昨年ついに登場した新型アウトランダーPHEV。期待を上回る走行性能と高品質なデザイン、完成度によって、市場からは好意的な反応が続いている。アウトランダーPHEVのフルモデルチェンジを成功に導いた三菱自動車工業 製品開発本部 C&Dセグメント・チーフ・ビークル・エンジニア 本多謙太郎氏に話を聞いた。
本多氏は【連続セミナー】中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.9「新型アウトランダーPHEV 商品魅力と開発にこめた思い」に登壇しこのテーマで講演予定だ。先に20インチと決めて開発を進めた
---:アウトランダーPHEVの開発の経緯をご紹介くださいますか。
本多:まずは新型アウトランダーのコンセプト「威風堂々」をどう実現したか、ということから紹介していきます。どうしたら堂々と見えるのかということで、まず最初にタイヤのサイズを決め、アルミホイールは20インチにすることにしました。20インチとなると費用や乗り心地、レイアウトがかなり難しくなるのですが、タイヤサイズを最初に決めたからこそ、最終的に「威風堂々」を実現することができました。
内装にも力を入れました。欧州の車をベンチマークにして、内装の質感を細部までこだわりましたし、インタ―フェイスについても、見やすくていろいろな表示が可能となる12.3インチ液晶ディスプレイのメーター、ヘッドアップディスプレイもかなり大きな表示にしていますので、ドライバーは視線をそらさず運転に集中できるようにしています。
後席の乗り心地にもこだわっています。先代はクッションが比較的薄く、お世辞にも座り心地がよいとは言いにくい後席でしたが、新型ではクッション厚もしっかりと確保し、上質感のあるシートにしています、サンシェードやシートヒーター、エアコンの吹き出し口を付けることで後席の方にも快適に長距離移動していただけるような車にしております。
先代のアウトランダーPHEVは5人乗りでしたが、今回はレイアウトを工夫して7人乗りにしました。荷室も狭くなってはいけないということで、ガソリン車と同じように広い荷室を確保しています。
アライアンスのプラットフォームの効能
---:新型アウトランダーPHEVは技術面でも評価されましたね。
本多:技術面では、我々三菱自動車としては2つ大きな強みを持っていると考えています。「四輪駆動技術による安心感の提供」と、「PHEVを軸とした環境技術」です。この2つを今回さらに強化してアウトランダーに搭載することで、充実した走り、意のままの走りをお届けできたと考えています。
そして今回は日産・ルノーとアライアンスで共同開発した初めての車になります。アライアンスのプラットフォームに、三菱の四駆技術とPHEV技術を組み合わせたことで安全・安心そして快適な走りを実現できました。
---:アライアンスのプラットフォームは、もともとPHEVも考慮したものだったのでしょうか。
本多:いえ、そうではありませんでした。ですから我々のPHEVシステムを載せるにあたって、もう少し重量が増えるのでこうして欲しいとか、電池を載せるのでああして欲しいなど、日産・ルノーと話し合いながら進めてきました。
結果として、このアラインスプラットフォームでは剛性を約30%向上しました。環状結合と言って、環状に結合した部材を各部所に配置していることと、その断面をしっかり確保してつなげることで剛性を確保しています。
ラリーでの経験をフィードバックしたS-AWC
本多:そして四駆技術については、当社のこれまでのラリーの経験が生かされています。
ランサーEXでWRCに再参戦した時は、当初は二駆で参戦したのですが、四駆のアウディクワトロに勝てず、ここで四駆のありがたみと必要性をあらためて実感しました。
四駆というのはどうしてもコーナーリング性能が悪くなってしまうので、このころから、四駆のトラクション向上とコーナーリング性能のバランスをどう取っていくかという技術の戦いでした。スタリオン、ギャランVR4を経て、ランサーエボリューションではフルタイム四駆のアクティブデファレンシャルを導入し、これでかなり勝てるようになりました。
つまり、四駆のトラクションとコーナーリング性能をいかにバランスするかという点で三菱は四駆性能を磨いてきたということです。こういった経験によって培った技術は、S-AWCとして量産品にフィードバックされています。
---:S-AWCはエクリプスクロスから搭載されていますが、アウトランダーとは違いがあるのでしょうか。
本多:はい。今回のアウトランダーでは、モーターの出力を上げて前後のトルク配分の自由度を上げていることや、AYC(アクティブヨーコントロール)を後輪にも装備して、制御の幅を広げています。
