北米で CHAdeMO がなくなる? 充電規格より問題なのは…

日産リーフ北米仕様
  • 日産リーフ北米仕様
  • 現在の充電規格
  • EV2台を同時充電できるCHAdeMO規格120kW級充電器
  • 3ポートのマルチ充電器
  • Digital Charging Solutions Gmbhの充電器
  • ポルシェ・タイカン・クロスツーリスモ
  • ポルシェ・タイカン・クロスツーリスモ
  • ポルシェターボチャージングステーション

環境技術情報サイトの『CleanTechnica』が9月に、Electrify America(米国の充電サービスプロバイダー)は2022年1月よりCHAdeMO対応の充電器を段階的に廃止していくことを発表した、と報じている。国内外のEVオーナーや業界関係者にとっては小さくないニュースだ。

現在、世界にはCHAdeMO、欧州CCS、北米CCS、GB/T(中国)、そしてテスラのSC(SuperCharger)の5つの急速充電方式(プラグ形状)がある。2種類のCCSはプラグ形状は同じものの欧州と北米では、充電制御方法が異なり、互換性はない。GB/Tは中国の規格であり、テスラは、EVにおいて販売店舗より充電器の方が重要と、当初からプライベート仕様の充電方式を自社で整備している。

このうちCHAdeMOは、世界に先駆け標準化された規格で、EUや北米、その他の国にも対応充電器が広がっている。見方によっては、世界共通の規格だ。国産EVの日産『リーフ』がCHAdeMOを採用し、早くからグローバル展開をしていたからだ。

もちろん、他の国も自国の規格を世界標準したい思惑はある。今回のEAの発表も「北米はいよいよCCS一本に絞る戦略にきた」という見方もある。事実、北米では複数ある規格(プラグ形状)が絞られることを歓迎する声もあがっている。各充電規格は互換性はないものの、変換アダプターは一通り存在する。オーナーは用意するアダプターや充電カードを減らすことができる。プロバイダーや車両メーカーも製品コストを下げることができる。

だが、『CleanTechnica』はこうも報じている。「現在リーフおよびCHAdeMO対応のEV(北米でCHAdeMO対応のEVはリーフだけではない)を所有していても、既存の対応充電器は残る。また、Blink、EVGo、ChargePointはCHAdeMOのサポートは続けるとしている」。

将来的に他社がEAの動きに追従するかは不明だが、各国・メーカーの思惑とは別に、充電規格の一本化(統合)は難しい。EVの背景に世界的な脱炭素・カーボンニュートラルがあるとしても、規制状況や各国のロードマップは一枚岩ではないからだ。カーボンニュートラルは各国、地域のエネルギー資源、インフラ事情に深く依存するため、EUの理想、日本の事情、中国の思惑の妥協案をさぐるより、リージョンごとの規格、戦略で行かざるを得ないからだ。

EV以前でも、排ガス規制や法律の微妙な違いでリージョンモデルが存在していた。充電規格もプラグ形状や充電制御の信号さえ変換するアダプタがあれば、じつは大きな問題にならない。おそらく、中国、北米、EU、日本の4種類が当面の主流となり、車両側は輸出地域に合わせた充電口(と対応ファームウェア)を用意することになる。充電器側も同様だ。もともとリージョンや国ごとに交流電源の電圧や電力契約、安全基準が異なるところに、各国向けの充電器を設計しているはずだ。

わかりやすくいえば、スマホの充電プラグと同じと考えればよい。USBはタイプAからC、AとBにはミニやマイクロなどサイズ違いがある。さらにAppleのLightningなど乱立している状態だが、いまだに統一できていない。かといってユーザーに致命的な不便を与えているかといえば、サードパーティ含む変換ケーブルやアダプタが豊富に存在する。メーカーも機能アップやバッテリー容量アップにともない、コネクタ規格のアップデートは避けられない。EUはiPhoneのプラグを標準的なものにしようとしているが、私企業にとっては競争領域でもあるため、簡単に統合というわけにはいかない。

スマホと同様な状況は、EVの充電規格でも起きようとしている。冒頭のEAのCHAdeMO縮小もそのひとつだが、自動車業界では、EVの高性能化にともない充電器出力の容量アップがひとつの課題になっている。とくにプレミアムカーや今後普及すると見られる小型トラックなどの商用車では、搭載バッテリーの容量が大きくなる傾向がある。テスラやアウディ、メルセデスなどは60~90kWhがひとつの目安になっている。中国では100kWh以上のEVもアナウンスされている。

このクラスになると出力50kW以上の充電器でないと、単位時間あたりの充電量が少なくなり、外充電の効率が悪くなる。テスラはもともと独自規格で当初から70~120kWのSCを整備している。アダプターでCCSでもCHAdeMOでも充電可能だが、専用のSCで充電するのが効率がよい。独自の充電網を自前で整備しているが、走行車両から集められるデータにより、最適なポイントにSCを整備できる。そのため、テスラの充電網(SCとAC200V普通充電のディスティネーションチャージャー)は、オーナーの満足度にも貢献している。

EVの商品力に充電環境を含める戦略はポルシェも採用している。ポルシェはタイカンや今後のハイパワーEV向けに、90~150kWの充電器を設置する計画を発表している。日本向けはCHAdeMO仕様だが、ポルシェディーラーの高出力チャージャーを差別化要素とする。なお、ポルシェは、充電電圧も800V(他は400~500V)と高圧対応とし、充電効率を上げながら、ケーブルやコネクタの熱対策や取り回しの良さをアピールしている。

現在、充電規格は、(プラグ形状)統一よりも高出力化にどう対応するかの課題にシフトしている。CセグメントあたりまでのEVは、出力を求める必要はないが、充電インフラの整備拡充を考えると、大出力充電器をマルチポート化する動きは避けられない。50kWの充電器を複数台設置するより、100kW、150kWの充電設備を整え、ポートを2つ、3つとしたほうがよいという考え方だ。混んでいるときは、最大出力を接続台数で分けて使うが、空いていれば100kW、150kWの充電が可能になる。

《中尾真二》

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