【シトロエン C5 X 海外試乗】“乗り心地大魔王”の降臨か…? ICEでも攻めるシトロエン…南陽一浩

シトロエン C5 X ピュアテック180(海外仕様)
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昔からビッグ・シトロエンに数奇者が何を求めるかといえば、ひとつ目は個性的なデザイン。ふたつ目は、路面への当たりは柔らかでありながら、ステアリングの舵の効きはなぜかビシッとしている唯一無二の足まわりに他ならない。

ようは加速とかパワーとか燃費とか、数値で表せるスペックやコスパが従来モデルよりエスカレートした新型というだけで、「いいね!」の期待推しが得られるほど、単純な造り手でも車でもない。そうではない部分で、乗り手もしくは予備軍に、共犯関係めいたものを匂わせつつ求めるからこそ、シトロエンは長らく「難解」だとか、挙句の果てには変態呼ばわりされてきた。むしろ乗り手の側も、確信犯で寄っていくところはあるのだが。

話が少し逸れたが、昨今フランス車が日本市場で台数を伸ばし、シトロエンも『C3』や『ベルランゴ』が大ヒットしてますます身近でフツーの存在になりつつある中で、新しい『C5 X』は期待にたがわぬ、異質なアピアランスで現れた。

お見事、大成功という他ないデザイン上の“試み”

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一見するとステーションワゴンかシューティングブレークに見えるボディで、競合はVWの『アルテオン・シューティングブレーク』辺りか?と思いきや、19インチという大径ホイールのプロポーションと地面からのクリアランスが、低く構えた古典的なスポーツワゴン・ルックとは、甚だ異なる。だからといってアウディの「オールロード」やボルボの「クロスカントリー」の系統かといえば、さにあらず。クーペライクに前方へ傾斜したリアハッチ&ウインドウが、その解釈にも待ったをかける。

フロント側から眺めても、垂直気味に立ったグリルとロングノーズのボンネットはSUVライクだが、ボンネットからリアへ向かう伸びやかなウエストラインはサルーンのようですらあり、まわりまわって結局、C5 Xにしか見えない。そんなデザイン上の試みは、ひとまずお見事、大成功という他ない。それでいて全身これ推進力、のようなシルエットは、オリジナルDSからCX、C6辺りまで、100年ブランドたる老舗シトロエンの、ハイエンド・サルーンの伝統でもある。

インテリアにもドラマチックな筋書きがある

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今回、フランス本国で試乗したのは「ピュアテック180」の「シャイン・パック」、つまり1.6リットルツインスクロールターボのガソリンICEで、内装はレザー&ウッドトリムのトップ・オブ・レンジ仕様だ。

通常、レザー&ウッドはもっともコンベンショナルなトリムのはずだが、さすがシトロエンはベタにそうはやらず、コードを巧みにズラす。ダッシュボードやドアサイドに張られたオフホワイトのウッドは、遠目にはウッドなのだが、近づいてよくよく眺めてみると、ダブルシェヴロンを彷彿させる幾何学模様が、おそらくは熱転写プリントで彫り込まれている。しかもソフトウレタンのダッシュボードの表面まで、同じ模様がびっしり。12インチワイドのタッチスクリーンとも相まって、水平基調でパノラマ風に開ける室内視界は、視覚的にも触覚的にも、モダンであか抜けた質感と素材感に貫かれている。

室内がたっぷりワイドなため、前席左右の互いの肘位置は遠く、しかし高めのセンターコンソールで分けられた乗員の収まり具合たるや、ほとんどスポーツサルーンのようだ。だがこれまた矛盾ファクターで、着座位置はきもち高い。さらに『C5』や『C4』でおなじみアドバンストコンフォートシートの、柔らかくもストローク感たっぷりのクッションが、ヒップポイントを一旦沈めては、浮かすように包み込む。ドアを開けて乗り込んで着座するだけの平坦なプロセスに、何ともドラマチックな筋書きがあるのだ。

シャイン・パック仕様には、360度ビューカメラやバックモニター、ADASや緊急ブレーキアシストもレベル2として最新世代が奢られているが、中でもアダプティブクルーズコントロールの使い方の簡便さといったらない。走行中、ステアリングホイールの左側に配されたスイッチを、上方向に親指でスライドさせる。するとクルコンがONになるが、作動ONのサインは指先の手応えやメーターパネル内の表示を通じてでなく、視界前方のヘッドアップディスプレイ内に映し出される。シンプルで直観的なインターフェイスは、EAT8こと8速ATを司るトグル式シフトセレクターにも及び、それこそ指一本でスライドさせるイージーさが心地いい。