---:電動四駆技術については、日産のe-4ORCEやレクサスDIRECT4など、他社もいろいろと訴求をしていますが、三菱のS-AWCにはどんな強みがありますか。
本多:「ブレーキAYCによる左右輪の独立制御」ですね。山岳走行や雪道でのコーナーリング時にブレーキ制御により左右のトルク差を発生させることで、ドライバーが思った通りに曲がれる、という点が1つの特徴だと思います。これは、先ほどのラリーでの4WDによる走破性とコーナーリング性能の両立を検討してきた経験が生かされています。
リアの大型モーターで制御の幅が広がった
---:三菱独自のPHEVもさらに進化していますね。
本多:はい。今回はツインモーター四駆のPHEVを搭載しています。他社との違いは、フロントとリアの出力配分を50:50に近づけてバランスを良くしており、さらにモーターの出力そのものも十分確保したので、滑りやすい場面でも制御の幅が広がりコントロールしやすくなっています。
競合モデルとの比較においても、滑りやすい路面での加速テストにおいて、普通の四駆だと発進時にスリップしてなかなか加速しませんが、アウトランダーPHEVでは前後のトルク配分を細かくしっかり制御することによって、スリップが少なく、加速度がすぐに立ち上がっています。これはコーナーリングテストにおいても同様で、アウトランダーPHEVでは、ヨーの乱れが少なく、ステアリングの修正舵が少ないという結果が出ています。
また三菱PHEVシステムは、基本的にはモーターで走行するEVらしい走行フィーリングが特徴です。具体的には、バッテリーの電気を使ってモーターで走る「EVモード」、ガソリンで発電した電気によるモーターで走る「シリーズモード」では、モーターのパワーで走りますので、非常にEVらしいスムーズな走行になっています。
それからもう一つ、高速道路などでクルージングする時には、ガソリンで走った方が効率的ですので「パラレルモード」といってエンジンで直接走るモードも持っていることが特徴です。
さらにPHEVは止まっている時にも非常に便利です。1500W/AC100Vの外部給電用コンセントにより、いつでもどこでも家電製品を使っていただけますし、Vehicle to Homeによって災害時に停電した場合でも、一般家庭の平均値でおよそ12日分の電力を供給できます。医療機関からもかなりお問い合わせいただいていることから災害時の場面でも活躍できると思います。
あとは、新型アウトランダーではEV走行距離を80km以上確保しました。そこからさらにカタログ値での概算なので参考ではありますが、ガソリンを使えば1000kmほど走行することができます。ちなみにこのアウトランダーの車格でバッテリーEVにすると60-80kWhほどのサイズになりますが、それでも航続距離は500km前後でしょう。この車くらいの車格だと、現在の電池技術ではPHEVがLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の考え方ではCO2排出量が最も少なく、実は一番地球にもやさしいです。なお、軽自動車ではバッテリーが小さくてもいいのでEVが一番地球にやさしいです。
---:中型車以上はPHEVで軽自動車はEV、という電動車の組み合わせは理にかなったラインナップですね。
本多:そうですね。日本のご家族ではもともとSUVと軽自動車という組み合わせが多いんですが、例えば、平日のお買い物や子供の送り迎えなど生活圏内の移動には、軽自動車EVを。そして、週末のドライブや荷物を沢山積んでの旅行の際には、電欠の心配のないPHEVのSUVで。といったように、今日はSUV、明日は軽EV、と使い分けていただくのが、地球にとっても、環境にやさしい最強の組み合わせだと考えて計画しました。
アウトランダーPHEV 世界へ
---:アウトランダーの世界展開は今後どういうスケジュールになっていますか?
本多:ガソリンモデルはすでに2021年から北米で販売を開始しており、今は豪州、その他の国でも販売しています。PHEVは、豪州ではまもなく、まさに来月発売になります。その後にアメリカでの販売を予定しています。
---:欧州では販売するのですか?
本多:社の方針として、新型モデルの欧州導入は凍結しているためアウトランダーPHEVを欧州に導入する予定は現時点ありません。
---:そうなんですか。エクリプスクロスがドイツでトップセールスになっていましたし、新型アウトランダーPHEVは現地からどのような反応があるのか、とても楽しみにしていたのですが、そうなんですね。
本多氏が登壇するセミナーは、【連続セミナー】中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.9「新型アウトランダーPHEV 商品魅力と開発にこめた思い」、7月22日(金)正午申込締切。