【フォーミュラE】 EVのレースでは “熱”も戦略を決める要素に…第9戦レビュー

【フォーミュラE】 EVのレースでは “熱”も戦略を決める要素に…第9戦レビュー
  • 【フォーミュラE】 EVのレースでは “熱”も戦略を決める要素に…第9戦レビュー
  • フォーミュラE世界選手権はシーズン後半を迎えた
  • 初開催のインドネシアは広いコース幅と綺麗な路面が特徴
  • ジャカルタではビーチ沿いにサーキットが設けられた
  • 暑さがタイヤとバッテリーに鍵となる
  • 速さと「電費」そして熱問題が戦略の重要な要素
  • 序盤から攻めたモルタラ
  • アタックモードを遅らせたエバンス

電気で走るレーシングカーが、世界を転戦する次世代のモータースポーツ「フォーミュラE(FE)」。フォーミュラ1(F1)や世界耐久選手権(WEC)、世界ラリー選手権(WRC)と並び、今では世界自動車連盟(FIA)が承認する世界選手権シリーズに成長した。全16戦で争われる今季もレースの半分を消化し、先週末には第9戦が開催され後半戦が始まった。

フォーミュラE世界選手権はシーズン後半を迎えたフォーミュラE世界選手権はシーズン後半を迎えた

ジャカルタ市内をFEが走る

通常、FEのレースは街中の一般道を一時的に閉鎖した「ストリートコース」で行われる。コンクリートの壁に囲まれたコースは幅が狭く、路面のコンディションが場所によって大きく異なる。マンホールのふたが露出している場所もあり、トリッキーなコンディションが接触やクラッシュなどのアクシデントを誘発する。

FE初開催となったインドネシアでは、首都ジャカルタが舞台に選ばれた。街の北側、ジャカルタ湾に面したアンチョール・ビーチ沿いのリゾートエリアにFE用の特設コースが造られた。

ジャカルタではビーチ沿いにサーキットが設けられたジャカルタではビーチ沿いにサーキットが設けられた

このサーキットはFEのために新設されたもので、道幅は広く、新しい舗装も滑らかでドライビングはしやすいコースだろう。

初開催のインドネシアは広いコース幅と綺麗な路面が特徴初開催のインドネシアは広いコース幅と綺麗な路面が特徴

熱の問題が大きいインドネシア

その一方で、独特の難しさもある。決勝レースが行われた6月4日の路面温度は45度まで上昇。気温も30度を超え、真新しい舗装の照り返しも加わってマシンやタイヤには厳しいコンディションとなった。他のカテゴリーでも同様だが、路面温度が高くなればタイヤの摩耗は速く進む。さらにFEの場合、温度はもっと大きな影響をマシンにもたらす。

暑さがタイヤとバッテリーに鍵となる暑さがタイヤとバッテリーに鍵となる

スマートフォンなどで経験がある読者は多いと思うが、バッテリーは長時間使用すると発熱し効率が下がる。市販のバッテリーEV(BEV)でも、連続して高速走行を続けると温度上昇によって充電性能が低下するなどの課題が報告されている。

バッテリーに蓄えた電気でモーターを駆動する仕組みは、FEも市販のEVも基本的には同じだ。ハードにプッシュし過ぎてしまうとバッテリーが熱くなり、約70度を超えると安全のために出力が抑制される。これまで勝敗の鍵だったエネルギーの効率的な使い方、つまり「電費」の良い走りに加え、ここジャカルタではバッテリーの温度管理も重要となる。

コース幅が広いため、アクシデントが起こりづらいことも考えられる。セーフティーカーやフル・コース・イエローによるスロー走行の周回が少なければ、それだけマシンには厳しいコンディションとなる。

FEには珍しい序盤からの攻防

午前中に行われた予選で速さを見せたのは、ジャン=エリック・ベルニュ(フランス)とアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(ポルトガル)の2人。プジョー・シトロエン・グループのプレミアムブランドである「DS」として参戦する、「DSテチータ」の2台がフロントローを分け合った。2列目には、今シーズンそれぞれ2勝を挙げているミッチ・エバンス(ニュージーランド)とエドアルド・モルタラ(スイス)が並んだ。

速さと「電費」そして熱問題が戦略の重要な要素速さと「電費」そして熱問題が戦略の重要な要素

決勝レース序盤は、各車ともエネルギー消費を抑えながら一列に並んで “様子見” のレース展開がこれまでの定石だった。ところが今回のレースでは、積極的な走りが上位陣に見られた。攻め過ぎたダ・コスタがコーナーをオーバーランすると、3番手スタートのエバンス(ジャガーレーシング)が2位に浮上。常にバッテリー残量を多く残すモルタラ(ロキット・ベンチュリ・レーシング)も、序盤から攻めの走りで3位に上がった。

序盤から攻めたモルタラ序盤から攻めたモルタラ

前半でアタックモード

決勝レース中は220kWに設定されているモーターの最高出力を、一時的に250kWに上げる「アタックモード(AM)」を規定回数使用しなければならないのもFE独自のルールである。パワーを上げればオーバーテイクはしやすくなるが、エネルギー消費は増える。通常は、中盤以降まで展開を見ながら温存することが多いが、今回はほとんどのドライバーがレースの1/3を過ぎた頃から続々とAMに入った。時間経過とともに気温や路面温度も上がるため、早い段階で順位を上げておこうという戦略だったようだ。

そんな中、AMを遅らせる戦略を採ったのがエバンスとモルタラだった。スタート直後のターン1などは4台が並んで侵入できるほどコース幅が広い。その反面、ブレーキングしながら曲がるコーナーが多いため、意外に抜きどころが少ないレイアウトのようだ。エバンスとモルタラは、AM中のライバルたちをできるだけ抑える走りを続けた。他のマシンが220kWに戻ったところでAMに入って順位を回復し、さらにギャップを築く戦略を採った。

アタックモードを遅らせたエバンスアタックモードを遅らせたエバンス

今回もエネルギーを100%使い切ってのゴール

ポールポジションからスタートしたベルニュがトップを守っていたが、2位のエバンスがギリギリまでAMを遅らせて残り10分の段階でスパートをかける。数週にわたってテール・トゥ・ノーズの攻防を繰り広げた後、チェッカーフラッグまで7分を残してトップに浮上。エバンスはそのままゴールラインを駆け抜けて今季3勝目を挙げた。

今季3勝目のエバンス今季3勝目のエバンス

3番手につけていたモルタラもベルニュを攻略するチャンスをうかがったが、オーバーテイクには至らず3位に終わった。このトップ3台は、バッテリー残量2%でファイナルラップに突入。再びテール・トゥ・ノーズの争いとなったがエネルギーに余裕はなく、前の周回よりも2秒遅いラップタイムで順位をキープしたままのゴールとなった。

FEによるEVの進化に期待

EVの熱に関する問題は、市販車でも課題の一つになっている。連続高速走行による発熱でパフォーマンスが低下する場合があるほか、充電性能が低下するケースもあるようだ。モータースポーツを通した技術開発が、そうした市販EVの性能向上にもつながり、「ゼロエミッション」に貢献することを期待したい。



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FEの「シーズン8」第10戦は、7月2日にモロッコのマラケシュで開催される。今後も、「電気のF1」については、こうした独自の視点からレポートしていきたい。

《石川徹》

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