュラE】パワートレインだけではないEVレースのユニークさ…第12戦レビュー
  • アタックモードやファンブーストで、レース中に最高出力が変更される
  • 今季初勝利を喜ぶダコスタ

バッテリーとモーターを搭載したレーシングカーが世界を転戦する、次世代のモータースポーツ「フォーミュラE(FE)」。8年目の今シーズンからは、フォーミュラ1(F1)や世界耐久選手権(WEC)、世界ラリー選手権(WRC)などと並ぶ世界選手権シリーズに成長した。

世界選手権となったフォーミュラE世界選手権となったフォーミュラE

◆狭いストリートで行われる迫力のレース

現在使用するのは、「Gen2」と呼ばれる第2世代のマシン。900kgの軽量ボディ(ドライバーを含む)に最大250kW (≒ 340PS)まで発生可能なモーターを搭載し、最高速は280km/hに達する。レースは市街地の一般道を一時的に閉鎖した「ストリートコース」で行われ、コンクリートウォールに囲まれた幅の狭いレイアウトによって接触ギリギリの迫力あるバトルが楽しめる。

毎戦ストリートコースで開催される毎戦ストリートコースで開催される

電気自動車(EV)のレースに勝つには、伝統的なモータースポーツとは少し違う戦略が求められる。レース中に使用できるエネルギー(電気)は54kWhに限定されるため、速さだけでなく効率の良い走りが求められる。パワーを使うばかりでなく出力を抑えてエネルギーを節約したり、ブレーキングや「リフト・アンド・コースト」(アクセルペダルから足を離して空走させる)による回生を行ったりして、バッテリー残量に注意しながらの走行が求められる。

速さだけでなく効率の良い走りが求められるFE速さだけでなく効率の良い走りが求められるFE

市販のEV同様、高速走行を続けるとバッテリーの温度が上昇しパフォーマンスが低下することもある。規定以上に過熱した場合、システムが強制的に出力を制限するモードに入ることもあり勝負の権利を失うことにもつながる。「燃費」を考えた走りはエンジン搭載車両によるレースでも見られるが、FEの効率的な走りには複数の要素が関係する。

「電費」を考えて抑えた走りも見られる「電費」を考えて抑えた走りも見られる

◆FE “ならでは” のスポーティングレギュレーション

マシン特性やそれに応じたレース戦略以外にも、次世代のモータースポーツならではの見どころがある。45分+1周で行われる決勝レースでは、一時的に最高出力を220kWから250kWにアップする「アタックモード」(AM)を使用する。パワーが上がることが必ずしも有利に働かないのも、FEのユニークな点だ。

AMに入るためには、コース上に設けられたアタックモード・ゾーンを通過する必要がある。これがレコードラインからは大きく外れた場所に設定してあるため、接戦の多いFEでは後続に抜かれることが多い。パワーアップすればエネルギー消費量も増えるため、バッテリーの状態に一層注意を払う必要もある。

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また、4分間を2回や8分間を1回など、一定ではないAMのフォーマットはレースがスタートしてから各ドライバーに通達される。したがって、戦略も複数のシナリオを事前に用意し、レース展開などに応じて適切に対応する柔軟さもドライバーやチームに求められる。

◆ファンが参加する仕組みやトーナメント形式の予選

そのほか、観客参加型のユニークな仕掛けもある。インターネットを使ってファンがFEの公式サイトにアクセスし、応援したいドライバーに投票する。最も人気を集めたドライバー上位5名には、レースの後半に5秒間250kWの最高出力が使える「ファンブースト」が与えられる。終盤の「ここ一発」の攻めや守りなどに有利に働く。会場やTVで観戦中のファンがレース展開や結果に影響を与えられるしくみは、伝統的なモータースポーツにはないものだ。

アタックモードやファンブーストで、レース中に最高出力が変更されるアタックモードやファンブーストで、レース中に最高出力が変更される

そのほか、予選も第2セッションからは「デュエル」と呼ばれる1対1のトーナメント戦を行うなど、これまでの枠にとらわれない試みが行われている。レーシングカーがEVであるだけでなく、様々な面で新しい楽しみ方を模索・提供しているのがFEというシリーズだ。ほとんどすべてのレースが大都市の街中で行われ、予選と決勝を1日で終えるのも、できるだけ多くの観客が生で観戦しやすいように考えられている。

◆前日とは打って変わった波乱のないレース

今シーズンの第12戦は、第11戦の翌日、7月17日(日)に前日と同じニューヨークの市街地コースで行われた。この日は前日のような突然の雨による波乱も起こらず、大きなトラブルなく45分+1周のレースを終えた。

トップでチェッカーフラッグを受けたのは、「DSテチータ」のアントニオ=フェリックス・ダコスタ(ポルトガル)。2年前のシリーズチャンピオンにとっては、今季初の優勝だった。

今季初勝利を喜ぶダコスタ今季初勝利を喜ぶダコスタ

「メルセデスEQフォーミュラE」のストフェル・バンドーン(ベルギー)は、5番グリッドから持ち前の安定した走りで浮上し2位でゴール。シリーズランキングでもトップを奪還した。3位には「ジャガーTCSレーシング」のミッチ・エバンス(ニュージーランド)が入った。

エバンスもシーズンを通して安定しておりランキング3位に浮上エバンスもシーズンを通して安定しておりランキング3位に浮上


次のFEは2週間後。7月30~31日の週末に、ロンドンの街中で22台のマシンが第13戦と第14戦を戦う。その後、8月の韓国・ソウルでFEのシーズン8は閉幕する。第12戦終了時点で、シリーズランキングはトップから6位までが55点差。

今シーズンは12戦を消化して混戦模様今シーズンは12戦を消化して混戦模様

優勝すれば25ポイントが与えられるため、ニューヨークでこの2レースが終わった今も、チャンピオンの行方はまったく分からない。

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今後も「電気のF1」については、EVならではの車両特性やユニークなレギュレーションなど、独自の視点からレポートしていきたい。

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《石川徹》

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