PHEVより300kgも軽いICE版

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ところで外装色「グリ・プラチナム」の今回試乗したC5 Xは、フランス本国の認証値ではあるが、全長4805×全幅1865×全高1485mmというサイズ。にもかかわらず車両重量は1467kgで、おそらく日本でも1.5トンは切るだろう。バッテリーを収める分、どうしても重量増を避けられないPHEVの225ps版には減衰力可変式のダンパーが組み合わされる一方、約300kgも軽量な今回のICE版には、固定ダンパーとはいえシトロエン得意のPHC(プログレッシブ・ハイドローリック・コンプレッション)が採用されている。ちなみにドライブモードは「スポーツ/ノーマル/エコ」の3種類のみで、お気づきのように「コンフォート」はない。ノーマルのままで十分にコンフォートという意味なのか。

ゼロスタートからは意外にも、最大250Nmのトルクは強めに立ち上がってリアが少し沈み込むほどで、エレガントに扱うにはひと呼吸おいてクリーピングで這わせ、ソロリと優しくアクセルペダルを踏みこんでやる必要がある。クルマの側がキャラクターとして、そう扱うことを求めているようでもある。

20~30km/hで石畳の路面を横切ると、足まわりからやや神経質なノイズと振動が伝わってくるのは、サス・ストロークの足りなさより、55扁平でハイト高めとはいえエコタイヤの感触のせいだろう。それさえ除けば、街乗りでも郊外路でも高速道路でも、通常の速度域ではハーシュネスや振動音が気になる状況は皆無だ。以上はICE版C5 Xのコンフォートにおける僅かばかりの弱点で、ごく低速域でも減衰力を緩められる分、PHEV版の方がよりソフトに感じられる足まわりかもしれない。予想の域を出ないが、それでもコンフォート重視のタイヤを履けばICE版に軍配が上がる気もする。

“魔王降臨モード”は積極的に走らせた時の乗り味にある

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というのも、『C5エアクロスSUV』ほどではないにせよ、最低地上高194mmというボディのもち上がり具合に対し、2785mmというホイールベースは同じプラットフォームの『DS 9』やプジョー『508』と比べて、じつは決して長くない。ルーフは1485mmと、これまた低くもないが高くもない。しかし1.5トンを切る車両重量は、同グループの同セグメントのサルーンの中で、もっとも軽い。

これが何を意味するかといえば、ロールセンターは低いまま適度に持ち上がった重心とジオメトリー、そして軽さゆえのシンプルな姿勢制御ロジックゆえ、操舵に対して車体がスムーズにロールするのだ。

つまりC5 Xにおける“魔王降臨モード”は、低速での乗り心地以上に、積極的に走らせた時の乗り味にある。足まわりへの入力が強く速いほどダンピングの質が上がっていって、車体も傾くがステアリングもキレキレ、そんなPHCならではのマジックカーペット・ライド感覚は、カントリーロードで早駆けのような状況、けっこうな高速域から始まる。着座位置は高めでも横Gや傾きが下半身で感じられるので、過度にロールが抑制されつまらないとか、傾いてからが唐突で怖いのとは真逆に、荒れた路面での左右切り替えしをも、ヒラリと鮮やかにこなす。コンフォートとスタビリティが高次元で互いにピントを合わせてくるような、奥行きを感じさせるドライブフィールは、車体が軽く重心高バランスに優れるからこそ、の芸当だ。

加えて、高速道路上のような一定回転でのクルーズ巡航では、二重ラミネートの左右フロントウインドウやフロア周りの高い剛性により、ノイズがキレイにシャットアウトされ続ける。遮音材に会話の声が吸い込まれて聞き取りにくいとか、オーディオの再生音バランスに癖がついていることもなく、豊かな静謐さに車内が満たされていることが実感できる。外観では目立たないリアのダブルウイングも、風切り音の低減をはじめエアロダイナミクスに効いてそうで、誤解を恐れずにいえば、無色透明の静けさ、ではないのだ。

PHEVより攻めていないとはいわせない

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スポーツクーペめいたダイナミックさと、サルーンかラウンジめいた快適性に加え、C5 Xは545リットルのトランクを、6:4分割のリアシートを倒せば最大で1640リットルにまで拡がる荷室容量をも有している。こは485リットル/1580リットルとなるPHEV版に対してICE版が優る点でもあり、リアのラゲッジフロアには使いやすいスライドレールすら備わっている。

これだけの実用性とシトロエンらしいこだわりを貫きながら、市街地を含む1000km以上を走らせた後、実燃費は14km/リットル以上。高速道路上だけなら確実に15km/リットルは超えていた。今回のC5 Xは今のところディーゼルを搭載する予定はあえてないそうだが、ビッグ・シトロエンとしてPHEVより攻めていないとはいわせない、そこがICE版の存在理由といえる。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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