【MaaS体験記】地域医療でオンライン診療とドローン医薬品配送…春野医療MaaSプロジェクト

春野医療MaaSプロジェクトで使用する移動診療車
  • 春野医療MaaSプロジェクトで使用する移動診療車
  • 春野協働センター
  • 車内にあるタブレットでオンライン診療を行うデモ
  • リモートで問診を行う小澤医師
  • 医薬品を搭載したドローンの飛行デモ
  • 車両後方から車椅子での乗降が可能

今回の取材は、静岡県浜松市天竜区の春野地区における取り組み「春野医療MaaSプロジェクト」だ。経済産業省の「地域新 MaaS 創出推進事業」の先進パイロット地域として選定され、中山間地域における高齢者の通院や医師不足等の課題解決のため、モビリティと医療分野の連携により地域医療サービスの環境整備を目指す取り組みだ。今回は、報道機関向けの説明会に参加し、オンライン診療のデモンストレーションを取材した。

春野医療MaaSプロジェクトとは

春野町は、静岡県浜松市の中心部から車で約1時間かかる山間部にあり人口約4000人のうち高齢化率50%の地域だ。春野地区には診療所が5か所あり、通院や地域医療の継続が課題となっている。

これまでの取り組みとして、2018年に、磐周医師会が在宅医療や介護に関する調査報告書を策定し「患者は移動できないので医師が出向く」などを提言しており、浜松市は2019年度に、MONET Technologies、杏林堂とそれぞれ連携協定を締結している。2020年に、経産省事業の「スマートモビリティチャレンジ」の先進パイロット地域として選定されているため、今回の実証実験につながった。

浜松市デジタル・スマートシティ推進事業本部専門監の瀧本陽一氏は「浜松市モビリティサービス推進コンソーシアムを中核に、MaaSやモビリティサービスの推進を進めている」と話す。

春野協働センター春野協働センター

オンライン診療のデモンストレーション

報道機関向け説明会は、春野協働センターで行われた。バスで行くには本数が少ない山間部にあり、美しい木組みの屋根をもつ施設だ。説明会のあとに、実際の車両を使ったデモンストレーションに参加した。

春野町で実施するオンライン診療・服薬指導とは、患者さんの自宅に看護師や診療サポートを行うスタッフが専用車両で訪問し、専用車両内で医師とビデオ通話をして行うものだ。今回は、患者さんの自宅と見立てて施設入口に控所を設け、看護師が訪問するときと同じように車両からそちらに移動し、いくつか質問をしてからともに専用車両に向かった。

車内で看護師は助手席で患者さん側を向き、体温と血圧測定を行う。その後、車内に設置したタブレットから医師を呼び出し、医師と患者さんがビデオ通話をするというものだ。車両内は電波が減衰するため電波強度が心配だが、車両にアンテナを埋め込んでおり電波の弱い地域でも利用できるような工夫がされている。

実際に、車外に設置した医師側のタブレットから、車内にいる患者さんに向けてリモートでビデオ通話を実施し問診を行ったが、患者さんからは「やはり、顔が見えるのがいい」と車内から医師の顔が見えたことに安心が持てたようだ。医師側も顔色や表情などが見えることで問診もしやすいと言う。普段のコミュニケーション手段に電話などの音声通話だけを使っているケースだと、今回のオンライン診療に含まれるビデオ通話には大きな期待が持てるだろう。

車内にあるタブレットでオンライン診療を行うデモ車内にあるタブレットでオンライン診療を行うデモ
リモートで問診を行う小澤医師リモートで問診を行う小澤医師

ドローンを用いた医薬品配送

さらに、医薬品配送にドローンを活用したデモンストレーションも実施した。今回選定した機体は、DJI社の産業用ドローン「MATRICE」だ。医薬品を積載するため専用の梱包材で包みドローンに取り付ける。今回は、施設内だけでの飛行テストであったが、高度が高くなると本当に米粒ほどの大きさになり肉眼では見えにくくなる。本実証実験では、3D地図を生成した上で、AI管制システムによる飛行ルート自動生成技術に基づき自律飛行させることで、実運用を想定した、安全性や再現性についても成果を出していきたいとトラジェクトリー代表の小関賢次氏は言う。

医薬品を搭載したドローンの飛行デモ医薬品を搭載したドローンの飛行デモ

専用車両とペルソナの違い

今回の車はトヨタの『ノア』で、医療向けにカスタマイズされた専用車両だ。同じ医療MaaSとして先行している長野県伊那市の専用車両よりミニマムな構成となっており、MONET Technologiesが提供している。特長としては、180度回転する助手席やリクライニング可能な専用シート、車椅子でも乗降できるステップが完備されている。

車両は、簡単に乗降できそうで「先日の患者さんは90歳を超えていたが、サポートスタッフの少しの介助で乗車できた」とMONET Technologiesの加藤卓己氏は話す。ただ、地域医療の課題をもっている医師側からは65歳より高齢でかつ歩行に不安がある方も想定に入れていると言う。そうした方々に対して、自宅まで訪問するこの専用車両を用いて、自宅から車両までの数メートルでも患者さん自身で歩行するキッカケにつながればと話す。

車両後方から車椅子での乗降が可能車両後方から車椅子での乗降が可能

地域医療の課題に対する解決策に

医療課題を抱える自治体は、MONETが対応中の、医療課題を抱える自治体は全国で47自治体はあるという(MONET Technologies資料)。そのうえで春野医療MaaSプロジェクトは「医療×モビリティ」の事例として長野県伊那市などにつづくものだ。地域医療の課題は、高齢化や免許返納、無医師町村など通院したくてもできない場合が多く、在宅医療のニーズが顕在化しつつある。一方、医師側では在宅医療が増え続ければ急性疾患への対応が難しくなり、人手不足に拍車がかかり悪循環に陥る可能性がある。

今回の取り組みでは、それらの課題に対して、専用車両での訪問、オンライン(リモート)診療、ドローンを使った医薬品配送というソリューションで取り組みを進めている。

重篤化を阻止しつつ、慢性疾患者の通院をどのように継続していくのか、モビリティという側面からこの問題に取り組む今回の春野医療MaaSプロジェクトは、医療課題を抱える多くの地域医療に対して、ひとつの解決策として映るはずだ。今後の実証実験にも注目だ。

■MaaS 3つ星評価
エリアの大きさ ★☆☆
実証実験の浸透 ★☆☆
住人の評価 ★★☆
事業者の関わり ★★★
将来性 ★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

編集部おすすめのニュース

Response.TV
  • 動画
  • 動画
  • 動画
  • 動画

特集

おすすめのニュース