コロナ禍で注目? 中古車が売れる「不吉な前兆」とは

写真のスズキ ジムニーは発売からおよそ3年経つ今も1年の納車待ち。中古車ならすぐ手に入れることはできるが…
  • 写真のスズキ ジムニーは発売からおよそ3年経つ今も1年の納車待ち。中古車ならすぐ手に入れることはできるが…
  • ホンダ ヴェゼル 新型の「PLaY」グレードは約1年の納車待ち
  • トヨタ ヤリスクロスも約半年の納車待ちだという
  • スバル BRZ(左)とトヨタ GR 86(右)初披露から実際の販売開始までに半年以上かかった

最近のクルマの売れ行きを見ると、新車よりも中古車が堅調だ。小型/普通車の場合、新車は2020年に対前年比が87.7%の大幅な減少になったが、中古車は99.7%で横這いだった。

2021年1~7月は、中古車が101.2%と若干増えて、新車は107.9%だから、中古車よりも少し勢いが強い。それでも新車の売れ行きが2020年に約12%減少したことを考えると、本格的に盛り返したとはいい難い。

この背景ではコロナ禍がさまざまな影響を与えている。まず今までクルマを所有していなかった人達が購入を開始した。公共の交通機関を使わずにクルマで移動すれば、感染のリスクを抑えられるからだ。

またリモートワークで通勤の必要が薄れると、自宅にいる時間が長くなる。夕方の6時に勤務が終わると、その瞬間から自由な時間が始まる。感染に気を付けながら、クルマで外出したいニーズも高まった。

ただし新車を買うには、まとまった資金が必要だ。コロナ禍が終息すれば、公共交通機関による通勤を再開するかもしれない。「一時的なコロナ禍のために、新車を買うのはもったいない」という気持ちもある。そうなると価格の安い中古車に目が向く。

その一方で新車の納期が遅れた。今は半導体の不足による納期の遅延が問題になっているが、それ以前からコロナ禍の影響で、パーツやユニットの生産や供給が滞りがちだった。コロナ禍では、多くのユーザーが「クルマをスグに手に入れたい」と考えたから、欲しい新車の納期が長いと諦めるしかない。そこで中古車の需要が伸びた事情もある。

ホンダ ヴェゼル 新型の「PLaY」グレードは約1年の納車待ちホンダ ヴェゼル 新型の「PLaY」グレードは約1年の納車待ち
納期の遅延は今でも続いている。販売店によると「ジムニーの納期は発売以来、約1年で、今でもほとんど縮まっていない」という。「ヴェゼルは大半のグレードが半年で、PLaYは約1年を要する」とのこと。「ヤリスクロスは約半年」という具合で、人気車を中心に納期が半年以上に延びている。

このように人気車の納期が長いと、ユーザーや販売店の間に、諦めた雰囲気が広がってしまう。

また最近の新型車は、車両の内容が発表されてから納車を開始するまでに、長い時間がかかる。例えば『GR 86』と『BRZ』は、2021年4月に初披露されたのに、BRZの受注開始は7月で、販売店によると納車の開始は10月頃だ。86の納車は11月から年末になるという。初披露から実際の販売開始までに8か月も要するのだ。『シビック』なども長い。

今は昔に比べると、新車に対する興味が薄れている。新型車が登場して「欲しい!」と思った時、スグに手に入れられないと、ますますクルマの購入に対する熱意が冷める。

車両の概要を早めに公表して受注を集めておけば、メーカーは生産計画を立てやすい。生産開始と同時に迅速に納車を開始できるので合理的だ。その代わり顧客は長々と待たされ、市場も盛り上がらず、結局は新車の売れ行きを下げてしまう。新車市場を活性化するには、ユーザーの「買いたい気分」を尊重すべきだ。

そして新車の売れ行きが伸び悩むと、やがて中古車の流通台数も減り、自動車業界全体が沈んでしまう。

スバル BRZ(左)とトヨタ GR 86(右)初披露から実際の販売開始までに半年以上かかったスバル BRZ(左)とトヨタ GR 86(右)初披露から実際の販売開始までに半年以上かかった

《渡辺陽一郎》

渡辺陽一郎

渡辺陽一郎|カーライフ・ジャーナリスト 1961年に生まれ、1985年に自動車雑誌を扱う出版社に入社。編集者として購入ガイド誌、4WD誌、キャンピングカー誌などを手掛け、10年ほど編集長を務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様に怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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