【池原照雄の単眼複眼】トヨタ、国内販売網は「全店全車種」扱いに…円滑な縮小均衡に備える

トヨタカローラ店(千葉県内)
  • トヨタカローラ店(千葉県内)
  • トヨタブランド車は全系列での扱いとなる。カローラ店でクラウンを購入することも可能に
  • トヨタ カローラスポーツ

戦後間もなくGMを参考に複数チャンネル化

トヨタ自動車は、国内で販売する全てのトヨタブランド車をトヨタ店やカローラ店など4系列ある販売網の全店で購入できるようにする販売改革に乗り出す。早ければ2019年からモデルチェンジの機会などを捉え、順次、系列ごとの専売車種を全系列での扱いに切り換えていく。将来の新車市場縮小やシェアリングサービスなどの台頭をにらみ、実質1系列とする。需要減による販売会社の統合や店舗削減といった縮小均衡を円滑に進める備えにもなる。

高級車のレクサス店を除くトヨタブランドの国内販売会社は現在4系列・280社で、営業所は約5000店に及ぶ。トヨタは戦後、直ちに国内販売網の強化に乗り出し、1946年(昭和21年)にトヨタ店を発足させ、次いで53年にトヨペット店を開設、日本メーカーによる複数チャンネル化の先陣を切った。

参考にしたのは「キャデラック」や「シボレー」といったブランドごとの事業部制を敷いてシェア拡大につなげた米GM(ゼネラルモーターズ)だった。大衆車からスポーツカーや高級車に至るまで、車種の拡大に合わせて販売を伸ばすため、モデルに応じて流通経路を複数にしたGM方式を倣ったのだ。

地場の有力資本とシェア拡大への好循環つくる

トヨタは1960年代から70年代までに「フルライン体制」をキャッチフレーズとして国内販売網の多チャンネル化を進めた。トヨタ店、トヨペット店に続いて61年には大衆車『パブリカ』を扱うパブリカ店を発足。この系列には66年に発売の『カローラ』を投入し、69年からはカローラ店に改称した。さらに68年には、元々はカローラの派生車種だった『スプリンター』を主体とするオート店が発足。そして、80年には既存の販売会社以外の有力資本の参画も狙ったビスタ店を加え、最多の5系列としていた。

各系列には『クラウン』はトヨタ店(一部トヨペット店)、『マークX』はトヨペット店(一部トヨタ店)、『カローラ』はカローラ店―といったチャンネルごとに専売車種を投入して顧客を開拓するとともに、販売会社の経営安定にもつなげた。

トヨタの販売会社には地域のバス会社など地元の有力資本が続々と参画し、盤石ともいえる販売網を築いた。現在でも約9割の販売会社がこうした地場資本であり、メーカー直営の販売会社が多い他社と決定的に違う態勢だ。収益を重視する地場資本の会社は、「売れるクルマ」を厳しくトヨタに求め、トヨタもそれに応えて良質なモデルを生み出すという好循環を生み出した。

新車市場縮小への対応が待ったなし

日産やホンダ、マツダも多系列化を推進したものの、それに見合う商品開発が十分でなかったこともあり、トヨタ追撃は叶わなかった。90年に国内新車市場が777万台とピークに達し、それ以降、減少局面に入るなか、メーカー各社は販売チャンネル政策の変更を迫られた。一時トヨタ同様5系列としていた日産は99年に2系列、そして2011年からは全店全車種販売の日産店に一本化した。ホンダは80年代に発足させた3系列を06年にはホンダカーズに統合している。

トヨタも、99年にオート店をネッツ店に改称、さらに04年にはビスタ店と統合した新ネッツ店とするなどの見直しを行った。それでもトヨタのみが今なお複数チャンネルを温存している。日本メーカーだけでなく、かつてトヨタがお手本としたGMも09年の経営破たんを機に翌10年までに大型SUVの「ハマー」、スポーティーカーの「ポンティアック」などのブランドを廃止し、「キャデラック」、「シボレー」など4ブランドに縮減させている。

国内の登録車市場で5割近いシェアをもつトヨタだが、少子高齢化やシェアリンングなど利用形態の変貌による新車市場の縮小への備えが待ったなしとなっている。全店全車種扱いは20年代の半ばまでに完了する見込みで、現在約60車種に及ぶモデル数も大幅に整理されることになる。

サバイバルへの変革を迫るトヨタ

かつて、多チャンネル化が進められた1970年代から80年代、国内の新車販売業界では「トヨタの敵はトヨタ」と囁かれる状況にあった。チャンネルの異なるトヨタの販売店同士が顧客獲得にしのぎを削ったのだ。しかし、市場の成長期だったため、販売競争はオールトヨタの活力となり、シェアの拡大につながった。

だが、需要が減退期に入るなかでの全車種扱いという大改革は、トヨタ販売店同士によるシビアな競争をもたらし、やがて店や会社をたたむというケースも出てくるだろう。ただ、幸いというべきか、トヨタの販売会社は地場資本が複数の系列店を運営するケースが多い。たとえば、千葉県では千葉トヨペットを中核とする「トヨタ勝又グループ」が、カローラ店やレクサス店なども経営し、さらに東京都と埼玉県にも販売会社を配している。

こうしたケースでは市場の動向や各店の経営状況を見ながら、企業グループとして痛みの少ない縮小均衡を図ることも可能となろう。トヨタの販売店は今後、カーシェアリングなど新たなモビリティーサービスへの参入で新業態の開発も進めていく。全店全車種扱いは、トヨタが販売会社にサバイバルのための変革を迫るシビアな通達でもある。

《池原照雄》

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